●黄帝八十一難經序
黄帝八十一難經。是醫經之祕〔秘〕録也。昔者岐伯以授黄帝。黄帝歷九師以授伊尹。伊尹以授湯。湯歷六師以授太公。太公以授文王。文王歷九師以授醫和。醫和歷六師以授秦越人。秦越人始定立章句。歷九師以授華佗。華佗歷六師以授黄公。黄公以授曹夫子。夫子諱元字眞道。自云京兆人也。葢〔蓋〕授黄公之術洞眀〔明〕毉〔醫〕道。至能遥〔遙〕望氣色徹視腑臟。澆腸刳胷〔胸〕之術徃徃〔往往〕行焉。浮沈人間莫有知者。勃養於慈母之手毎承過庭之訓。曰人子不知毉古人以為不孝。因𥨱〔竊〕求良師陰訪其道。以大唐龍朔元年歲次庚申冬至後甲子遇夫子於長安。撫勃曰。無欲也。勃再拜稽首遂歸心焉。雖父伯兄弟不能知也。葢授周易章句及黄帝素問難経〔經〕。乃知三才六甲之事。眀堂玉匱之數。十五月而畢。將別謂勃曰。陰陽之道不可妄宣也。針石之道不可妄傳也。無猖狂以自彰。當隂〔陰〕沈以自深也。勃受命伏習五年于茲矣。有升堂覩〔睹〕奧之心焉。近復鑽仰太虚導引元氣。覺滓穢都絶精眀相保。方欲坐守神仙棄置流俗。噫蒼生可以救邪。斯文可以存邪。昔太上有立德。其次有立功。其次有立言。非以徇名也。將以濟人也。謹録師訓編附聖経。庶將來君子有以得其用心也。太原王勃序。(右出于文苑英華卷第七百三十五雜序類第一)
【訓讀】
●黄帝八十一難經序
黄帝八十一難經、是れ醫經の秘録なり。昔者(むかし)岐伯以て黄帝に授く。黄帝 九師を歷て以て伊尹に授く。伊尹以て湯に授く。湯 六師を歷て以て太公に授く。太公以て文王に授く。文王 九師を歷て以て醫和に授く。醫和 六師を歷て以て秦越人に授く。秦越人始めて章句を定立す。九師を歷て以て華佗に授く。華佗 六師を歷て以て黄公に授く。黄公以て曹夫子に授く。夫子、諱は元、字は眞道。自ら京兆の人と云うなり。蓋し黄公の術を授かり醫道を洞明す。能く遙かに氣色を望み、腑臟を徹視するに至る。澆腸刳胸の術、往往にして焉(これ)を行う。人間に浮沈して知る者有る莫し。勃 慈母の手に養われ、毎(つね)に過庭の訓を承(う)く。曰く、人の子 醫を知らずんば、古人以て不孝と為す、と。因って竊(ひそ)かに良師を求め、陰(ひそ)かに其の道を訪う。以て大唐龍朔元年歲次庚申冬至後甲子、夫子に長安に遇う。勃を撫して曰く、無欲也、と。勃 再拜稽首して遂に歸心す。父伯兄弟と雖も知る能わざるなり。蓋し周易章句及び黄帝素問難經を授かる。乃ち三才六甲の事、明堂玉匱の數を知り、十五月にして畢わる。將に別れんとして勃に謂いて曰く、陰陽の道 妄りに宣ぶ可からざるなり。針石の道 妄りに傳う可からざるなり。猖狂にして以て自ら彰わすこと無かれ。當に陰沈して以て自ら深くすべきなり。勃 命を受けて伏して習うこと茲(ここ)に五年なり。堂に升り奧を覩〔睹〕るの心有り。近ごろ復た太虚を鑽仰し元氣を導引し、滓穢都(すべ)て絶え、精明相い保つを覺ゆ。方(まさ)に坐して神仙を守り、流俗を棄て置かんと欲す。噫、蒼生 以て救う可きか。斯文 以て存す可きか。昔太上に立德有り。其の次に立功有り。其の次に立言有り。以て名に徇ずるには非ざるなり。將に以て人を濟(すく)わんとすればなり。謹んで師の訓を録して編んで聖經に附す。庶(こいねが)わくは將來の君子 以て其の用心有らんことを。太原王勃序。(右 『文苑英華』卷第七百三十五雜序類第一に出づ)
【注釋】
○黄帝八十一難經序:序末にあるように王勃序。
○黄帝八十一難經:傳說為戰國時秦越人(扁鵲)所作。本書以問答解釋疑難的形式編撰而成,共討論了八十一個問題,故又稱『八十一難》,全書所述以基礎理論為主,還分析了一些病證。其中一至二十二難為脈學,二十三至二十九難為經絡,三十至四十七難為臟腑,四十八至六十一難為疾病,六十二至六十八為腧穴,六十九至八十一難為針法。
百度百科。http://baike.baidu.com/view/84428.html?wtp=tt
○醫經:医学(理論)の経典著作。
○祕〔秘〕録:貴重な典籍。
○昔者:往日、往年。「者」は時間をあらわすことばにつく接尾辞。
○岐伯:黄帝時代の名医と伝えられる。『漢書』藝文志 方技略「方技者,皆生生之具,王官之一守也。太古有岐伯、俞拊,中世有扁鵲、秦和〔師古曰:「和,秦醫名也。」〕,蓋論病以及國,原診以知政。」
○黄帝:神話伝説上では、三皇の治世を継ぎ、中国を統治した五帝の最初の帝であるとされる。また、三皇のうちに数えられることもある。(紀元前2510年~紀元前2448年)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%84%E5%B8%9D
中國遠古傳說中的帝王,漢以後為道教尊奉為神仙。先秦時黃帝已被塑造為修道的仙人形象。
○九師:九人の學問、知識を伝授するひと。/『漢書』藝文志 六藝略 易「淮南道訓二篇。淮南王安聘明易者九人,號九師(法)〔景祐、殿本作「說」〕。」西漢淮南王劉安所聘九位通曉『周易》的學者。此九人在劉的招集下,共研『易》義。任昉『答陸倕知己賦』:「探三詩於河間,訪九師於淮曲。」『文中子』天地:「蓋九師興而『易』道微,『三傳』作而『春秋』散。」王勃『益州夫子廟碑』:「九師爭大『易』之門。」
○伊尹:商湯 大臣,名 伊 ,一名 摯 ,尹是官名。相傳生於 伊水 ,故名。是 湯 妻陪嫁的奴隸,後助 湯 伐 夏桀 ,被尊為阿衡。 湯 去世後歷佐 蔔丙 (即 外丙 )、 仲壬 二王。後 太甲 即位,因荒淫失度,被 伊尹 放逐到 桐宮 ,三年後迎之復位。/名摯,商初的賢相。相傳湯伐桀,滅夏,遂王天下。湯崩,其孫太甲無道,伊尹放諸桐宮,俟其悔過,再迎之復位。卒時,帝沃丁葬以天子之禮。
○湯:商朝的開國君主。亦稱為「商湯」、「成湯」。
○太公:太公望呂尚。呂尚:字子牙,東海人。本姓姜,其先封於呂,從其封姓,故稱為「呂尚」。周初賢臣,年老隱於釣,周文王出獵,遇於渭水之陽,相談甚歡,曰:「吾太公望子久矣。」因號「太公望」。載與俱歸,立為師。後佐武王克殷,封於齊,後世稱為「姜太公」。亦稱為「呂望」﹑「姜尚」。
○文王:周の文王。
○醫和:春秋時代、秦國の名醫。『春秋左傳』昭公元年を参照。
○秦越人:扁鵲と号す。姓は秦、名は越人。渤海郡鄚(今河北任邱)の人〔鄭の人とも〕。紀元前五世紀ごろ。長桑君に医学をまなぶ。かれの事績は二百数十年におよぶため、複数人説もあり。弟子九人あり。『史記』扁鵲傳などを参照。
○定立:訂立。定める。
○章句:章節と句讀。
○華佗:(?~西元207)字元化,東漢譙縣(今安徽省亳縣)人。為當時名醫,擅長外科手術,首用麻醉劑為病人開刀治療,並創五禽戲之運動以助養生,後因忤曹操而遭殺害。醫界或以他為行神。或作「華陀」、「華坨」。
○黄公:未詳。
○曹:名は元、字は眞道。
○夫子:男子に対する敬称。年長の学者に対する尊称。
○京兆:京兆尹。京師三輔の一。漢武帝太初元年(西元前104)分右內史東部為其轄區,為京師三輔之一,治所在今陝西西安市。轄境約當今西安以東、華縣以西;渭河以南,秦嶺以北之地,魏以後置京兆郡。後亦用以稱京師。簡稱為「京兆」。
○洞眀〔明〕毉〔醫〕道:唐初 楊玄操『黃帝八十一難經注』自序「黃帝八十一難者,斯乃勃海秦越人所作也。越人受桑君之秘術,遂洞明醫道,至能徹視腑臟,刳腸剔心,以其與軒轅時扁鵲相類,乃號之為扁鵲,又家於盧國,因命之曰盧醫,世或以盧扁為二人者,斯實謬矣。」表現が類似する原因はなにか。王勃叙が先か、楊玄操序が先か。同一書に附されたものか。
○遥〔遙〕望:遠眺。
○氣色:氣象、景象。人の態度顔色。『史記』扁鵲傳「越人之為方也,不待切脈望色聽聲寫形,言病之所在。」
○徹視:扁鵲傳「扁鵲以其言飲藥三十日,視見垣一方人。以此視病,盡見五藏癥結,特以診脈為名耳。」/徹:貫通﹑通透。
○澆:そそぐ。あらう。扁鵲傳「湔浣腸胃,漱滌五藏。」
○刳胷〔胸〕之術:『後漢書』方術傳「華佗……因刳破腹背,抽割積聚。若在腸胃,則斷截湔洗,除去疾穢。」/刳:えぐる。裂く。
○徃徃〔往往〕:つねに。
○焉:之、彼。
○浮沈:流れにまかせる。世俗にしたがう。
○人間:世間。
○慈母:慈愛深い母親。
○承:蒙受、接受。
○過庭之訓:もとは孔子の、その子孔鯉に対する教えを指す。『論語』季氏:陳亢問於伯魚曰:「子亦有異聞乎?」對曰:「未也。嘗獨立,鯉趨而過庭。曰:『學詩乎?』對曰:『未也。』『不學詩,無以言。』鯉退而學詩。他日又獨立,鯉趨而過庭。曰:『學禮乎?』對曰:『未也。』『不學禮,無以立。』鯉退而學禮。聞斯二者。」陳亢退而喜曰:「問一得三,聞詩,聞禮,又聞君子之遠其子也。」後にひろく親の訓示、教誨を指す。
○人子不知毉古人以為不孝:『新唐書』王勃傳「嘗謂人子不可不知醫,時長安曹元有祕術,勃從之游,盡得其要。」
○良師:優良な教師。
○訪:尋ね求める。
○大:尊敬をあらわす語。
○唐:618~906年。
○龍朔元年:661年。辛酉。
○歲次:歳星(木星)のやどり。年回り。
○庚申:こちらが正しければ、顯慶五年(660)。
○冬至:二十四節気の第二十二。旧暦十一月内。
○後甲子:
○長安:いまの陝西省の省都西安市。唐王朝の首都。
○撫:なだめる。いつくしむ。なでる。
○無欲:私欲がない。
○再拜:二度拝する。恭敬の意をあらわす。
○稽首:頭を地につける最敬礼。
○歸心:心から服従する。忠誠を誓う。
○伯:父の兄。
○周易章句:『清史稿』卷一百四十五/藝文一/經部/易類(P.4220)「漢孟喜 周易章句 一卷。漢京房 周易章句 一卷。……漢劉表 周易章句 一卷。……魏董遇 周易章句 一卷。魏王肅周易注一卷。……漢施讐 周易章句 一卷。漢梁丘賀 周易章句一卷。」
○黄帝素問:『隋書』卷三十四 經籍志 子/醫方「黃帝素問八卷全元起注。」
○難経〔經〕:『隋書』經籍志「黃帝八十一難二卷〔梁有黃帝眾難經一卷,呂博望注,亡〕。」
○三才:天、地、人。
○六甲:一種五行方術,可據以隱遁或避除神鬼。
○眀堂玉匱之數:『隋書』經籍志 醫方に「明堂流注六卷……明堂孔穴五卷……明堂孔穴圖三卷……神農明堂圖一卷……帝明堂偃人圖十二卷……明堂蝦蟆圖一卷……黃帝十二經脉明堂五藏人圖一卷」などと見える。『南史』陶弘景傳に「玉匱記」を著したと見える。『隋書』經籍志 醫方に「玉匱鍼經一卷」が見える。/明堂:鍼灸医学の流注に関することがら。/玉匱:金製の蔵書箱。
○陰陽:化生萬物的兩種元素,即陰氣、陽氣。『易經』繫辭上:「陰陽不測之謂神。」
○道:真理。道理。思想、學說。技藝、技巧。
○宣:のべる。説明する。宣伝する。
○針石:鍼。ひろくは鍼灸。
○猖狂:狂妄胡為。心の欲する所にしたがい,束縛されない。狂妄にして放肆。
○彰:明顯。表露、宣揚。
○隂〔陰〕沈:かくれて姿をあらわさない。
○伏:下の者が上の者に対していう。
○升堂覩〔睹〕奧:学問技藝が入門期をすぎて専門家の域に達する。『文選』孔融˙薦禰衡表:「初涉藝文,升堂睹奧。」
○鑽仰:深く入り探り求める。『論語』子罕:「顏淵喟然歎曰:仰之彌高、鑽之彌堅」。刑昺疏「言夫子之道高堅、不可窮盡。恍惚、不可為形象。故仰而求之、則益高、鑽研求之、則益堅」。
○太虚:天空。宇宙の原始的実体としての気。
○導引:道家の養生方法のひとつ。導氣引體。
○元氣:人の精氣。宇宙自然の氣。正氣。
○滓穢:汚いもの。汚濁。
○都:みな。
○精眀:精明。清らかな状態。精力旺盛。
○神仙:道家でいう能力が非凡であること、未来が見通せるような状態。
○流俗:世俗。社会に流行する風俗。
○噫:悲哀、傷痛、感慨、嘆息の語氣をあらわす。
○蒼生:百姓。黎民。
○斯文:この文。禮樂、制度、教化。文化あるいは文人。
○太上:遠古、上古。三皇五帝の世を指す。『左傳』襄公二十四年:「太上有立德,其次有立功,其次有立言。」
○立德:德業を樹立する。
○立功:功績をたてる。貢献する。
○立言:すぐれた後世に伝うべき言論、學說をうちたてる。
○徇名:身を捨てて名誉を求める。徇,通“ 殉 ”。
○濟人:他人をたすける。
○師訓:先生の訓示、教誨。
○聖経:聖賢が著わした經典。ここでは『難経』。
○庶:希望をあらわす語気詞あるいは副詞。
○用心:心をつくす。注意を集中する。留意する。
○太原:山西省にあり。
○王勃:字子安,絳州龍門(今山西河津)人。生于高宗永徽元年 (650年)。没于上元三年(676年)。唐著名詩文家,初唐“四傑”之一。祖父王通,隋末大儒。『新唐書』王勃傳「王勃字子安,絳州龍門人。……父福畤,繇雍州司功參軍坐勃故左遷交阯令。勃往省,度海溺水,痵而卒,年二 十九。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%8B%E5%8B%83
http://zh.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%8B%E5%8B%83
○文苑英華:中国の北宋時代に成立した詩文集。『太平広記』、『太平御覧』、『冊府元亀』とあわせて宋四大書と称せられる。太宗の勅命を奉じて李昉、扈蒙、徐鉉、宋白ら17名が太平興国7年(982年)から雍熙4年(987年)にかけて編纂したもので、全1000巻、目録50巻に及ぶ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E8%8B%91%E8%8B%B1%E8%8F%AF
http://zh.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E8%8B%91%E8%8B%B1%E8%8F%AF
0 件のコメント:
コメントを投稿