3.2 貫刺法
いわゆる「貫刺法」とは,病巣を直接穿刺し,一回で治らなければ再び刺し,「結」「積」の病巣を解消する。主に癰腫・癥瘕・瘰癧・結絡・結筋などの「結」「積」を特徴とする病症を刺すのに用いられるが,「結」「積」の大きさ・深さ・硬さの違いによって鍼具の大きさと操作の仕方が変わるだけである。『霊枢』経筋での寒熱瘰瘡の頸腫や『霊枢』四時気の癘風の腫への刺法は,みな貫刺法の臨床応用の典型的な例である。唐代の『千金翼方』には瘰癧を貫刺する詳細な操作が掲載されている。
「鍼瘰癧,先拄鍼皮上三十六息,推鍼入內之,追核大小,勿出核,三上三下,乃拔出鍼〔瘰癧を鍼するに,先ず鍼を皮の上に拄(ささ)うること三十六息,鍼を推して之を入れ內(おさ)む,核の大小を追い,核を出だすこと勿かれ,三たび上げ三たび下げて,乃ち鍼を拔き出だす〕」[9]334。
[9] 孙思邈.千金翼方[M].影印本.北京:人民卫生出版社,1955:334.〔『千金翼方』卷28痔漏第6〕
『霊枢』経筋篇に「所過而結者皆痛及轉筋〔過ぐる所にして結ぼれる者は皆な痛み及び轉筋す〕」とある。これは「筋急」をもって「結筋」を統括した意味であるので,「結筋」の病巣にもっぱら焦点をあてた例として示された貫刺法ではない。『諸病源候論』はかなり早く「結筋」の項目を記載し,明確に定義をしているが,重点は疾病の診断にあり,治療は導引養生法を掲載しているだけで鍼法を収録していない。伝来する古代の医学書で結筋の病巣について「貫刺」の妙が詳述されているのは,古代朝鮮の医書『腫治指南』(16世紀中葉,任彦国撰)と,この書の学術を継承した許任の『鍼灸経験方』(1644年)である。
假如臂肘曲急不得張伸,則以手摩擦肘旁內外筋急結聚處;又以大拇指當筋結中重按不動,以鍼剖刺;又按肘內上下連筋二三處筋中結壅貫刺,或手腕筋急結壅處亦刺,並附煮竹筒三四度;或肘紋中結經處當尺澤亦刺,必效〔假如(もし)臂肘曲がり急(ひきつ)り張り伸ばすことを得ざれば,則ち手を以て肘の旁ら內外の筋の急(ひきつ)り結ぼれ聚まる處を摩擦す。又た大拇指を以て筋結の中に當て重く按(お)して動かさず,鍼を以て剖刺す。又た肘內の上下に連なる筋の二三處の筋中の結壅を按し貫刺す,或いは手腕の筋急結壅する處も亦た刺す,並びに煮たる竹筒を附(つ)くること三四度,或いは肘紋の中の結ぼれる經の處,尺澤に當て亦た刺す,必ず效あり〕。(『治腫指南』〔臂肘曲急圖〕)
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/en/item/rb00004092 31/69コマ目
https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ya09/ya09_00050/ya09_00050.pdf 18/47コマ目
これには筋急と結筋を貫刺する法が詳しく述べられ,「筋結」であれ「結経」であれ,「結」が見られれば貫刺法を用いている。『黄帝内経』の貫刺法の適応症についての理解が正確であることがわかる。その発展としては刺した後に煮た缶をあてて寒邪を引き抜いて外に出し,「燔鍼劫刺」を兼ねる意味があり,また筋と脈を同時に治する意味もある。
手臂筋攣酸痛,專廢食飲不省人事者,醫者以左手大拇指堅按筋結作痛處使不得動移,即以鍼貫刺其筋結處,鋒應於傷筋則痠痛不可忍處,是天應穴也。痛隨鍼,神效,不然則再鍼。凡鍼經絡諸穴,無逾於此法也〔手臂筋攣酸痛,專ら食飲を廢し人事を省みざる者は,醫者 左手の大拇指を以て堅く筋結ぼれて痛みを作(な)す處を按(お)して動き移ることを得ざらしめ,即ち鍼を以て其の筋の結ぼれる處を貫き刺し,鋒 傷(やぶ)れる筋に應ずれば,則ち痠痛 忍ぶ可からざる處,是れ天應の穴なり。痛まば隨って鍼すれば,神效あり,然らざれば則ち再び鍼す。凡そ經絡の諸穴に鍼するに,此の法を逾(こ)ゆること無きなり〕。(『鍼灸經驗方』〔卷中・手臂〕)
手足筋攣蹇澀以圓利鍼貫刺其筋四、五處後,令人強扶病人病處,伸者屈之,屈者伸之,以差為度,神效〔手足の筋 攣(ひきつ)り蹇し澀るは圓利鍼を以て其の筋の四・五處を貫き刺せる後,人をして強いて病人の病處を扶(ささ)え,伸ぶる者は之を屈し,屈する者は之を伸ばし,差(い)ゆるを以て度と為す,神效あり〕。(『鍼灸經驗方』)
〔『勉學堂鍼灸集成』卷2・脚膝に見える。和刻本『鍼灸経験方』には見えない。なお『勉学堂鍼灸集成』は『東医宝鑑』『鍼灸経験方』『類経図翼』の三書を編集した本。〕
前文は,貫刺法の三つの要点を明らかにしている。すなわち,①操作上,押手でしっかり抑えて「結筋」する病巣を固定しなければならない。②鍼尖が触れると患者が痛みに耐えきれなくなる場所を穴とする。③この貫刺法は疼痛証を治療し,「結筋」が見られる場合,治療効果は通常の経穴刺法より優れている。
後文は,貫刺法による経筋病を治療する補助療法の補足である。すなわち,鍼を刺した後に牽引療法を組み合わせて,治癒することを目途とする。つまり『黄帝内経』にある筋病を治療する「引」法である。
現在西洋で流行している筋筋膜痛を治療するドライニードル療法によるトリガーポイント鍼治療の操作の要点は,古代の貫刺法による経筋病痛証を治療する操作と軌を一にしていることが容易にわかるので,中国古典鍼灸の「結筋」貫刺法の再発見と言えよう。
「結筋」貫刺法の現代的発展は主に以下の二つの面に現われている。
その一,注射針から鍼灸用の鍼へという治療道具の方向転換である。初期には異なる薬物注射剤の処方が多用され,注射針を用いて「筋硬結」の病巣に注射した。西洋のドライニードル療法の前身である,日本の枝川直義の「枝川注射療法」〔*〕や中国の王鶴浜〔**〕の「横紋筋非菌性炎症病源点注射療法」などは,みなこの方法を用いて治療した。その後,注射用の水のみ,薬液なし,あるいは液体を一切注射せず,中実〔薬液を注入する空洞がない〕針だけで刺す方法も有効で,さらに治療効果がよいこともわかり,治療法の名称も「乾針療法」(dry needling)と改められた。しかし「乾針」という言葉が西洋で流行し,注射針の代わりに鍼灸用の鍼が臨床で一般的に用いられるようになるまでには長い時間がかかった[12]。
[12] 彭增福.肌筋膜疼痛综合征激痛点针刺疗法[M].广州:羊城晚报出版社,2019:3-11.
〔*〕枝川直義『なおさん枝川注射療法:体壁医学の臨床応用』,カレントテラピー,1990.5
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ryodoraku1968/30/2/30_2_33/_pdf
枝川直义『枝川注射疗法: 体壁内脏相关论的临床应用』,科学技术出版社, 1989.〕
〔**〕王鶴浜:毛沢東の主治医をつとめた眼科医(1924~2018年)。『从肌肉来的疾病』(2010年)を著わす。多くの疾病は主に筋肉の非菌性炎症が炎症部位を走行する神経に影響を及ぼし,その神経が支配する臓器や身体部位に疾病を引き起こすと提唱した。
その二,鍼を刺す点の位置がより正確になり,おおまかに「結筋」の病巣(「筋硬結」「トリガーポイント」)を刺すのではなく,患者の最も痛い点である「ジャンプ徴候」(jump sign)と筋繊維の局所痙攣反応を引き起こす反応点を探索することを強調し,画像装置の助けを借りて,精確な刺鍼を実施する。
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