2011年11月26日土曜日

『醫説』鍼灸 關聯史料集成 4 鍼蒭愈鬼 その7

『南史』卷三十二
常有嫗人患滯冷,積年不差。嗣伯為診之曰:「此尸注也,當取死人枕煑服之乃愈。」於是往古冢中取枕,枕已一邊腐缺,服之即差。
後秣陵人張景,年十五,腹脹面黃,眾醫不能療,以問嗣伯。嗣伯曰:「此石蚘耳,極難療。當取死人枕煑之【校勘:「取」字各本並脫,據冊府元龜八五九及通志補】。」依語煑枕,以湯投之,得大利,并蚘蟲頭堅如石,五升【校勘:「如石」下,太平御覽七二三引、太平廣記二一八並有「者」字】,病即差。
後沈僧翼患眼痛,又多見鬼物,以問嗣伯。嗣伯曰:「邪氣入肝,可覓死人枕煑服之。竟,可埋枕於故處。」如其言又愈。
王晏問之曰:「三病不同,而皆用死人枕而俱差,何也?」答曰:「尸注者,鬼氣伏而未起,故令人沉滯。得死人枕投之,魂氣飛越,不得復附體,故尸注可差。石蚘者久蚘也,醫療既僻,蚘蟲轉堅,世間藥不能遣,所以須鬼物驅之然後可散,故令煑死人枕也。夫邪氣入肝,故使眼痛而見魍魎,應須而邪物以鈎之,故用死人枕也。氣因枕去,故令埋於冢間也。」

【訓讀】
常(かつ)て嫗人の滯冷を患うもの有り,積年して差(い)えず。嗣伯為に之を診て曰く:「此れ尸注なり。當に死人の枕を取って煮て之を服すべし。乃ち愈えん。」是(ここ)に於いて古き冢の中に往き枕を取る。枕已に一邊腐り缺く。之を服せば即ち差ゆ。
後に秣陵の人張景,年十五,腹脹り面黃ばむ。眾醫 療する能わず,以て嗣伯に問う。嗣伯曰く:「此れ石蚘のみ。極めて療し難し。當に死人の枕を取って之を煮るべし。」語に依って枕を煮,湯を以て之を投ずれば,大いに利し,并びに蚘蟲の頭堅きこと石の如きを得ること,五升。病即ち差ゆ。
後に沈僧翼 眼痛を患い,又た多く鬼物を見る。以て嗣伯に問う。嗣伯曰く:「邪氣 肝に入る。死人の枕を覓(もと)めて煮て之を服す可し。竟(お)えれば,枕を故(もと)の處に埋む可し。」其の言の如くし,又た愈ゆ。
王晏 之に問いて曰く:「三病同じからず。而るに皆な死人の枕を用いて俱に差ゆるは,何ぞや?」答えて曰く:「尸注なる者は,鬼氣伏して未だ起たず。故に人をして沉滯せしむ。死人の枕を得て之を投ずれば,魂氣 飛越し,復た體に附(つ)くを得ず。故に尸注差(い)ゆ可し。石蚘なる者は久蚘なり。醫療既に僻し,蚘蟲轉(うた)た堅く,世間の藥 遣(や)る能わず。所以(ゆえ)に鬼物を須(もと)めて之を驅り,然る後に散ず可し。故に死人の枕を煮せしむるなり。夫(そ)れ邪氣 肝に入る。故に眼痛みて魍魎を見せしむ。應に邪物を須(もち)いて以て之を鈎(さぐ)るべし。故に死人の枕を用いるなり。氣 枕に因って去る。故に冢間に埋めしむるなり。」

【注釋】
○常:ここでは「嘗」の通字と解した。 ○嫗:婦女の通稱。おもに老女。 ○滯冷:おそらく冷え症。 ○積年:多年。 ○為:嫗人のために。 ○尸注:尸疰とも。九注の一つ。『諸病源候論』卷二十三 尸病諸候·尸注候に見える。曰く「尸注病者,則是五尸內之尸注,而挾外鬼邪之氣,流注身體,令人寒熱淋瀝,沈沈默默,不的知所苦,而無是不惡。或腹痛脹滿,喘急不得氣息,上衝心胸,傍攻兩脇,或磥塊踊起,或攣引腰脊,或舉身沈重,精神雜錯,恆覺惛謬〔神志昏亂する〕。每節氣改變,輒致大惡,積月累年,漸就頓滯〔疲勞が長引く〕,以至於死。死後復易〔感染する〕傍人,乃至滅門。以其尸病注易傍人,故為尸注。」早島正雄譯本では,腸チフス、食中毒、ブルセラ症が當てられている。『肘後備急法』卷一·治卒中五尸方第六も參照。 ○死人枕:呉崑『醫方考』卷三 五尸傳疰門第十九に,「死人枕(即死人腦後骨也。得半朽者良。用畢置之原處)」とある。李時珍は『本草綱目』卷三十八に「死人枕席」という項目を立てているので,「まくら」と解したのであろう。どちらが正しいか,待考。 ○煑:「煮」の異体字。 ○冢:高大な墳墓。 ○秣陵:いま南京市。秦,金陵を改めて秣陵となす。漢﹑晉から南朝まで,治むるところ屢しば變革あり,隋以後廢さる。 ○張景:未詳。 ○腹脹:『靈樞』玉版、水脹などの篇にみえる。また『諸病源候論』に腹脹候あり。 ○石蚘:石蛔。他に例を見ず。下文によれば石のような硬い頭を持った蛔虫。 ○投:投藥する。 ○利:「痢」に通ず。下痢。 ○沈僧翼:未詳。 ○鬼物:鬼。幽靈。 ○王晏:齊の尚書令。 ○魂氣:靈魂。『禮記』郊特牲「魂氣歸于天。形魄歸于地。」 ○不得復附體:二度とはもとの體にはよりつけない。 ○久蚘:未詳。 ○僻:正しくない。 ○轉:副詞「ますます」。あるいは,動詞「變轉する」か。 ○世間:世上の。 ○遣:驅逐、排除する。 ○鬼物:幽靈などにかかわる物か。 ○魍魎:人を害する鬼怪の總稱。魑魅魍魎。 ○應須而邪物以鈎之:『太平廣記』に「而」字なし。いま從う。 鈎:引き出す。鈎(かぎ)に引っかけて取る。 ○氣:邪氣。 ○因:憑藉、依據する。

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