四 腧穴症治の接合
古医籍の症状に関する記述には主に二つの種類がある。第一は,内在的な関連のある症状の集合であり,その典型的な代表は『傷寒論』である。第二は,独立した症状の羅列であり,その典型的な代表は『神農本草経』である。形式的にはこの二つの文章に違いはないが,両者の意味は本質的に異なるので,二つの異なる性質の症状の記述を区別することは,臨床はもちろん,理論学習においても,非常に重要な意義がある。
『甲乙経』に収録された『明堂経』の腧穴主治病証の多くは第一類に属する。例:
膝內廉痛引髕,不可屈伸,連腹引咽喉痛,膝關主之。(『甲乙経』巻十第一下)
個別に見るならば,上記の「膝関」穴の主治は,「膝内廉痛」「少腹痛」「咽頭痛」という三つの独立した病症を治療すると理解されることが多い。しかし,足の厥陰の「是動」病は,陰疝〔鼠蹊ヘルニア〕の典型的な症状の説明であり,なおかつ「膝関」穴以外の『明堂経』に掲載されている下肢部にある足の厥陰経穴が,明確に「陰疝」を主治としていることを知っていたら,上記の膝関穴の主治は,実際には陰疝の一連の症状であると判断することは容易である。そのうえ,「曲泉」穴の主治と結びつければ,この判断を確実にすることができるし,同時にこの判断に基づいて『明堂経』の膝関穴の主治原文に対して以下のような更に正確な理解をすることができる。
[陰疝]少腹痛,上引咽喉痛,下引股膝內側痛不可屈伸,膝關主之〔[陰疝]少腹痛み,上は咽喉に引きて痛み,下は股膝內側に引きて痛み屈伸す可からず,膝關之を主る〕。
このように表現すれば,膝関穴の主治の意味が一目瞭然になる。「膝内廉痛」「少腹痛」「咽喉痛」は三つの独立した病証ではなく,同じ病,つまり陰疝の一連の症候群なのである。この点を認識することは臨床診療にとって非常に重要である。なぜなら前の情況では三つの症状が同じ病証の一連の症候群に属しているため,それはあたかも一つのスイッチで制御されているかのようである。しかし後ろの情況では三つの症状が独立した三つの病証となり,それぞれ三つのスイッチによって制御されることとなって,臨床上,治療の考えかたが大いに異なることになる。
経穴主治における症候群を鑑別する重要な意義はここにある。内在的に関連する一連の症候群を識別できずに,その中から任意に一つの症状を切り取ることには,意味がない。なぜならこの穴の主治の特徴を反映できないためである。これは一穴の持つ「単一目標点」の作用を「多目標点」の作用と誤解するようなもので,このようなことをしては,経穴主治の客観的な法則をまとめることはできない。残念なことに,現代人は長い間『甲乙経』や『明堂経』に記載されている腧穴は,個々の孤立した病証を主治するものと理解してきた。おなじく残念なことは,『明堂経』の原本が早くに失われたために,『甲乙経』から『明堂経』原本の腧穴主治病証の配列順序が復元できず,症状群の鑑別がさらに難しくなっていることである。
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