2024年5月5日日曜日

黄龍祥『兪穴論』2.3

  2.3 節点

 兪穴の多くが「節の交」に分布することを知ったが,それではどの部位の交点が兪穴,特に大兪要穴が密集して分布するところなのか。すなわち「節の交」における鍵となる交点の分布にはどのような法則があるのか。この法則が把握できれば,臨床の選穴処方は「一言にして之を終える」要を得ることができる。

  「脈会」を,脈兪を含めた各種の経兪の中核としているので,論理的に以下のように推測できる。すなわち脈会が多ければ多いほど,気血が盛んである部位であるほど,兪穴が密集して分布し,大兪要穴の所在である可能性もより高くなる。

 では,古典鍼灸学の角度に基づけば,どの部位が気血が最も盛んで脈会が最も多い部位であろうか。気血が分布する量は,関節の大きさおよび機能の複雑さに比例している。その典型的な例は以下の通りである。

 例1:人体で最大の脈は脊裏をめぐる衝脈であり,十二経の海である〔『霊枢』海論〕。脊椎は頭蓋骨と一体であり,人体最大の骨であり,関節と骨空が最も多い骨でもあるので,経典に「腰脊者,身之大關節也〔腰脊は,身の大關節なり〕」〔『霊枢』刺節真邪〕とある。この最大の脈は,最も大きくかつ関節が最も多い骨と密接に関連している。

 例2:人体で関節が最も多く,機能が最も複雑な部位は手足と脊柱であり,これらの部位の血気も最も豊富で,しかも血気が運行する重要な節点である。手足部は陰陽脈の会であり,十二経脈が出るところである。

 例3:骨空が最も多い頭顔面も血気が豊富な部位であり,経典に「十二經脈,三百六十五絡,其血氣皆上於面而走空竅〔十二經脈,三百六十五絡,其の血氣は皆は面に上って空竅に走る〕」〔『霊枢』邪気蔵府病形〕とある。

 例4:脈兪,特に大兪は骨間・骨空・骨の会処に多い。

 このほか,中央部の脈は,腹部中央の任脈のように左右の諸脈が交会し,頭頂部・脳後・頸部中央の督脈の兪も左右の諸脈と交会することが多い。人体の最高点と最低点および突出部(指端・足指端・耳・鼻など)の突出した点も諸脈が交会し,気血が充満する場所である。たとえば人体の最も高い点である頭頂部にある「百会」は脳に入る髄空の一つであり,また足太陽・足厥陰・督脈が交会する場所である。最も低い点である足心は陰脈があつまる場所であり,いわゆる「陽氣起於足五指之表,陰脈者集於足下而聚於足心〔陽氣は足の五指の表に起こり,陰脈は足下に集まって足心に聚まる〕」〔『素問』厥論〕である。「手足少陰、太陰、足陽明之絡,此五絡皆會於耳中〔手足の少陰・太陰・足陽明の絡,此の五絡は皆な耳中に會す〕」〔『素問』繆刺論〕,「十二經脈,三百六十五絡,其血氣皆上於面而走空竅,其精陽氣上走於目而為睛,其別氣走於耳而為聽,其宗氣上出於鼻而為臭〔十二經脈,三百六十五絡,其の血氣は皆は面に上って空竅に走り,其の精陽氣は上って目に走って睛と為り,其の別氣は耳に走って聽と為り,其の宗氣は上って鼻に出でて臭と為る〕」〔『霊枢』邪気蔵府病形〕

 これらの部位はちょうど現代解剖学が発見した血管が最も多く,かつ血行をコントロールするための鍵となる部位である。たとえば,全身で最も大きな動脈である大動脈は,脊柱の前を走る。頻繁に動く関節とその付近にある動脈には多くの分枝と互いに吻合した血管網がある。四肢の血管の多くは,筋肉と骨格の溝・隙間および関節の屈曲面に分布している。頭頂部の百会穴のところには,左右の後頭動静脈と左右の浅側頭動静脈,および左右の前頭動静脈からなる血管網がある。足心にある湧泉穴には,多数の血管が吻合していて,足底動脈弓とそれに伴走する足底静脈弓を形成している。指(趾)腹と爪床において,動静脈が吻合することによって多くの小構造単位を形成するが,これを血管球〔参考:血管球(glomerulus):腎臓小嚢に包まれた毛細血管。糸球体/グロムス装置(glomus apparatus)・グロームス小体(glomus body)・血管糸球・皮膚糸球〕という。これらの血管球は真皮の深層に位置し,各血管球には 一つかそれ以上の輸入動脈がある。動静脈の吻合は冷えやすい体の末端部(手・足・耳・唇・鼻)に多く見られる。

 これによって,現代解剖学がまとめた血液の運行と調節の幹線道路と鍵となる部位の法則が二千年以上前の鍼灸学の認識と軌を一にすることがわかる。

 気血の分布が最も多い区域は当然ながら「脈会」が最も多い場所であり,気血の運行を調節する鍵となる部位も,兪穴,特に大兪要穴がある場所である可能性が高い。漢代の『黄帝明堂経』が掲載する349個の経兪と明代の官修医学書『奇効良方』が掲載する26個の「奇穴」を系統的に考察したところ,兪穴が密集して分布する場所と大兪要穴の位置は,上述した中西医学の共通認識である血気が豊かな場所と血行調節の鍵となる点の分布法則と完全に一致する。例をあげれば,諸骨節の交と骨の前後両側には兪穴があり,特に大兪要穴が密集して分布する場所で,経脈の本兪と臓腑の原・合は,ほとんどみな関節部に位置する。中央部の衝脈・任脈の浅層は諸脈の会穴であり,深層は多く内臓の募・原であり,大兪要穴の密集して分布する場所でもある。最も高いところ,頭頂部にある百会と最も低いところ,足心にある湧泉は,いずれも大穴である。手足や頭顔面の突出した部分には兪穴が密に分布する。たとえば,素髎・兌端・耳尖・十宣・井穴・大骨空・小骨空・中魁・五虎・肘尖・内踝尖・外踝尖などであり,その中にも大兪要穴は少なくない。

 以上の兪穴が密に分布する区域と大兪要穴が分布する区域の法則から分かるように,「節の交」とは,すべて骨節の交わりを指すわけではないが,骨節の交わり,特に活動が活発で,機能が複雑な関節は,往々にして多気多血のところであり,大兪要穴のあるところでもある。まさに張志聡の『黄帝内経素問集注』骨空論にいう「骨節の空処は,即ち脈の穴会」[7]である。

    [7] 张志聪.黄帝内经素问集注[M].王宏利,吕凌校注.北京:中国医药科技出版社,2014:192.

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