2024年12月29日日曜日

黄龍祥 老官山から出土した金傷死候簡からみた傷科と法医学・鍼灸学による人体の急所に対する認識 4.3

 4.3 異なる学科間の互恵的なコミュニケーションと統合研究の特殊な意義


    注目に値することは,老官山から出土した11枚の金傷医簡が『六十病方』の「金傷」治方の一部としてではなく,医経の『脈書』の中に現われたことである。このような例はほかにもあり,類似した文章は伝世医籍の中でも「金瘡論」という形式で金瘡方の冒頭に置かれている。このことは,これらの文章がすでに多くの実践に基づいてまとめられ,法則と理論のレベルに達したことを示している。

    老官山から出土した金傷死候簡を手がかりとすることで,伝世文献の「金創」理論の発生と進化を整理するための明確で信頼性のある座標点が得られたのみならず,傷科理論の新たな研究方向が切り開かれ,なおかつ,金創死候に反映されている人体の急所に関する認識を紐帯として,傷科・法医学・武術・鍼灸学を理論の基盤として有機的な関連を形成することができ,金傷・法医学・武術・鍼灸学という異なる学科の学術史の研究を同じプラットフォーム上で展開するための絶好の切り口が提供され,これによって異なる学科の視点から同じ理論問題を研究することが可能になった。それと同時に理論革新研究の新しい構想,新しい経路でもあり,縦断と横断の比較研究を通じて,人体構造に関連する異なる学科が異なる実践経験に基づいて構築された理論は極めて高い類似性を持っているので,この理論の信頼度は強力な確証を得ているだけでなく,この理論には高い普遍性があり,異なる学科の実践に有力な理論的支柱を提供できることを示している。

    孤立して単一学科の歴史背景からのみ考察すると,歴史の真相をはっきり見ることが難しい時もあるが,今回の老官山金傷死候簡の出土は,学術史に多学科が交流し,統合して研究する絶好の機会を提供し,同時に出土文献のかけがえのない価値も最大限にあらわれている。

    もし中国医学内部の関連分野でコミュニケーションや統合ができないのであれば,現代医学とのコミュニケーションや融合など,どうして議論できようか。実際,人体の急所に関する認識は現代医学の基盤である人体解剖学と直接関連している。もし中国医学内部の異なる分野が人体の急所の認識に関して共通の理解を持ち,さらにすすんで法医学の検査とも効果的にコミュニケーションを取ることができるならば,現代解剖学と直接対話するための道が開けるだろう。もし人体解剖学とコミュニケーションができれば,現代医学との交流は時期の熟した段階になる。これも老官山から出土した金傷死候簡によって誘引された多学科交流研究の最も深く,最も重大な意義であるが,紙幅に限りがあるので,ここでは論じられない。

    中国医学内の異なる学科の間であれ,中国医学と西洋医学の間であれ,効果的なコミュニケーションをおこなうには,その前提となるのはすべて基礎理論の用語と定義の規範化である。人体の急所という点から見ると,中国医学関連学科と中国古代の法医学鑑定には,用語の規範化に多くの問題が存在する。そのうえ,鍼灸学以外の学科の関連用語はほとんど定義がなされていないし,関連する図もないか,あっても時期が遅く,また精度が低い。これらの最も基礎的な問題の解決に力を入れてはじめて,中国医学の学術研究の全体的なレベルを高めることができ,中国医学と現代医学のコミュニケーションが効果的,効率的になり,互いに恩恵を受け,互いに参照しあう目的に到達することができる。


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