卷上・一オモテ(629頁)
鍼灸遡洄集卷上 〔『鍼灸遡洄集』卷(けん)の上〕
東武高津松悦齋 敬節纂輯
(1)診腹緫論
診腹之法正心端正容皃舒緩手皃安靜尤忌麤
厲(時氣寒凉請爐火或/懷之先試自己之膚)
而後令患人仰臥安手伸
足解帶暫候其呼吸而後先摩撋胷上以至腹臍
診其周圍及高下平直至胷上察腠理之潤枯皮
膚之堅脆虗里之動以知心肺之病宗氣之虗實
三脘脾胃之部兩脇下肝之候及至臍間元氣之
所繫十二經之根本有余者爲腫爲痛曰實不足
卷上・一ウラ(630頁)
者爲痒爲麻曰虛氣速効速氣遲効遲死生貴賤
針下皆知賤者硬貴者脆生者澁死者虗候之不
至必死無疑医之可專第一也然近代利口士者
謂意心傳授之法而深藏此義矇昧之士不知有
此義素靈難經散在之文詳録于後備参考而已
雖然以手於可知考猶大切之有口傳妄不可記
【訓み下し】
(1)診腹(しんぶく)の總論
腹を診(うかご)うの法は,心(こころ)を正しうし,容皃を端正し,手皃を舒緩にし,安靜にして尤も麤厲を忌む。(時氣寒凉には,爐火を請い,或いは之を懷(ふところ)にし,先ず自己の膚(はだえ)を試(こころ)む)而(しこう)して後(の)ち,患人をして仰(あおの)き臥さしめ,手を安んじ足を伸べ,帶を解き,暫く其の呼吸を候(うかご)う。而して後ち,先ず胸上を摩(さす)り撋(な)でて,以て腹臍に至って,其の周圍を診(うかが)い,及び高下・平直に胸上に至って,腠理の潤枯・皮膚の堅脆・虛里の動を察し,以て心肺の病を知り,宗氣の虛實,三脘脾胃の部,兩脇の下,肝の候い,及び臍間元氣の繫(かか)る所,十二經の根本に至って,有餘の者は,腫を爲し痛みを爲す。實と曰う。不足の者は,痒を爲し麻を爲す。虛と曰う。氣速(すみ)やか効速(すみ)やかなり。氣遲ければ効遲し。死生・貴賤,針下皆な知る。賤者は硬し。貴者は脆(もろ)し。生者は澁る。死者は虛す。之を候(うかご)うて至らず,必ず死すこと疑い無し。医の專らとす可き第一なり。然れども近代利口の士は,意心傳授の法と謂うて,深く此の義を藏(かく)す。矇昧の士は,此の義有ることを知らず。『素』『靈』『難經』散在の文,詳(つまび)らかに後(しりえ)に錄(しる)し,參考に備うのみ。然りと雖も,手を以て考え知る可きに於いては,猶お大切の口傳有り,妄りに記(しる)す可からず。
【注釋】
○診腹:添え字に従い「しんぶく」としたが,「しんぷく」と読むべきかも知れない。 ○遡洄:逆流而上。流れをさかのぼる。→源に行き着く。明・王履(1332--1391)『醫經溯洄集』あり。書名の由来は,これによるのであろう。 ○東武:武蔵(むさし)国の異称。江戸の異称。 ○高津松 ○悦:実際に書いてあるのは「恱」字。「悦」の異体字。舩=船。 ○纂輯:編集。/纂:編輯。匯聚、招集。/輯:蒐錄後整理。 ○緫::「総・總」の異体字。 ○容皃:=容貌。「皃」は「貌」の異体字。○麤厲:大きな耳障りな声で話すこと。/麤:実際に書いてあるのは「鹿+々+々」字。「粗」の異体字。 ○時氣:氣候;天氣。/気候の変動により流行する伝染病の意味もある。 ○爐火:爐子裡的火。 ○懷:実際に書いてあるのは「月+懐-忄」字。 ○膚:(ハダヘ)。皮膚。はだ。 ○而後:以後。然後。そのあと。そうして初めて。 ○仰:アオノキ。あおむいて。 ○摩:兩物接觸後,來回擦動。撫摸。 ○撋:兩手相搓揉。to rub between the hands. ○胷:「胸」の異体字。島=嶋=嶌。枩=松。峯=峰。咊=和。秋=秌。 ○平直:平與直;平而直。/直:不彎曲的。縱的、豎的。 ○腠理:腠理(Subcutaneous tissue),泛指皮膚、肌肉、臟腑的紋理及皮膚、肌肉間隙交接處的結締組織。《素問.瘧論》說:「故風無常府,衛氣之所發,必開其腠理,邪氣之所合,則其府也。」腠,又稱肌腠,即肌肉的紋理,或肌纖維間的空隙;理,皮膚紋理,即皮膚上的縫隙。唐代王冰註:「腠,為津液滲泄之所;理,謂文理逢會之中。」「腠理,皆謂皮空及紋理也。」因而可以認為,肌肉和皮膚的間隙相互溝通,共稱為腠理。腠理,是滲泄體液、流通氣血的門戶,有抗禦外邪內侵的功能。腠理與三焦相通,三焦通行的元氣和津液,外流入於腠理,以濡養肌膚,並保持人體內外氣液的不斷交流。《素問.陰陽應象大論》說:「清陽發腠理」。張仲景《金匱要略.臟腑經絡先後病脈證》說:「腠者,是三焦通會元真之處,為血氣所注;理者,是皮膚臟腑之文理也。」/『東洋医学概論』:44頁。 ○脆:原文の添え仮名「ギ」。 ○虗里:胃之大絡名。十六絡脈之一。《素問.平人氣象論》:「胃之大絡,名曰虛里。」位於左乳下心尖博動之處,是宗氣的表現,宗氣以胃氣為本,故稱作胃之大絡。/虗:「虛・虛」の異体字。 ○宗氣:生理學名詞。指積於胸中之氣,由水穀精微化生的營衛之氣與吸入自然界清氣總合而成。具有走息道以行呼吸。貫心脈以行氣血的功能。《靈樞.邪客》:「故宗氣積於胸中,出於喉嚨,以貫心脈,而行呼吸焉。」/ 中醫學指由水穀精微化生,聚積胸中,與呼吸之氣相合發揮作用的氣。宗氣聚於兩乳之間的膻中。走息道而行呼吸,凡語言、聲音、嗅味、呼吸皆與宗氣有關。同時還有維持氣血運行、維持心臟運動、維持肢體體溫與活動能力的作用。/『東概』43頁。 ○三脘:上脘・中脘・下脘。 ○元氣之所繫:三十六難曰:……命門者,諸神精之所舍,原氣之所繫也。 ○十二經之根本:八難曰:……諸十二經脈者,皆係於生氣之原。所謂生氣之原者,謂十二經之根本也,謂腎間動氣也。 ○有余:有餘。有剩餘。超過足夠的程度。 ○實:虛實:①八綱辨證中辨別邪正盛衰的兩個綱領。邪氣盛為實證,正氣衰為虛證。《素問.通評虛實論》:「邪氣盛則實,精氣奪則虛。」/『東概』:16頁。 ○痒:実際に書いてあるのは{疒+半}ヨウ。音から「痒」。癢:由血虛而致者,皮膚乾燥作癢,搔起白屑。血虛作癢(itching due to blood deficiency),皮膚變厚、乾燥、脫屑、拆裂,很少糜爛流滋水的表現。 ○麻:知覺喪失或變得遲鈍。如:「麻醉」、「麻木」。《丹溪心法》〔舊題元代朱震亨撰,明代程充校訂。刊於1481年。此書並非朱氏自撰,由他的學生根據其學術經驗和平素所述纂輯而成〕對此進行的解釋為:“手足麻者屬氣虛”,也就是說,氣血虧虛,會導致手麻。/麻木爲症狀名。見《素問病機氣宜保命集》〔金·劉完素撰於1186年〕。是指肌膚感覺障礙,或如蟻行感,或如觸電感,或皮肉不仁如木厚之感的表現。“麻”,非痛非癢,指自覺肌肉內有如蟲行感,按之不止,搔之愈甚;“木”指皮膚無痛癢感覺,按之不知,掐之不覺,如木厚之感。麻木由氣血俱虛,經脈失於營養;或氣血凝滯;或寒溼痰瘀留於脈絡所致。 ○利口:口齒伶俐,能言善辯。頭がよいこと。賢いこと。要領よく抜け目のないこと。【巧言利口】虛偽的言辭,鋒利的口才。巧みにものを言うこと。口先のうまいこと。 ○士:對人的美稱。 ○意心傳授:【以心伝心】仏語。ことばでは表わせない悟りや真理を心から心へと伝えること。 ○矇昧:蒙昧。昏昧;愚昧。昏昧不懂事。【蒙昧無知】形容智識未開,不明事理。 ○素靈難經:『素問』『靈樞』『難經』。 ○雖然:縱然如此。即使如此。たとえそうだとしても。 ○考:稽核、檢查。測試。探究、研究。
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