2016年12月31日土曜日

卓廉士先生の『黄帝内経』術数講義:経脈の長さと営気の流注について その6 終わり

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 『漢書』芸文志に次のような記載がある。「哀帝(BC6―BC2)復使向子(劉向の子)侍中奉車都尉歆(劉歆)卒父業。歆於是總羣書而奏其『七略』、故有『輯略』、有『六藝略』、有『諸子略』、有『詩賦略』、有『兵書略』、有『術數略』、有『方技略』〔哀帝、復た向の子、侍中奉車都尉歆をして父の業を卒(お)えしむ。歆、是(ここ)に於いて群書を總べて而して其の『七略』を奏す。故に『輯略』有り。『六藝略』有り。『諸子略』有り。『詩賦略』有り。『兵書略』有り。『術數略』有り。『方技略』有り〕」。劉向と劉歆が輯録した『七略』は数術・方技学の最も古い目録であると考えられるが、早くに亡佚している。『漢書』芸文志に記載される「凡數術百九十家、二千五百二十八卷」という数字によれば、その巻数は非常に浩瀚であり、「『黄帝内経』十八卷」に比べれば、かつて一世を風靡した顕学〔著名な学問〕であったことは疑いない。数術の原理は秦漢各家の学説で共用されており、中国古代自然科学・社会科学・哲学の各方面に浸透していて、当然、医学もその例外ではなかった。『素問』針解は「夫一天、二地、三人、四時、五音、六律、七星、八風、九野、身形亦應之、鍼各有所宜、故曰九鍼。人皮應天、人肉應地、人脉應人、人筋應時、人聲應音、人陰陽合氣應律、人齒・面・目應星、人出入氣應風、人九竅・三百六十五絡應野。故一鍼皮、二鍼肉、三鍼脉、四鍼筋、五鍼骨、六鍼調陰陽、七鍼益精、八鍼除風、九鍼通九竅、除三百六十五節氣、此之謂各有所主也。人心意應八風、人氣應天、人髮・齒・耳・目・五聲應五音・六律、人陰陽脉・血氣應地、人肝・目應之九」という。数術と中医理論は密接に結びついており、分けることはできない。『霊枢』根結に「一日一夜五十營、以營五藏之精、不應數者、名曰狂生」とある。古代人の観念では、数術を放棄して臓腑経脈と営衛の流注を論ずることなど、想像もできなかったのである。

 しかしながら、漢代では、ひとびとは数術は「破碎して知り難し」(『漢書』芸文志)とすでに慨嘆していた。年代的にかなり古く、系統だった資料が欠乏しているため、『内経』に見られる数術の記述について完全な解釈を得ることは難しい。たとえば、前述の肝・心・脾・肺・腎の五臓は、五季・五方・五体・五音・五穀などと聯繋して、いずれも五数で応じているが、それぞれ、「八」「七」「五」「九」「六」という天地生成の数に属しており、その間の縦と横との関係はどうなっているのであろうか。また『霊枢』五音五味は「夫人之常數、太陽常多血少氣、少陽常多氣少血、陽明常多血多氣、厥陰常多氣少血、少陰常多氣少血、太陰常多血少氣、此天之常數也」という。これらの「常数」とはつまるところいくつなのか。すべてはさらなる研究が待たれる。

 とはいえ、経脈の長さと営気の流注は、ひと組の願いとして、天道が感応聯繋を生じる数術演繹であることには、疑いない。しかしながら、数術は数学ではないので、結論として証明するのは容易ではない。それは、九天の高さと九地の深さを測ることができないのと同じである。この考え方は、経脈の研究に非常に有益である。なぜなら、少なくともわれわれは、呼吸の回数、脈拍数、心拍数、心脈符号度〔*未詳〕、血流速度などの現代医学の指標から、経脈の長さと営気の流注を研究する糸口を見いだすのは困難であることを知っているから。現代科学の方法を採用し、営気の流注を「新たに評価し、あわせて慎重に検証する」ことを主張する学者[3]もいるが、着手するには困難がつきまとうと思われる。もし、数術には証明するすべがないことを理解するなら、おそらく現代実証科学の手段をもちいる、営衛流注研究の実行可能性について、反省するところがあるであろう。


[1]列維・布留尓『原始思維』、丁由訳。北京:商務印書館、2004。
[2]卓廉士「感応・治神与針刺守神」、『中国針灸』、2007、27(5):383-386。
[3]王鴻謨「営気流注分析評价」、『中国針灸』、2005、25(1):49-52。

訳注:
1:レヴィ・ブリュル著、山田吉彦訳『未開社会の思惟』(岩波文庫)の該当箇所の翻訳は、上巻263頁が相当すると思われる。以下、転載する。「各〃の數はこのようにその數に特有な個別的相貌、それに獨特な神秘的雰圍氣、勢力作用圏を持っている。」「原始人は數を、數として表象するときは毎回必ず、それと一緒に等しく神秘的な融卽によって、その數、しかもその數だけに屬する神秘的な作用力、價値を表象するのだ。數とその名稱は差別なく融卽の仲介物である。」
2:山田吉彦訳、上巻264頁「かく神秘的雰圍氣に包まれた數が、殆ど、十を越えることが大してないことは、注目すべきである。」
3:「日行二十分有奇」。著者は『鍼灸甲乙経』巻一第九によって校勘した河北医学院『靈樞經校釋』によっていると思われる。「奇」は端数、あまり。
4:『類経』巻8-26。「不盡」は数学用語「不尽小数」(無限に連続する小数)の略。無限小数。

みなさま,よいお年をお迎えください。

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