難經古義跋
難經古義家大人厯年講書
之暇折中諸家獨斷為說先
是庚辰之春將竣上木之事
不圖罹祝融氏之災半已烏
有嗣後稍〃起草今茲復舊
然大人為業奔走四方不遑
寧處故託門人泉春安再三
校正不佞仲實與焉檢閱已
竣乃請父執山公介淨書剞
劂告成因述其事以謝遲滯
之罪云壬辰冬十月
男 仲實識
山中元禮書
【訓讀】
難經古義跋
難經古義 家大人歷年の講書の暇、諸家を折中し、獨斷して說を為す。是れに先だつ庚辰の春、將に上木の事を竣(お)えんとす。圖らずも祝融氏の災いに罹かり、半(なか)ば已に烏有なり。嗣後稍稍起草し、今茲復舊す。然れども大人業の為に四方に奔走し、寧處に遑(いとま)あらず。故に門人泉春安に託し、再三校正せしむ。不佞仲實 焉(これ)と與(とも)に檢閱し已に竣えり。乃ち父に請い山公介を執りて淨書せしむ。剞劂 成るを告ぐ。因りて其の事を述べ、以て遲滯の罪を謝すと云う。壬辰冬十月
男 仲實識(しる)す
山中元禮書す
【注釋】
○跋:あとがき。おくがき。
○家大人:自分の父親をいう。
○厯:「歷」の異体。/歴年:年月を経ること。長年。
○講書:書物の内容を講ずる。書籍を講義する。
○暇:ひま。空いた時間。
○折中:折衷。太過と不及の調和をとり、妥当合理的なものにする。
○諸家:多くの注釈家。
○獨斷:自己の見解にもとづき、ものごとを判断する。
○說:解釈。
○庚辰:宝暦十年(一七六〇)。
○竣:完了する。
○上木:上梓。版木に文字を彫る。書物を出版する。
○不圖:思いがけなくも。
○罹:遭遇する。
○祝融氏:火の神。回祿。後に火災を指して用いられる。
○烏有:漢の司馬相如の『子虛賦』中の架空の人物。「無有」。のちに存在しないことの比喩として用いられる。
○嗣後:これよりのち。以後。
○稍〃:徐々に。次第に。
○起草:稿を起こす。原稿や文案の下書きを書き始める。
○今茲:今年。いま。
○復舊:以前の状態を恢復する。
○不遑寧處:安んずるところを得ない。心安らかにおちついていられない。『詩經』國風/召南/殷其靁「召南之大夫遠行從政、不遑寧處。」『宋書』倭國傳「躬擐甲冑,跋涉山川,不遑寧處。」
○泉春安:
○再三:たびたび。
○不佞:不才。自己を謙遜していう。
○仲實:加藤万卿の子。
○檢閱:校閲。査読。
○執:選び取る。従事する。とりしきる。
○山公介:山中元禮であろう。
○淨書:清書。浄写。きれいに書き直す。
○剞劂:雕刻に用いる曲刀。引伸して出版印刷業者。
○成:完成。
○謝:謝罪する。わびる。
○遲滯:おくれ、とどこおり。
○云:文末に用いる助字。意味はない。
○壬辰:安永元年(一七七二)。
○男:むすこ。親に対する自称。
○山中元禮:
●
安永二年癸巳秋八月
江戸書肆鑒書房 刻
須原屋市兵衛
同 嘉 助
【注釋】
○安永二年癸巳:一七七一年。
○書肆鑒書房 須原屋市兵衛 嘉助:須原屋茂兵衛の分家。「鑑書房」は、武鑑を売り物にしていたことと関連があるか。
以下、堀江幸司先生:江戸東京医史学散歩 その17より抜粋
http://homepage3.nifty.com/sisoken/edotokyoH.htm
162.『解體約圖』、『解體新書』を出版した江戸日本橋の書肆・「須原屋市兵衛」の店の住所:(1)室町二町目、室町三町目?
今田洋三氏『江戸の本屋さん』「安永三年(一七七四)春のある日、杉田玄白が、日本橋室町二丁目の申椒堂須原屋と看板をあげている土蔵造りの本屋にはいった。玄白は、ふろ敷づつみを大事そうにかかえている。玄白は、時どき医学書や和漢書、あるいは小説のたぐいを、この本屋で買っていたし、奥州の片田舎からでてきた医学生の若者を、ここの主人から紹介され面会したりした。玄白の親しい店だったのである。申椒堂の主人は、須原屋市兵衛といった。日本橋を南に渡った通一丁目の江戸一の大書商、須原屋茂兵衛の分家であった。さっそく玄白は奥の座敷に招じ入れられる。ようやくできましたぞと、ふろ敷をほどいて出したのが『解體新書』と題をつけた五冊の原稿であった。」 浅野秀剛氏『大江戸日本橋絵巻「熈代勝覧」の世界』「『寒葉斎画譜』を出したときの、市兵衛の住所は、「通本町三町目」で、その後、市兵衛の店は、室町三丁目に移り、さらに、寛政前期に室町二丁目に移転する」(『寒葉斎画譜』(宝暦12年))。
♪『解體新書』は、本文4冊(巻之一、巻之二、巻之三、巻之四)と、序圖1冊の全5冊からなる木版本で、「巻之四」の最終頁に奥付があり、「須原屋市兵衛」の店の住所が載っています。「室町二町目」のものと「室町三町目」ものと2通りの住所があることが知られています。どちらも、刊行年は安永3年(1774)です。
♪各地の図書館でデジタル化(一般公開)されている『解體新書』から、「巻之四」奥付頁の「須原屋市兵衛」の住所を見比べてみることにしました。
♪これまでの調査では、市兵衛の店の住所は、早稲田大学蔵本だけが「室町三町目」で、残りのものは、「室町二町目」となっています。また、早稲田大学蔵本には、奥付頁のあとに、広告頁がついています。
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