1. 確定した扁鵲佚文による判定
黃帝問扁鵲曰……虛者實之,補虛瀉實,神歸其室,補實瀉虛,神捨其墟,衆邪並進,大命不居(『千金翼方』卷二十五 色脈〔・診氣色法第一〕)。
瀉虛補實,神去其室,致邪失正,真不可定,粗之所敗,謂之夭命。補虛瀉實,神歸其室,久塞其空,謂之良工(『靈樞』脹論)。
『千金翼方』という確かな証拠を利用して,『霊枢』脹論のこの文章も扁鵲医籍に由来することが確認できる。また,上記の二つの文の内容は同じでも表現が異なることから,両者は扁鵲医書の異なる伝本から引用されたか,または一方が原書の原文を直接引用し,もう一方が原書の原文を改編したのかもしれない。
夫癰疽之生,膿血之成也,不從天下,不從地出,積微之所生也。故聖人自治於未有形也;愚者遭其已成也(『靈樞』玉版)。
扁鵲攻於腠理,絕邪氣故癰疽不得成形。聖人從事於未然,故亂原無由生。是以砭石藏而不施,法令設而不用。斷已然,鑿己發者,凡人也。治末〔一本は「未」に作る〕形,睹未萌者,君子也(『鹽鐵論』大論)。
『塩鉄論』の確かな標識〔=扁鵲〕を利用すれば,玉版篇のこの文章がたとえ扁鵲医書の原文を直接収録したものではないとしても,扁鵲医学の学術思想を伝承していることは間違いと判断できる。さらに他の証拠が参照できれば,より確かな判断を下すことができる。
其腹大脹,四末清,脫形,泄甚,是一逆也;腹脹便血,其脈大,時絕,是二逆也;咳溲血,形肉脫,脈搏,是三逆也;嘔血,胸滿引背,脈小而疾,是四逆也;咳嘔腹脹,且飧泄,其脈絕,是五逆也。如是者,不及一時而死矣。工不察此者而刺之,是謂逆治(『靈樞』玉版)。
診人心腹積聚……其脈大,腹大脹,四肢逆冷,其人脈形長者,死。腹脹滿,便血,脈大時絕,極下血,脈小疾者,死……咳而嘔,腹脹且泄,其脈弦急欲絕者,死(『脈經』卷四·診百病死生訣第七)。
『脈経』に引用された扁鵲の死生を決する診法という確かな証拠を加えると,玉版篇の主体となる部分が扁鵲医書から採られたものであると安心して判定できる。
確定した扁鵲の佚文に基づくことにより,『内経』が伝承した扁鵲医籍を判定できるだけでなく,それと同時にその引用方法についても考察できる。前述したように,『素問』五蔵生成篇の主体となる部分は扁鵲医籍から採られたものである。以下に五蔵生成篇の最後の二段の文章を引用してみる。
赤脈之至也,喘而堅,診曰有積氣在中,時害於食,名曰心痹,得之外疾,思慮而心虛,故邪從之。白脈之至也,喘而浮,上虛下實,驚,有積氣在胸中,喘而虛,名曰肺痹,寒熱,得之醉而使內也。青脈之至也,長而左右彈,有積氣在心下支胠,名曰肝痹,得之寒濕,與疝同法,腰痛足清頭痛。黃脈之至也,大而虛,有積氣在腹中,有厥氣,名曰厥疝,女子同法,得之疾使四肢汗出當風。黑脈之至也,上堅而大,有積氣在小腹與陰,名曰腎痹,得之沐浴清水而臥。
凡相五色之奇脈,面黃目青,面黃目赤,面黃目白,面黃目黑者,皆不死也。面青目赤,面赤目白,面青目黑,面黑目白,面赤目青,皆死也。
――『素問』五藏生成
ここでの脈診と色診はみな五色と関連しており,倉公が伝授された「五色診病」とすこぶる合致している。また,第一段の文章の形式構造と内容の大意は,みな『史記』扁鵲倉公列伝に引用されている「脈法曰」や『脈経』巻六の五蔵脈とよく対応しているが,文字にはかなりの改変が見られ,扁鵲の脈書の原文を直接録したものではないか,少なくとも初期の伝本から録したものではないようである。しかし,第二段の文章は『脈経』に収録されている「扁鵲華佗察声色要訣」と完全に一致しており,同一伝本から収録され,かつ原文を直接収録したものである。関連する文は,『千金要方』『千金翼方』に引用されている異なる伝本の扁鵲医籍にも見られる。
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