2024年5月1日水曜日

黄龍祥『兪穴論』1.2

  1.2 常態と動態

 脈会を兪としたが,脈には動・静の二つの状態がある。脈の異常変動を用いて病を診察したので,『霊枢』経脈篇に掲載された十二経脈の病候は,いずれも「是動則病〔是れ動ずれば則ち病む〕」という。「脈が動ずる」とは何か。本篇の経文は「脈之卒然動者,皆邪氣居之,留於本末;不動則熱,不堅則陷且空,不與衆同,是以知其何脈之動也〔脈の卒然として動ずる者は,皆な邪氣 之に居り,本末に留まる。動ぜざれば則ち熱し,堅からざれば則ち陷且つ空,衆と同じからず,是こを以て其の何の脈の動かを知るなり〕」と明言している。これはすなわち『素問』三部九候論のいう「独小」「独大」「独疾」「独遅」「独熱」「独寒」「独陥下」であり,衆脈と異なる脈象がすなわち「脈動」であり,「有過之脈」〔過(異常)が有る脈。『素問』脈要精微論〕でもある。

 脈兪には診断と治療の二重の効用もある。疾病状態あるいは特定の生理状況下(たとえば妊娠・月経期など)における兪穴があらわす形態・色沢・温度・圧痛など,正常状態とは異なる変化を兪穴の「動」態という。

 臨床における選穴処方の便宜上,古人は大量の診療データに基づいて,よく見られる病に高い頻度で応ずる穴の分布法則をまとめた。たとえば『霊枢』癲狂は,古人が長期にわたる診療経験をまとめた癲と狂についての鍼灸診療における高い頻度で応ずる穴で,治療にあたって鍼師はこれらの高い頻度で応ずる経兪の中から「病に応ずる」穴を選んだ。つまり「動」態にある経兪に対して治療した。癲狂があらたに発症し,リストに挙げられている高頻度の穴の中に「病に応ずる」穴が探せないときは,関連する経兪と「血盛而當瀉〔血盛んにして當に瀉すべき〕」〔『素問』気穴論〕奇兪血絡を取って治療した。

 『黄帝内経』がまとめた,よく見られる病気に対する高い頻度で応ずる穴を見ると,圧倒的多数は経兪に現われる。臨床上高い頻度で出現する応ずる穴は,不断の実践検証をへて固定され,専門の名称が与えられ経兪となった,少なくとも経兪の主体を構成した,とも言える。


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