2024年7月5日金曜日

黄龍祥『筋病刺法の進展と経筋学説の盛衰』4.2

  4.2 ドライニードル療法と筋病刺法


 まず指摘しなければならないのは,西洋のドライニードル・トリガーポイント刺法は,古典鍼灸の筋刺法の一つである「貫刺法」とのみ比較可能性があるだけで,筋刺法全体,さらには鍼刺法全体とは同列には論じられないということである。両者の違いは少なくとも,以下の三点に現われている。

 (1)中国鍼灸は「鍼 病所に至る」と「気 病所に至る」という理念に基づいて,直接筋を刺す「燔鍼劫刺」,それに「貫刺法」と筋の外を刺す「挑刺法」「分刺法」,およびその延長線上にある刺法など,多くのすぐれた治療効果のある定番となる刺法を創始し,臨床応用により多くの選択肢を提供しただけでなく,さらには筋病治療の機序研究により多くの構想と道筋を提供した。一方,ドライニードル療法はその理論的視点の制約により,中国鍼灸の「鍼 病所に至る」という理念に基づく「貫刺法」を理解し,発掘することができるだけで,中国鍼灸の筋病刺法の中で治療効果が顕著な他の刺法を理解することは難しく,意識的に応用することは一層困難である。

 (2)中国鍼灸の筋病診療には筋急と筋縦の二つが含まれる。寒(ひ)えれば則ち筋は急(ひきつ)り,熱ければ則ち筋は縦(ゆる)む。筋が急(ひきつ)る病は燔鍼劫刺で治療し,筋が縦(ゆる)んだ場合は分刺で治療し,温法は用いない。一方,ドライニードル療法は陰陽観と全体観が欠如しているため,筋病の一側面しか見ることができず,その全体を認識することができないので,中国の鍼灸において長期にわたって用いられ,しかも非常に効果のある「分刺法」などの筋病治療における独特な意義を理解することができない。

 (3)理論を構築する上で,虚空構造に重点を置く鍼灸学の大きな背景の下にある経筋学説は,筋肉と筋膜を統一的な構造機能の全体,そしてこの全体の中で筋肉の付着構造である「結」と筋肉を包む「膜筋」をより重視するなかで構築された。一方,実質構造に重点を置く現代の主流となっている医学の土壌の中で生長したドライニードル療法は,機序の研究では筋肉に着目し,治療においても筋肉に焦点を当てたドライニードル貫刺法を採用している。理論的視点と枠組みが異なるため,中国医学と西洋医学は筋病を観察する際に異なる重点を捉えられる。

 貫刺法であっても,ドライニードル療法は中国の鍼灸とは臨床応用においても違いがある。前者はトリガーポイントを貫刺するだけで,効果がなければもう一度刺す。後者は臨床上,つねに内熱法や輸刺法などの方法と組み合わせて使われる。経筋病の治療効果の基準は「筋が柔らかくなる」ことを効果ありとしているが,筋が柔らかくなっても脈が和平になっていなければ,やはり脈に基づいて本輸を取って虚実を調えて,平を以て期と為す〔『素問』三部九候論〕からである。

 元代の『鍼経摘英集』の鍼による痛証治療はこの点をあらためて明らかにしており,筋病刺法を用いて最も痛む点を輸として痛証を治療した後に,さらに「経に随って穴を刺す」〔『鍼経摘英集』治病直刺訣/治腰背俱不可忍:「而隨經刺穴即愈」。〕必要がある。現代中国で最も早い結筋点貫刺法を用いて肩腕痛治療に成功した症例報告にも同じくこの特徴が反映されている[13]。

    [13] 江一平. 针灸肩臂痛病案介绍[J].江苏中医,1963(1):26-27.

 「脈の調和」は古典鍼灸学ないし中国医学全体の究極的な指標であり,全体調整を重視することは中国医学のはっきりとした特徴であり,強みでもある。


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