3.5 募刺法
長期にわたって,鍼灸治療は躯体の病気を主とし,内臓病は湯薬治療を主としていた。いわゆる「鍼灸はその外を治し,湯薬はその内を治す」である。この鍼治療のタブーを打ち破ったのが,長鍼による「募刺法」である。
募刺法とは,深く刺して腹膜まで達し,さらには腹膜を貫通して内臓の肓膜と臓腑の募まで至ることもある刺法を指すので,著者はこれを「募刺法」と呼んでいる。
他の筋病刺法に比べて募刺法が完成したのは遅く,『霊枢』経筋篇が編纂された時点では,募刺法はまだ明確な臨床応用を得ていなかった可能性がある。そのため内部の筋急による病に対しては,この篇は依然として「内に在る者は熨引して薬を飲ましむ」という伝統的な方法を踏襲しており,「募刺法」には言及していない。
「募刺法」は技術の難易度が高いため,漢以降は隠れて目立たず,宋・元の間で再発見された後,間もなくまた失われた。明代の朝鮮の太医は中国の鍼灸経典に記載されている募刺法の鍼感と鍼の効果に対する記述に基づいて,繰り返し試験をおこなったことで,再び募刺法の操作が世に現われた[2]186が,明代以降また沈み隠れてしまった。
[2] 李守先.中医名家珍稀典籍校注丛书:针灸易学校注[M],高希言,陈素美,陈亮校注.郑州:河南科学技术出版社,2014.〔『針灸易学校注』の総頁数は141頁である。頁数が誤っているか,あるいは,内容からすれば[2]は[4](許任『鍼灸経験方』)の誤りか。〕
現代の芒鍼療法における腹部直刺深刺法は古典文献を参考にすることなく,意図せず古典鍼灸の募刺法を再発見し,この失われて久しい鍼法を再び鍼灸界に再現させたものである。
20世紀70年代の中国医学と西洋医学の結合による,鍼によって急性腹症を治療する研究において,腹部の深刺法による臨床試験と動物実験の結果によって,「腹部への深い鍼の刺入は,肝臓・脾臓・胆嚢・膀胱に軽度の損傷をもたらす以外は,その他の臓器に対する明らかな損傷はない」[14]ことを示した。これらの初期の研究結果によっても,一定程度の募刺法の有効性と安全性が実証された。現在,画像検査と操作の標準化によって,内臓の肓膜と募穴を深く刺す募刺法は,その安全性が大幅に向上した。また鍼具の改良に伴い,患者の苦痛は大幅に軽減され,コンプライアンスも向上した。
[14] 党正祥.深针刺在急腹症中的应用及实验研究[J].陕西中医,1988,9(5):237.
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