2024年7月7日日曜日

黄龍祥『筋病刺法の進展と経筋学説の盛衰』5

   むすび


 (1)経筋学説の基本概念である「筋」は,筋肉とその付着構造の総称であり,筋肉を包む外膜もこれに含まれる。病理的核心概念である「筋急」は,筋が寒邪に中(あ)たって攣急するところを指す。「筋急」が長い間解けないと硬結となるが,これを「結筋」という。経筋病の治則治法には三つの鍵となる概念がある。「痛むを以て輸と為す」とは筋が急(ひきつ)るところ,最も痛む点を輸とすることを指す。「知るを以て数と為す」とは,鍼尖が最も痛む点に命中して,患者が痛さに耐えられず,医者は局部の筋肉が痙攣するのがわかることを「知る」という。知ることがあれば良い効果があるので,「知るを以て数と為す」という。痛む輸に正確に刺して,患者が痛さに耐えられなくとも強いて刺すのを「劫刺」という。さらに鍼を焼いて熱を加えることを「燔鍼劫刺」という。

 (2)経筋が「結ぼれる」場所は,筋の診どころであり,筋病刺法の常用部位,つまり筋病診療の標的でもある。標的が不明であれば,鍼をほどこしても的のないところに矢を放つようなもので,治療効果は評価しようがない。したがって筋病刺法の長所を活かすには,まず経筋が結ぼれる場所を明らかにしなければならない。

 (3)筋病刺法には,鍼が病所に至る燔鍼劫刺・貫刺法と,筋の外を刺す挑刺法および輸刺法・募刺法・分刺法,その延長線上にある刺法が含まれる。『霊枢』官針に記載されている「恢刺」と「関刺」は名称は異なっていても同じ定番の刺法である。かつまた「関刺」は『太素』に記載されている「開刺」という表記の方が意味としてまさっている。トリガーポイントへのドライニードル貫刺は,筋刺法中の貫刺法を再発見してものにすぎず,筋病刺法全体と比較することはできないし,ましてや鍼刺法全体と同列に論ずることはなおさらできない。

 (4)筋病刺法の浮沈は,経筋学説の盛衰と密接に関連しており,その復興には同様に理論,特に基層理論の革新が頼りである。「挑刺法」「分刺法」「輸刺法」などの筋病刺法の中で筋の外への鍼法の理をはっきり説明するには,できるだけ実験的な方法を用いて,筋と脈,筋肉と筋膜,その他の実質構造と被膜・隔膜との関係を解明し,これを基礎とした上で,「渓」「谷」「結」「節」「兪」「気街」「気穴」などの鍼灸学の基本概念の形態構造と生理学的意義を明らかにし,二千年以上前に『黄帝内経』が提唱した鍼灸学用の人体形態学——人体空間構造解剖学を構築しなければならない。


  参考文献

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