2018年11月1日木曜日

鍼法秘粹

                                『臨床実践鍼灸流儀書集成』4所収       

鍼法秘粹序
夫世鍼法家傳之書雖行皆不足用故我
所傳來大明一流之鍼治及集於輸穴一
百有五號鍼法秘粹而刻梓記神授秘
奥之言以便刺道初學之徒而庶幾爲濟
世之一助云爾
 旹
元禄壬申天孟冬下下浣花洛隱士和田氏
謹叙

    【訓み下し】
鍼法秘粹の序
夫(そ)れ世に鍼法家傳の書行なわると雖も、皆な用いるに足らず。故に我が
傳え來たる所の大明(メイ)一流の鍼治及び輸穴一
百有五を集めて、鍼法秘粹と號して、梓に刻し、神授秘
奥の言(コト)を記(しる)して、以て刺道初學の徒(トモガラ)に便りす。而して庶(こい)幾(ねが)わくは
世を濟(すく)うの一助と爲らんことをと云(いう)爾(のみ)。
 旹
元禄壬申天孟冬下下浣花洛隱士和田氏
謹んで叙す

    【注釋】
鍼法秘粹序
夫世鍼法家傳之書雖行皆不足用故我所傳來 ○大明一流:之鍼治及集於 ○輸穴一百有五:「大明」と一〇五という穴数、および跋文から、匹地流との関連がうかがわれる。 ○號鍼法秘粹而刻梓記神授秘奥之言以便刺道初學之徒而 ○庶幾爲濟世之一助云爾:訓点通りによめば、「庶(こい)幾(ねが)わくは爲に世を濟(すく)うの一助と云(いう)爾(のみ)」。 ○旹:「時」の異体字。 ○元禄壬申:元禄五(一六九二)年。 ○天 ○孟冬:陰暦十月。 ○下 ○下浣:下旬(陰暦の二十一日から三十日)。 ○花洛:花の都。京都。 ○隱士:隠居して世を避けている人。隠者。 ○和田氏:『国書総目録』(元禄十一年書籍目録等による)によれば、和田養安。『鍼法口訣指南』(『続・鍼灸医学諺解書集成』別巻2所収)の撰者。 ○謹叙


    (跋)
右這書出事非我一流授與老師
雲州住匹地㐂菴同馬木理安石
州住見龍翁奥義門著之尤家傳
大明雖秘鍼初學之鍼刺見此書
極其肝要以濟病高明止之

    【訓み下し】
右這(こ)の書を出だす事非ず。我が一流、老師の雲州住匹地㐂菴、同じく馬木理安、石州住見龍翁の奥義を授與して門〔以て〕之を著わす。尤も家傳大明の秘鍼なりと雖も、初學の鍼刺、此の書を見て、其の肝要を極めて、以て病を濟(すく)う高明之を止む。

    【注釋】
右 ○這書出事非:門外不出である。 ○我一流 ○授與:さずけあたえる。 ○老師 ○雲州:出雲。いま島根県東部。 ○住 ○匹地㐂菴:「㐂」は「喜」の異体字。デジタル版 日本人名大辞典+Plusの解説:匹地喜庵。江戸時代前期の鍼(はり)医(い)。出雲(いずも)(島根県)の人。慶長(一五九六~一六一五)のころ長崎で明(みん)(中国)の琢周に鍼(しん)術をまなび、郷里にひろめた。 ○同 ○馬木理安:『琢周傳書』(大阪鍼灸専門学校所蔵。『鍼灸流儀書集成』第十四冊所収)の末尾に「元和八(?)年(元和は慶長の次の年号)……雲州大社之住 馬木理菴傳」とある。 ○石州:石(いわ)見(みの)国。いま島根県西半部。 ○住 ○見龍翁:島根大学の梶谷光弘先生によれば、『芦田家文書』にその名が見えるという。 ○奥義 ○門:「門」のくずし字に見えるが、意味不明。「以」か。 ○著之尤家傳大明雖秘鍼初學之鍼刺見此書極其肝要以濟病 ○高明:添え仮名の「カウメイ」にしたがって、ひとまず「高」字としたが、「爲」のくずし字にも見える。「高明」は、技術が高くすぐれていること。 ○止之

0 件のコメント:

コメントを投稿