2012年1月11日水曜日

『醫説』鍼灸 關聯史料集成 7 鍼法

引用元は明示されていないが,『素問』陰陽應象大論の文。

『黃帝內經素問』陰陽應象大論
故邪風之至,疾如風雨。故善治者,治皮毛,其次治肌膚,其次治筋脉,其次治六府,其次治五藏。治五藏者,半死半生也。故天之邪氣,感則害人五藏;水穀之寒熱,感則害於六府;地之濕氣,感則害皮肉筋脉。

【訓讀】標準的とおもわれる訓。
故に邪風の至るは,疾(はや)きこと風雨の如し。故に善く治す者は皮毛を治し,其の次は肌膚を治し,其の次は筋脉を治し,其の次は六府を治し,其の次は五藏を治す。五藏を治する者は,半死半生なり。故に天の邪氣感ずれば,則ち人の五藏を害す。水穀の寒熱感ずれば,則ち六府を害す。地の濕氣感ずれば,則ち皮肉筋脉を害す。
善く鍼を用いる者は,陰從り陽に引き,陽從り陰に引き,右を以て左を治し,左を以て右を治し,我を以て彼を知り,表を以て裏を知る。

「善用鍼者,從陰引陽,從陽引陰,以右治左,以左治右,以我知彼,以表知裏」の部分には王冰の注がない。

唐·楊上善『黄帝内経太素』卷第三 隂陽大論
故用針者,從隂引陽,從陽引隂
楊注:肝藏足厥隂脉脉實,肝府膽足少陽脉虚,須冩厥隂,以補少陽,即從隂引陽也。若少陽實厥隂虚,須冩少陽補厥隂,即從陽引隂也。餘例准此。
以右治左,以左治右
楊注:謂以繆刺刺諸胳脉,謂以巨刺刺諸經脉。
以我知彼
楊注:謂醫不病能知病人。
以表知裏
楊注:或瞻六府表脉,以知五藏裏脉,或瞻聲色之表,能知藏府之裏也。

【訓讀】
經文:故用針者,從隂引陽,從陽引隂
楊注:肝藏足厥隂の脉,脉實し,肝府膽足少陽の脉虚すれば,須く厥隂を冩し,以て少陽を補うべし。即ち「從隂引陽」なり。若し少陽實して厥隂虚すれば,須く少陽を冩して厥隂を補うべし。即ち「從陽引隂」なり。餘の例は此れに准ぜよ。
經文:以右治左,以左治右
楊注:繆刺を以て諸胳脉を刺すを謂い,巨刺を以て諸經脉を刺すを謂う。
經文:以我知彼
楊注:醫病まざれば,能く病人を知るを謂う。
經文:以表知裏
楊注:或いは六府の表脉を瞻(み)て,以て五藏の裏脉を知り,或いは聲色の表を瞻て,能く藏府の裏を知るなり。


明·馬玄臺『素問注證發微』
此言善鍼者之有法也。上文言由皮毛,而漸入臟腑。則在外爲表,在内爲裏,在表爲陽,在裏爲陰。善用鍼者,知陽病,必行于陰也。故從陰以引之,而出于陽,知陰病,必行于陽也。故從陽以引之,而入于陰。(『難經』六十七難曰:「五臟募皆在陰,而兪在陽者,何謂也?然,陰病行陽,陽病行陰。故令募在陰,兪在陽。」此乃指背腹爲陰陽,特一端耳。然鍼法之從陰引陽,從陽引陰,不止于此。『靈樞』終始·禁服·四時氣篇,人迎脉盛爲陰經病,則瀉陽補陰。氣口脉盛爲陰經病,則瀉陰補陽,補瀉施而陰陽和。亦從陰引陽,從陽引陰之法也。)凡人身經絡,左與右同,我與彼同,表與裏同。故以右治左,以左治右,以我知彼,以表治裏。(按繆刺論,以邪之入于經者,爲巨刺。流溢于大絡,而生奇病者,爲繆刺。繆刺者,以左取右,以右取左。其所謂大絡者,十五絡也。巨刺者,正刺也。繆刺者,與經脉異處也。)

【訓讀】
此れ善く鍼する者に法有るを言うなり。上文皮毛由り,而して漸く臟腑に入るを言う。則ち外に在れば表と爲し,内に在れば裏と爲し,表に在れば陽と爲し,裏に在れば陰と爲す。善く鍼を用いる者は,陽病の,必ず陰に行くを知るなり。故に陰從り以て之を引き,而して陽に出づ。陰病,必ず陽に行くを知るなり。故に陽從り以て之を引き,而して陰に入る。〔小字雙行注:『難經』六十七難に曰く:「五臟の募は皆な陰に在り,而して兪は陽に在りとは,何の謂(いい)ぞや?然り。陰病 陽に行き,陽病 陰に行く。故に募をして陰に在らしめ,兪をして陽に在らしむ。」此れ乃ち背腹を指して陰陽と爲す。特(た)だ一端のみ。然れども鍼法の陰從り陽に引き,陽從り陰に引くは,此れに止(とど)まらず。『靈樞』終始·禁服·四時氣の篇,人迎脉盛んなるを陰經病と爲し,則ち陽を瀉して陰を補す。氣口脉盛んなるを陰經病と爲し,則ち陰を瀉して陽を補す。補瀉施して而して陰陽和す。亦た陰從り陽を引き,陽從り陰を引くの法なり。〕凡そ人身の經絡,左と右と同じ,我と彼と同じ,表と裏と同じ。故に右を以て左を治し,左を以て右を治し,我を以て彼を知り,表を以て裏を治す。〔小字雙行注:繆刺論を按ずるに,以て邪の經に入る者は,巨刺を爲す。大絡に流溢して,而して奇病を生ずる者は,繆刺を爲す。繆刺なる者は,左を以て右を取り,右を以て左を取る。其に所謂(いわゆる)大絡なる者は,十五絡なり。巨刺なる者は,正刺なり。繆刺なる者は,經脉と處を異にするなり。〕

【注釋】
○然:答辭。おそらく「嘫」に通じ,「こたう」。 ○正刺:正經を刺すことか。

明·張介賓『類經』
善用鍼者,必察陰陽。陰陽之義,不止一端,如表裏也,氣血也,經絡也,藏府也,上下左右有分也,時日衰王有辨也。從陰引陽者,病在陽而治其陰也。從陽引陰者,病在陰而治其陽也。以右治左,以左治右者,繆刺之法也。以我知彼者,推己及人也。以表知裏者,有無相求也。

【訓讀】
善く鍼を用いる者は,必ず陰陽を察す。陰陽の義は,一端に止まらず。表と裏,氣と血,經と絡,藏と府,上下左右に分有り,時日の衰王に辨有るが如くなり。陰從り陽に引くとは,病 陽に在れば,而して其の陰を治するなり。陽從り陰に引くとは,病 陰に在れば,而して其の陽を治するなり。右を以て左を治し,左を以て右を治すとは,繆刺の法なり。我を以て彼を知るとは,己を推して人に及ぶなり。表を以て裏を知るとは,有無相い求むるなり。


清·張志聰『素問集注』
此言用鍼者。當取法乎陰陽也。夫陰陽氣血。外內左右。交相貫通。故善用鍼者。從陰而引陽分之邪。從陽而引陰分之氣。病在左者取之右。病在右者取之左。以我之神。得彼之情。以表之證。知裏之病。 觀邪正虛實之理而補瀉之。見病之微萌。而得其過之所在。以此法用之。而不致於危殆矣。

【訓讀】
此れ鍼を用いる者は,當に法を陰陽に取るべきを言うなり。夫れ陰陽氣血,外內左右,交(こも)ごも相い貫通す。故に善く鍼を用いる者は,陰從り而して陽分の邪を引き,陽從り而して陰分の氣を引き,病 左に在る者は之を右に取り,病 右に在る者は之を左に取る。我の神を以て,彼の情を得。表の證を以て,裏の病を知る。

清·高士宗『素問直解』
承上文感害之意而言。故善用鍼以治之者,知陽病必行於陰也。當從陰以引之,出於陽。知陰病必行於陽也。當從陽以引之,而離於陰。以右治左,以左治右,繆刺之法也。以我知彼,以我之神,會彼之神也。以表知裏,視其表陽,知其裏陰也。

【訓讀】
上文の感害の意を承けて言う。故に善く鍼を用いて以て之を治する者は,陽病必ず陰に行くを知るなり。當に陰從り以て之を引き,陽に出だすべし。陰病必ず陽に行くを知るなり。當に陽從り以て之を引き,而して陰に離すべし。右を以て左を治し,左を以て右を治すは,繆刺の法なり。我を以て彼を知るは,我の神を以て,彼の神に會するなり。表を以て裏を知るは,其の表陽を視て,其の裏陰を知るなり。

0 件のコメント:

コメントを投稿