2024年12月29日日曜日

黄龍祥 老官山から出土した金傷死候簡からみた傷科と法医学・鍼灸学による人体の急所に対する認識 5

 結び 


    老官山から出土した金傷死候簡の「絲(系)骨」は,すなわち宋代の骨解剖を専門に論じた『聖濟總錄』骨度統論篇にいう「肺系骨」であり,気管を指す。「辨䐃」とは,肢体の大きな筋肉が横に断裂した傷を指す。「百節帶會」は,「百節總會」というのと同じであり,頂心を指し,百会穴があるところである。「三毛」は,すなわち伝存する金傷の源となった文献にいう「攢毛」であり,陰部の叢毛を指す。「嬰」「纓」の用法は,頸部を指すことに限定されず,頭・首・体幹の環状にアクセサリーをつけるのに適した部位はすべて「嬰」「纓」と呼ぶことができる。ただ頸部は最もよくつける部位なのでそのまま「嬰」「纓」と呼び,その他の部位の場合は「嬰」「纓」の前に具体的な部位名をつけなければならない。

    老官山から出土した11枚の金傷死候簡は,傷科の人体の急所に対する認識を反映しており,伝存する金傷文献の中では,『諸病源候論』巻36・金瘡初傷候に収録された金傷の致命傷部位がこれに最も近い。

    人体の急所に関する認識については,11枚の金傷簡は伝存する金傷文献と関連性が高いだけでなく,傷科・法医学・鍼灸学という異なる学科間の認識も非常に近い。この発見は,異なる学科理論の信頼性に有力な多重証拠を提供するだけでなく,同時に中国医学内部の異なる分野や中国医学と法医学,ひいては現代医学などの異なる学科との間で有効なコミュニケーションができることを示しているが,コミュニケーションの重要な前提の一つは関連用語と定義の規範化である。具体的には人体構造の表現は規範的な文章とともに,さらにそれとマッチングする図が必要であるが,この二つの面では中国医学はかなり多くの問題が存在し,有効な解決策が急務である。

    出土文献の価値を十分に発掘できるかどうかは,研究者の伝世文献(異なる時期に地下と地上で発見された文献を含む)研究の深さと広さ,および関連学科の学術史研究の基礎に大きく依存する。これに基づくことによって,我々ははじめて中国医学の学術発展全体の輪郭を描くことができる。出土した文献の断片は,この全体の画面上でその元々あった位置を正確に探しあてた時に,その意義と価値をはじめて真に明らかにすることができる。


  参考文献 〔譯文では,段落末に移動して表示した。〕

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