2024年6月23日日曜日

黄龍祥『筋病刺法の進展と経筋学説の盛衰』1.2

  1.2 経筋 筋急 結筋

 筋が「結」するつながりによって,上下縦方向に走行する「筋」が形成する有機的な関係全体を「経筋」という。この大きな筋は『霊枢』経筋に全部で十二本あり,「十二経筋」という。筋と経筋の関係は,あたかも脈と経脈の関係のようである。

 筋急と結筋は,いずれも「筋」の病理的概念である。

 筋急とは,筋が寒邪に中(あ)たって攣急するところを指す。筋急には陽筋急と陰筋急(内[筋]急ともいう)が含まれ,躯体の症状は主に陽筋急によって引き起こされ,内臓の症状は陰筋急によって引き起こされる。『霊枢』経筋の十二経筋病候は主に陽筋急の症状であり,その表現形式には主に「支」「反折」「転筋」「瘛」などが含まれる。

 「筋急」が長い間解消されないとつねに硬結が形成される。これを「結筋」という。おしなべて「結筋」するところの筋が必ず急(ひきつ)ることは,『霊枢』経筋に「所過而結者皆痛及轉筋〔過ぎて結ぼれる所の者は皆な痛み及び轉筋す〕」とある通りである。したがって「筋急」を用いることによって「結筋」を含めることができる。

 隋代の官修医書『諸病源候論』には,「筋急」とは別に,「結筋」という項目があり,以下のような明確な定義がなされている。〔訳注:以下の「……」以前は結筋候ではなく,筋急候の文である。〕

「凡筋中於風熱則弛縱,中於風冷則攣急。十二經筋皆起於手足指,循絡於身也。體虛弱,若中風寒,隨邪所中之筋則攣急,不可屈伸……體虛者,風冷之氣中之,冷氣停積,故結聚,謂之結筋也〔(筋急候:)凡そ筋 風熱に中(あ)たれば則ち弛縱し,風冷に中たれば則ち攣急す。十二經筋 皆な手足の指に起こり,身を循絡するなり。體 虛弱し,若し風寒に中たらば,邪の中たる所の筋に隨い,則ち攣急して,屈伸す可からず……(結筋候:)體 虛する者,風冷の氣 之に中たれば,冷氣 停積す,故に結聚す,之を結筋と謂うなり〕」[1]〔卷22・霍亂病諸候〕。

    [1] 巢元方.南京中医学院校释.诸病源候论校释上册[M],北京:人民卫生出版社,1982:665-666.

 「結筋」を今日の鍼灸従事者は多く「筋結」という。これは一方で古代病症術語の標準化の成果とはつながらず,他方で『黄帝内経』にいう「筋有結〔筋に結ぶ有り/結=連結〕」「筋有結絡〔筋に結び絡する有り〕」は,みな筋の生理的概念であるので,歴史的あるいは論理的な角度から考えても,「結筋」という言葉の厳密で達意であるのには及ばない。よって本論では統一して「結筋」を標準名称とし,「筋結」を筋が急(ひきつ)れて結ぼれる概念としては使用しない。

 現代西洋のドライニードル治療の核心概念である筋膜のトリガーポイント(myofascial trigger points, MTrPs)は,一般的に筋肉の起始・停止部,筋肉筋腱の結合部および腱付着部に分布し,触診すると筋緊張帯(taut band)が触知でき,その中には結節(nodule)がある。このことからトリガーポイント(「触発点」とも訳される)の概念と経筋学説の「筋急」「結筋」の間は一脈通ずることがわかる。

  〔*トリガーポイント:原文は「激痛点」。〕


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