2024年6月29日土曜日

黄龍祥『筋病刺法の進展と経筋学説の盛衰』3.1

 3 筋病刺法の発展

 本節では,筋刺法の中で論争の的となっているか,長期にわたって見過ごされてきた,以下の五つの法,すなわち,内熱刺法・貫刺法・挑刺法・募刺法・分刺法を重点的に考察する。

 説明する必要があるのは,以上の刺筋病の各方法は,単独で用いることもできるが,それぞれを組み合わせることによって治療効果を高めることもできることである。


 3.1 内熱刺法

 「内熱法」は寒痺を治療する通常の治療法である。「内熱刺法」とは内熱法と鍼刺法を併用するもので,その臨床応用にはつぎの二種類がある。

 その一,内熱法と鍼刺法を段階的に実施する。先に刺した後に熨〔熱罨法〕する。刺した後に必ず熨する。

 『黄帝内経』の熱熨法には「湯熨」と「薬熨」がある。

 その二,内熱法と鍼刺法を一体化した「焠刺」と「燔鍼劫刺」。

 「焠刺」は,まず鍼を焼いて熱さが極まったら素早く刺す。すなわち後世と現代で流行している火鍼法である。しかし「燔鍼劫刺」法については,刺法の標準を専門に論じた『霊枢』官針には掲載がなく,その他の篇にも具体的な操作の模範は示されていない。ただ『素問』調経論は「燔鍼劫刺」と「焠鍼薬熨」を独立したものとして扱っていて,それぞれ「筋に在る病」と「骨に在る病」という異なる病症の治療に用いていることから見れば,両者の操作は異なるはずである。この二つの刺法の相違について,明代の『素問』の注家である呉崑は『内経素問呉注』〔調経論〕の中で,「燔鍼者,內鍼之後,以火燔之暖耳,不必赤也;此言焠鍼者,用火先赤其鍼而後刺,不但暖也,此治寒痹之在骨者也〔燔鍼なる者は,鍼を內(い)るるの後,火を以て之を燔(あぶ)りて暖むるのみ,必ずしも赤くせざるなり。此の焠鍼と言う者は,火を用いて先ず其の鍼を赤くして而(しか)る後に刺す,但だ暖かきのみにあらざるなり,此れ寒痹の骨に在るを治する者なり〕」[11]と述べているが,同時代の『黄帝内経』の注家である張介賓の注解も呉崑注と観点は同じである。

    [11] 吴崑.内经素问吴注[M].山东中医学院中医文献研究室点校. 济南:山东科学技术出版社,1984:243. 

    〔『類經』卷14-20「焠鍼藥熨」注:「病在骨者其氣深,故必焠鍼刺之,及用辛熱之藥熨而散之。○按:上節言燔鍼者,蓋納鍼之後,以火燔之使暖也,此言焠鍼者,用火先赤其鍼而後刺之,不但暖也,寒毒固結,非此不可。但病有淺深,故聖人用分微甚耳。焠刺義見鍼刺類五〔卷19-5〕」。〕

 この二種類の内熱刺法の臨床応用原則については,『霊枢』寿夭剛柔に具体的な例がある。「刺寒痹內熱奈何?伯高答曰:刺布衣者,以火焠之。刺大人者,以藥熨之〔寒痹を刺して熱を內(い)るるは奈何(いかん)?伯高答えて曰わく:布衣を刺す者は,火を以て之を焠(や)く。大人を刺す者は,藥を以て之を熨す〕」。このことから,焠刺法は刺激強度が高く,一般庶民に適しているが,熨法や鍼を刺した後に火を用いて熨する方法は強度が低く,高官貴人に適していることがわかる。

 後世においても二つに分かれて発展した。一つは火鍼法であり,もう一つは温鍼法である。

 温鍼法は艾火で鍼柄を焼き,鍼体からの伝導を利用して「熱をして中に入れしめる」,熨法と鍼法を融合一体化したもので,『黄帝内経』にある内熱刺法を改良したものと見なすことができ,陰寒証に広く用いられる。現代の宣蟄人教授〔1923年~〕は温鍼法の鍼具を比較的太い銀鍼に変更して熱の伝導性能を強め,「密集型圧痛点銀鍼療法」を創始して椎管外の軟部組織損傷性の疼痛を治療し,痛痺を治療する専用の鍼法とした。これは古代の温鍼法を継承し革新したものである。近年流行している内熱鍼法の「熱凝固高周波療法」も,密集型銀鍼療法を基礎として,鍼具と加熱の方法を改良し,鍼尖から鍼体までを定温で加熱できる鍼具を採用し,加熱温度を制御可能にして,安全性と患者のコンプライアンスを高めた。

    〔高周波熱凝固(RF):高周波熱凝固とは針先から高周波電流を流し,米粒程度の範囲を80℃程度の熱で凝固して痛みの信号を遮断するもの。〕

    https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000032.html

    〔局所麻酔薬による神経ブロックと同様に、神経の近くに針を刺して処置を行います。針の先端から高周波の電磁波により熱を発生させ、神経を構成しているタンパク質の一部を凝固して、神経の働きを長期間抑える方法です。局所麻酔薬で一時的に神経を麻痺させる一般的なブロックと違い、この方法では、遮断された神経が再生するまで効果が持続します。〕

    〔患者のコンプライアンス:患者が医療従事者の指示通りに治療を受けること。/→アドヒアランス〕

 古代の寒痺を治療する薬熨法は,現在では各種の電熱薬熨器具に取って代わられることが多く,伝統的な薬熨機能を実現した基礎の上にマッサージの機能も兼ねており,使用がより便利で温度が制御でき,刺激量も調整可能で,熨と引を一体化した複合療法であり,古代の筋痺を治療する熨法と引法を組み合わせたイノベーションとみなすことができる。

 

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