2016年5月15日日曜日

劫刺と却刺

経筋の治療が、霊枢では燔針劫刺なのに、太素では燔針却刺となっています。どちらが正しいのでしょうか?

10 件のコメント:

  1.  現代中国の針灸家の中には、燔針・劫刺は両種の治療大法であって、燔針は寒症に用い、劫刺は熱症に用いると言う人がいる。具体的には、劫刺は九針十二原篇の「刺諸熱者、如以手探湯」で、速刺放血だとする。ただし、「劫」字を用いる理由の説明は無い。ましてや、「却」といずれが是かなどということは考えてもいない。

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  2. 是非を言うのは,銭超塵教授くらいかも知れない。
    「却」は「卻」の俗字であり,「卻」はまた「隙」に通じ,「隙」は「孔」であるとして:

    ……上節の楊注に,「却結,経脈に却有り,筋に結有るなり」と云い,「却」、「結」はいずれも経脈、経筋中の孔穴を指す,「却刺」はなお「隙刺」、「孔穴刺」を言うがごとし,もし刼掠の「刼」に作るときは則ち義に於いて通じ難し。……

    案ずるに,銭教授謂う所の「却結」の「却」字は,教授の見ていた資料では蝕爛で,下文から推したに過ぎない。より鮮明な資料に拠れば,むしろ「也」字の残筆と思われる。おそらくは「……なり。結経とは,脈に却(しりぞ)くもの有り,筋に結(むす)ぼれるもの有り」だと思う。「却」、「結」は必ずしも孔穴ではあるまい。

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    1. 人民衛生出版社の『黄帝内経太素校注』(李克光・鄭孝昌)には、仁和寺本『太素』は「刼刺」を「却刾」に作ると載せてはいるが、「却」は「刼」字の形訛ではないかと疑っている。

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  3. 『太素』に,「却刺」とは何ぞやを説いた楊上善注は有りません。そもそも「却」とは何ぞやも有りません。巻二・九気(S39挙痛論)「恐則精却」の下に,「故人驚恐,其精却縮」とあるくらいのものです。これは,「しりぞき縮こまる」なんでしょう。『太素』の他の用例からみれば,概ね普通の辞典に載っている「後にさがる,しりぞく」でいいようです。「却刺」は,速やかに退針させるというような意味でしょうか。

    『霊枢』は「劫刺」(明刊未詳本では多くは異体字で刼刺)です。渋江抽斎『霊枢講義』経筋篇にも時々,楊上善注を引いているのに,『太素』が「却刺」に作っていることには気づいてないようです。標準的な解としては,張介賓の「因火氣而劫散寒邪也」あたりでしょうか。「劫」は普通の辞典には「強奪する」と載っています。
    最近の中国の臨床家の中には,強奪した盗賊は速やかに退散する,と言う人がいるようです。火に炙った針を刺入し,すみやかに抜針する。張志聡の「如劫奪之勢,刺之即去,無迎隨出入之法」あたりが,その拠りどころでしょうか。

    劫刺と却刺と,どちらが是なのかは分かりませんが,意味は要するに,針を火に炙って刺入して,抜くときは素速く,のようです。だったら,どちらかと言えば,却刺と書くほうが素直なような気はします。

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  4.  劫は、『傷寒論』に用例があります。
     「火劫之」(火もて之に劫す)
     「以火迫劫之」(火を以て之に迫劫す)
     「以火劫発汗」(火を以て劫し、発汗せしむ)
     以上をみれば、「迫劫」とあるように、劫は迫るのようです。熱を持った鍼で、体内に押し迫ると言う意味だろうと思います。
     形近の字がいくつかあり、いろいろ解釈できそうですが、こじつけに近いような気がします。

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  5. 経筋篇には焠刺も有って,「焠刺者,刺寒急;熱則筋縱,毋用燔鍼」というのは,「焠刺は,寒急を刺す場合のことであって,熱して筋が縦んでいる場合には,燔鍼を用いてはならない」のはず。焠刺は燔鍼の言い換えのようなものだと思う。官針篇の九刺には「焠刺者,燔鍼即取痹也」とあって,楊上善は「以燄燔鍼,曰焠也」と注する。
    つまり,言っているのは「針を火であぶって」であって,それをどう刺抜すべきかは言ってくれてないのか,となるでしょう。してみれば,後の二字は速刺速抜を意味する,というのは参考になるかも知れないし,だったら劫刺と却刺と,どちらの言い方が妥当あるいは素直なんだろう,です。
    焼き針で熱をもって迫るというだけのことで,刺しかた抜きかたなんて言ってくれてない,という可能性も有りそうではあるけれど。

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  6. 燔鍼に、二法あって、現在行われている火鍼は、刺す鍼で、もちろん速刺速抜なのだけど、チベットの燔鍼は、刺さないで、皮膚面を焼くだけです。その場合、じりじり焼いていますから、速刺速抜とは言えません。『霊枢』の燔鍼がどちらの系統かわかりませんが、共通項として、「熱をもつて迫る」と考えたほうが良いのではなないでしょうか。

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    1. 「熱をもつて迫る」だけだったら、「刺」とは言わないんじゃないですか。

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  7. 『素問』通評虚実論篇に「刺三鍼」とあり、第三鍼の鍉鍼を「刺」と表現しているところをみると、「刺」は、必ずしも刺入を意味しないかも知れません。

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    1. この三鍼は第三鍼=鍉鍼ではなく,三たび鍼するだと考える。癇驚を刺すには五つの箇所。手太陰,経太陽,手少陽経絡傍,足陽明,上踝五寸で,併せて五。そのうち上踝五寸は刺すこと三鍼=三度。

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