2012年8月21日火曜日

『難經古義』叙 その3

●附言八則
一斯書歷年之久。簡殘篇缺。曾經呂廣重編。文辭猶尚差池。且以數目蒙諸難字上。恐呂氏編次時所加。以為後世不可更易之式。顧是古之所無也。今悉削去。
一難問難之難。為是。皇甫謐帝王紀曰。黄帝使扁鵲旁通問難八十一。蓋古之義也。滑壽彙考中所載虞歐二氏之說得之。
一說者言曰。難經乃燼餘之文。余廼謂不然。夫古籍舊典。不免乎散逸蠹魚之患。固其所。豈唯難經。雖素靈亦復爾爾。矧華佗焚活人書云云。則不可指為難經。而後人動輙嘖嘖。以煨燼目之。故予言以雪其冤云。
一難經一書。大氐論辯靈素之奧。故其問荅與内經異義者。前修稍疑其異。故徒依違竽濫其說。不則仇視攻擊。或雞肋斯書。將厭以廢焉。是無它。不知其所以幹軒轅之蠱。鹵莽枘鑿。斷以臆度。不足論已。試舉一二。靈樞云。命門目也。難經以為右腎。素問云。三部者頭及手足。九候九穴動脈。而難經以為寸關尺浮中沈。其餘或衝脈並腎經。反為胃經之類。每每若是。不暇枚數。學人察諸。
一余所撰注。耑晰所以立問荅之由。若夫訓字釋名。諸家既已具。故不復贅。
一前是注家。卷首多圖各篇諸脉。以備初學便覽。余謂。徒畫餅耳。安得知其真味哉。矧脈之為物。其猶水邪。觀水有術。故聖人深得諸心。而象諸物。建名立號。欲令後人思以得之。圖豈能眀之哉。學者莫按圖索驥。
一全篇每句以白黒字分解者。白以彌縫正文語路。黒以直釋其義。葢正文本簡古。故不介以字詁。則其言難通暢。矧陰陽虚實字。最易混同。凡此書所謂陰陽。有指血氣言。有指經脉言。有指尺寸及表裡而言之。其虚實亦有邪正血氣之分。非添字詁。何縁能別其義。覽者莫以白字解為等閑看。
一八十一篇。闕文錯簡。十居其半。滑氏本義中。僅出闕誤十九條。其間所是正。或有未妥帖。余所撰次。備攷前後問荅接續。私改其簡編。設雖未必得其本色。寧使學者連讀易了爾。

  【訓讀】
●附言八則
一、斯の書歷年の久しき、簡殘(やぶ)れ篇缺く。曾て呂廣が重編を經て、文辭猶お尚お差池す。且つ數目を以て諸(これ)を難の字の上に蒙らしむ。恐くは呂氏編次の時に加うる所、以て後世更え易う可からざるの式と為る。顧るに是れ古(いにしえ)の無き所なり。今ま悉く削り去る。

  【注釋】
○附言:作品、文章を完成させたのちに附加する注釈、説明書き。 ○則:文章を数える助数詞。 「条」に相当する。 
○歷年:年月を経る。 ○簡殘篇缺:書籍や文章が殘缺不全、欠損して完備していない状態となる。 ○呂廣:呉の大醫令。赤烏二年(二三九)、大医令となる。はじめて『難経』に注を施す。佚。『王翰林黄帝八十一難経集注』にその説が見える。 ○重編:かさねて編輯する。 ○文辭:文章。 ○猶尚:尚且。それでもなお。やはりまだ。 ○差池:錯誤。あやまる。 ○且:また。その上さらに。 ○數目:數目字。かず。数字。 ○蒙:おおいかぶせる。冒頭に置く。 ○編次:整理編輯する。順に並べる。 ○更易:改变する。 ○式:模範、規格。 ○顧:カエリミル(よくみる)。モトヨリ(かならず、當然)。タダ(しかし)。スナワチ(つまり)。ユエニ(よって)。 ○是古之所無也。今悉削去:『古義』ではたとえば「一難曰」を「難曰」とするように、本文には従来の数字を含めない。欄外に「第八舊五」(『古義』では第八番目、旧本では五難)のように、『古義』独自の配列番号と従来の数目を記す。

  【訓讀】
一、難は問難の難を是と為す。皇甫謐が『帝王紀』に曰く、「黄帝 扁鵲をして旁ら問難八十一を通ぜしむ」と。蓋し古の義なり。滑壽が「彙考」の中 載する所の虞歐二氏の說 之を得たり。

  【注釋】
○一:ひとつ書き。箇条書き。 ○難問難之難:「難」の意味は、「問難(辯論詰問、質問する)」の「難」である。 ○是:正しい。 ○皇甫謐:(西元215~282)字士安,幼名靜,自號玄晏先生,晉安定朝那人。年少游蕩不好學,為叔母之言所感,乃勤學不怠,遂博通百家之言。以著述為務,弟子多為晉之名臣。著有帝王世紀、高士傳、逸士傳、列女傳及玄晏春秋。 ○帝王紀:『帝王世紀』。皇甫謐著。三皇から漢魏までの帝王の歴史をのべる。十巻。『太平御覧』などに佚文がみえる。 ○黄帝使扁鵲旁通問難八十一:『太平御覧』卷七百二十一 方術部二 醫一「帝王世紀曰……又曰、黄帝有熊氏命雷公歧伯論經脉傍通問難八十一、爲難經……」。宋 高承撰/明 李果校補『事物紀原』卷七 伎術 難經は「傍」を「旁」につくる。 ○蓋古之義也:「難」は「むずかしい」という意味ではなく、「質問する」というのが、おそらく古い(もともとの)意味である。 ○滑壽:元代醫學家。字伯仁,晚號櫻寧生。祖籍襄城(今屬河南),其祖父時遷居儀真(今屬江蘇)。初習儒,工詩文。京口名醫王居中客居儀真時,滑壽師從之習醫,精讀《素問》、《難經》等古醫書,深有領會,然亦發現《素問》多錯簡,因按臟腑、經絡、脈候、病能、攝生、論治、色脈、針刺、陰陽、標本、運氣、匯萃十二項,類聚經文,集為《素問鈔》三卷。又撰《難經本義》二卷,訂誤、疏義。后又學針法于東平高洞陽,盡得其術。曾採《素問》、《靈樞》之經穴專論,將督、任二經與十二經并論,著成《十四經發揮》三卷,釋名訓義。其內科診治則多仿李東垣。精于診而審于方,治愈沉疴痼疾甚從。嘗謂“醫莫先于脈”,乃撰《診家樞要》一卷,類列二十九脈,頗有發揮。其治療驗案數十則,收入朱右《櫻寧生傳》。明洪武(1368-1398年)間卒。時年七十餘。 ○彙考:『難經本義』彙考は、はじめに次のようにいう。「『史記』越人傳、載趙簡子、虢太子、齊桓侯三疾之治、而無著『難經』之説、『隋書』經籍志、『唐書』藝文志、倶有秦越人『黄帝八十一難經』二卷之目。又唐諸王侍讀張守節作『史記正義』、於扁鵲倉公傳、則全引『難經』文以釋其義、傳後全載四十二難與第一難、三十七難全文、由此則知古傳以為越人所作者不誣也。詳其設問之辭稱經言者、出於『素問』『靈樞』二經之文、在『靈樞』者尤多。亦有二經無所見者、豈越人別有摭於古經、或自設為問荅也耶(『史記』の越人の傳に、趙簡子、虢太子、齊桓侯三疾の治を載す。而るに『難經』を著すの説無し。『隋書』の經籍志、『唐書』の藝文志、倶に秦越人『黄帝八十一難經』二卷の目有り。又た唐の諸王の侍讀張守節、『史記正義』を作り、扁鵲倉公傳に於いて、則ち全く『難經』の文を引いて以て其の義を釋す。傳の後に全く四十二難と第一難、三十七難との全文を載す。此れに由れば則ち知んぬ、古(いにしえ)より傳えて以て越人の作る所の者と為すこと誣(し)いざるなり。其の問いを設くるの辭を詳らかにするに、經に言うと稱する者は、『素問』『靈樞』二經の文に出で、『靈樞』に在る者尤も多し。亦た二經に見る所無き者有り。豈に越人別に古經を摭(ひろ)い、或いは自(みずか)ら設けて問答を為すこと有るか)。」 ○虞歐二氏之說:『難經本義』彙考「邵菴虞先生嘗曰:史記不載越人著『難經』、而隋唐書經籍藝文志定著越人『難經』之目、作『史記正義』者、直載『難經』數章、愚意以為古人因經設難、或與門人弟子荅問、偶得此八十一章耳。未必經之當難者止此八十一條、難由經發、不特立言。且古人不求托名於書、故傳之者、唯專門名家而已。其後流傳寖廣、官府得以録而著其目、註家得以引而成文耳。圭齋歐陽公曰:切脉於手之寸口、其法自秦越人始、蓋為醫者之祖也。『難經』先秦古文、漢以來荅客難等作、皆出其後、又文字相質難之祖也(邵菴虞先生嘗て曰く:『史記』に越人 『難經』を著すことを載せず。而して隋唐の書 經籍·藝文志に越人 『難經』を著すの目を定む。『史記正義』を作る者、直(ただ)ちに『難經』の數章を載す。愚意以為(おもえ)らく古人 經に因って難を設け、或いは門人弟子と答荅問して、偶たま此の八十一章を得るのみ。未だ必ずしも經の當に難ずべき者、此の八十一條に止まらず。難は經に由って發す。特(ひと)り言を立てず〔自分から独自の説を立てたわけではない〕。且つ古人は名を書に托するを求めず。故に之を傳うる者は唯だ專門·名家のみ。其の後の流傳寖(ようや)く廣まり、官府得て以て録して其の目を著し〔目録に著録する〕、註家〔『史記正義』、裴駰『史記集解』、司馬貞『史記索隠』〕得て以て引いて文を成すのみ。圭齋歐陽公曰く:脉を手の寸口に切(み)ること、其の法 秦越人自り始まる。蓋し醫者の祖為(た)り。『難經』は先秦の古文、漢より以來 客の難に答えし等の作なり。皆な其の後に出づ。又た文字相い質難するの祖なり)。」虞先生:名は集。字は伯生。蜀のひと。/歐陽公:名は玄。字は厚巧。廬陵のひと。諡は文公。/唐 張守節『史記正義』は、扁鵲倉公列伝において、「黃帝八十一難序云:秦越人與軒轅時扁鵲相類,仍號之為扁鵲。又家於盧國,因命之曰盧醫也。」のほか、「八十一難云」として十二回引用する。また魏其武安侯列傳「蚡以肺腑為京師相」に「八十一難云:寸口者,脈之大會,手太陰之動脈也。呂廣云:太陰者,肺之脈也。肺為諸藏之主,通陰陽,故十二經脈皆會乎太陰,所以決吉凶者。十二經有病皆寸口,知其何經之動浮沈濇滑,春秋逆順,知其死生」と注をほどこす。/客難:賓客の質問。また文体の名称。客による自分への質問に答える形式で自分の意見を述べる文体。『漢書』東方朔傳:「朔因著論,設客難己,用位卑以自慰諭。其辭曰:客難東方朔曰……」。/質難:質疑問難する。疑問。問う。

  【訓讀】
一、說者の言に曰く「『難經』は乃ち燼餘の文なり」と。余廼ち謂えらく「然らず。夫(そ)れ古籍舊典 散逸蠹魚の患いを免かれざるは、固(もと)より其の所なり。豈に唯だに『難經』のみならんや。『素』『靈』と雖も亦た復た爾(しか)るのみ。矧んや華佗 『活人書』を焚くと云云。則ち指して『難經』と為す可からず。而して後人動(ややもす)れば輒(すなわ)ち嘖嘖として、煨燼を以て之を目(なづ)く。故に予言いて以て其の冤を雪(すす)ぐと云う。

  【注釋】
○燼餘:燃えた残り。燃えかす。 ○蠹魚:紙魚。書籍を食らう虫。 ○固其所:定位置である。當然である。 ○豈唯:豈惟。どうしてこれだけにとどまろうか。 ○爾爾:如此如此。そのとおりである。 ○矧華佗焚活人書云云:『三國志』魏書 方技傳「華佗……佗臨死,出一卷書與獄吏,曰:此可以活人。吏畏法不受,佗亦不彊,索火燒之。」 ○後人:後世の人。 ○動輙:「輙」は「輒」の異体。ともすれば。いつも。 ○嘖嘖:讚嘆、驚奇、疑いをあらわす。議論し争うさま。 ○煨燼:『難經本義』滑壽自序「且其書經華佗煨燼之餘、缺文錯簡、不能無遺憾焉。」 ○目:呼称する。 ○雪冤:無実の罪をぬぐい去る。 ○云:文末の助字。無義。~のである。𥅚

  【訓讀】
一、『難經』の一書、大抵『靈』『素』の奧を論辯す。故に其の問答、『内經』と義を異にする者なり。前修稍(や)や其の異を疑う。故に徒らに依違して其の說を竽濫す。不則(しからざ)れば仇視攻擊し、或いは斯の書を雞肋にす。將に厭(す)てて以て廢せんとす。是れ它無し。其の軒轅の蠱に幹たる所以を知らず、鹵莽枘鑿、斷ずるに臆度を以てす。論ずるに足らざるのみ。試みに一二を舉ぐ。『靈樞』に云く、「命門は目なり」と。『難經』に以て右腎と為す。『素問』に云く「三部は頭(かしら)及び手足。九候は九穴の動脈なり」と。而して『難經』以て寸關尺浮中沈と為す。其の餘或いは衝脈の腎經に並ぶを、反って胃經と為すの類、每每是(かく)の若し。枚數に暇(いとま)あらず。學人 諸(これ)を察せよ。

  【注釋】
○大氐:「氐」は「抵」に同じ。おおむね。 ○論辯:自説を説明する。 ○奧:奥義。 ○前修:過去の優れたひと。 ○徒:むなしく。 ○依違:従ったり違背したり、決断がつかないこと。どっちつかずで、はっきりしない。 ○竽濫:『難經古義』叙の「濫吹」注を参照。みだりに笛を吹くこと。ここではむやみに吹聴することであろう。 ○不則:そうでなければ。 ○仇視:敵視する。 ○雞肋:にわとりの肋骨。食べてもうまくないが、捨てるには惜しいもの。価値はないが、捨てるには惜しく感じられるもののたとえ。 ○厭:きらって見限る。嫌悪する。いとう。 ○它:異、別。是無它:これは他(ほか)でもない。 ○幹軒轅之蠱:「幹蠱」は子が父の志を受け継ぎ、完成させる。『易經』蠱卦˙初六:「幹父之蠱,有子,考无咎,厲,終吉。象曰:『幹父之蠱,意承考也。』」「幹」は、仕事をつかさどり、任をはたす。ここでは軒轅(黄帝)の功績を継承して、完成させる。 ○鹵莽:粗略。いいかげん。 ○枘鑿:ほぞとほぞ穴。『楚辭』宋玉˙九辯:「圜鑿而方枘兮,吾固知其鉏鋙而難入。」丸いほぞ穴に四角いほぞを入れようとしても、うまく接合するはずがない。意見がかみ合わないさま。 ○臆度:主観による判断。臆測。 ○靈樞云:根結第五。 ○難經:三十六難。 ○素問云:三部九候論。 ○難經:十八難「三部者、寸關尺也。九候者、浮中沈也。」 ○衝脈並腎經:『素問』骨空論「衝脈者、起於氣街、並少陰之經。」『靈樞』動輸「衝脈者、……起于腎、下出于氣街……並少陰之經。」 ○為胃經:二十八難「衝脈者、起於氣衝、並足陽明之經。」 ○每每:常に。往々。 ○若是:如此。 ○不暇:時間がない。 ○枚數:一一列挙する。 ○學人:学術研究に従事するひと。

  【訓讀】
一、余が撰する所の注、專ら問答を立つる所以の由を晰(あき)らかにす。夫(か)の訓字釋名の若きは、諸家既已(すで)に具う。故に復た贅せず。
  【注釋】
○耑:「專」の異体。 ○若夫:~に関しては。 ○訓字釋名:文字用語の解釈。/訓字:字の意味の解釈。/釋名:物事の解釈。 ○不復贅:これ以上、多言しない。/贅:余分なもの。

  【訓讀】
一、是れより前(さき)の注家、卷首に多く各篇の諸脉を圖して、以て初學便覽に備う。余謂(おも)えらく、徒(いたず)らに畫餅のみ。安(いず)くんぞ其の真味を知ることを得んや。矧(いわ)んや脈の物為(た)る、其れ猶お水のごときか。水を觀て術有り。故に聖人深く諸(これ)を心に得て、而して諸を物に象どり、名を建て號を立て、後人をして思いて以て之を得せしめんと欲す。圖 豈に能く之を明らかにせんや。學者 圖を按じて驥を索(もと)むること莫かれ。
  
  【注釋】
○前是:以前。 ○注家:古い書籍に注釈するひと。 ○圖:絵を描く。 ○備:用意する。役立てる。 ○初學:学習し始めのひと。学問の造詣が浅いひと。 ○便覽:ある物事についてのいろいろな知識を、簡単に見られるように、集めまとめた書物。手軽な説明書。 ○謂:考える。認識する。 ○徒:むだに。 ○畫餅:絵に描いた餅。形式だけで実用価値のないもの。 ○安得:豈可。得られない。 ○真味:真実の意味。本当の内容。 ○矧:さらに一層程度が進むのはいうまでもない。 ○建名立號:建立名號。名目を設立する。 ○豈能:どうしてできようか。 ○學者:学問をするひと。学習者。 ○按圖索驥:絵図を勘案して良い馬を求める。『漢書』卷六十七˙梅福傳:「今不循伯者之道,乃欲以三代選舉之法取當時之士,猶察伯樂之圖,求騏驥於市,而不可得,亦已明矣/伯楽の子が馬に乗ったこともないのにかかわらず、父伯楽が著した書をたよりに良馬を見分けようとした故事。」昔ながらの方法に拘泥して、応用がきかないたとえ。理論ばかりに頼って実際には役に立たないこと。

  【訓讀】
一、全篇每句 白黒の字を以て分解する者、白は以て正文の語路を彌縫し、黒は以て直ちに其の義を釋す。蓋し正文本(も)と簡古。故に介(はさ)むに字詁を以てせざれば、則ち其の言 通暢し難し。矧んや陰陽虚實の字、最も混同し易し。凡そ此の書に謂う所の陰陽、血氣を指して言う有り、經脉を指して言う有り、尺寸及び表裡を指して之を言う有り。其の虚實も亦た邪正血氣の分有り。字詁を添うるに非ずんば、何に縁りてか能く其の義を別かたんや。覽る者 白字の解を以て等閑の看を為すこと莫かれ。

  【注釋】
○分解:分けて解釈する。 ○白:白抜き文字。難經本文の間に挿入されている。 ○彌縫:補う。 ○正文:テキスト。経文。本文。 ○語路:言葉や文章の続き具合、調子。 ○黒:本文の中、小字双行注をいうのであろう。 ○正文:テキスト。本文。 ○本:もともと。 ○簡古:単純で古雅。飾り気がなく古風。 ○字詁:字句の解釈。 ○通暢:文章の筋が通ってすらすら読める。 ○矧:ましてや。 ○尺寸:尺と寸。手首の脈診部位。尺中と寸口。 ○表裡:オモテとウラ。「裡」は「裏」の異体。 ○等閑:軽くみて、扱いをいいかげんにしておく。なおざり。

  【訓讀】
一、八十一篇の闕文錯簡、十にして其の半ばに居る。滑氏の『本義』中、僅かに闕誤十九條を出だす。其の間(あいだ)是正する所、或いは未だ妥帖ならざる有り。余が撰次する所、備(つぶさ)に前後の問答接續を攷えて、私(ひそ)かに其の簡編を改む。設(も)し未だ必ずしも其の本色を得ずと雖も、寧ろ學者をして連讀して了し易からしめんのみ。

  【注釋】
○闕文:字句の脱落。 ○錯簡:文章文字の順序が前後する。 ○十居其半:半分をしめる。 ○滑氏本義:『難経本義』。 ○闕誤十九條:『難経本義』闕誤總類に見える。 ○其間:その中。 ○是正:誤りを見つけて改正する。 ○妥帖:妥当。穏当。 ○撰次:書籍をまとめ、順序を定める。編輯。 ○備:皆。ことごとく。 ○攷:「考」の異体。 ○私:個人的に。非公式に。 ○簡編:書籍、典籍。 ○設:かりに。 ○本色:古くは青﹑黃﹑赤﹑白﹑黑の五色を正色とし、「本色」と称した。本来のすがた。 ○寧:かりに、もともとの順序になっていないとしても、こちらの方が学習者が続けて読んで理解しやすい、という形にしたまでである。 

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