はじめに
宋・周守忠撰『歷代名醫蒙求』について
『歷代名醫蒙求』は,その名が示す通り,歴代の名医等にかんする事柄を『蒙求』の体例にならって韻を踏む百聯(四字二句)をつくり,その説明として出典を引用したものである。
撰者の周守忠は,「南宋錢塘(今浙江杭州)人。一名守中,字榕庵(一作松庵)。博覽群書,集前代醫家醫事,編為韻語二百句,載人物二百零二人,撰成《歷代名醫蒙求》兩卷(1220年),為古代醫史重要資料。另撰有《類纂諸家養生至寶》(或稱《養生類纂》二十二卷、《養生月覽》兩卷。書目著錄有《養生雜纂》、《養生延壽書》。」
A+醫學百科 :http://cht.a-hospital.com/w/%E5%91%A8%E5%AE%88%E5%BF%A0
A+醫學百科では触れられていないが,周守忠は本書を撰する前に(跋を参照),やはり『蒙求』にならって『姫侍類偶』を撰している。『四庫提要』(子部四十七 類書類存目一)では,「其文屬對既拙,又多漏略」と,あまり高く評価されていない。また大抵『太平廣記』を稿本としている,という。
底本とした版本がよくないためか,撰者が使用した本が悪かったためか,あるいはその他の理由のためか,誤字脱字と思われる箇所が散見し,難解なところが少なくない。
そのため,なるべく原典など,関連する文献を参照して理解に努めた。
その出典名は以下に示す通りであるが,原典からではなく,その引用文(の省略状況)から『太平廣記』などから孫引きしたのではないかと推察されるものもある。
また,出典名に誤りがあると思われるものもある。
詳細は,各聯で言及する予定である。
○底本は,宋・臨安本『歷代名醫蒙求』(天祿琳琅叢書之一),人民衛生出版社影印本,1955年。
★「胤」「恒」「敦」(宋の太祖の名匡胤。北宋の第3代皇帝,真宗の名恆。南宋の第3代皇帝,光宗名の惇,兼避敦。)字に闕筆が見られる。
○参考文献は,『歷代名醫蒙求』(宋・周守忠原撰 邵冠勇・邵文・邵鴻續編并注釋,齊魯書社,2013年)および引用されている文献で現存するもの。
なお,邵冠勇らの本は,題名は同じであるが,宋代以降の名医に関するエピソードを蒐集して加え,二百二十聯に増補したものである。
底本とほぼ同じものが,インターネット上に公開されている。2025/04/20現在:
宋・周守忠撰『歷代名醫蒙求』
https://www.shidianguji.com/book/SDZJ0474/chapter/1k2ku1xctm52d?version=3
上記のサイトでは,跋文の一丁分が欠けている。また虫損箇所もある(翻字は□となっている)。
文字データ化された翻字の誤りもあり,その誤った翻字に基づいた現代漢語の訳文もあるが,理解の助けとなった。
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参照の便のため,二句ごとに仮に番号を振った。001~101。序を000.1とした。
【翻字】
・なるべく原文に近いフォントを使う。
・()内は,小字双行であることを示す。
・作業は,インターネットで参照できる『识典古籍』所収の『历代名医蒙求序』の文字データを校正する形でおこなった。
https://www.shidianguji.com/book/SDZJ0474/chapter/1k2ku1xctm52d?version=3
【訓み下し】
・「巳・已・己」「日・曰」は,意味から判断して,適宜ふさわしいと思われる字に改めた。
・繰り返し記号(踊り字)は,文字に改めた。
・引用されている文献と比較し,文字を補った方が意味が判りやすくなる,語調がととのうと思われるところは,一部〔〕に入れて文字を補った。誤字と思われるところはその文字の後に,正しいと思われる文字を【】に入れた。
・台湾の繁体字を基本とするが,日本で通行している字体と共通する文字は一部そのまま用いる(衆など)。
・「爲」:原文の「爲」を用いることにした。(序文は楷書体ではないため,「為」に見える。)台湾では「爲」がかつて正體であったが,現在は「為」となっている。
【訓み下し】を読んで,【注釋】を参照しなくても,内容がなるべく理解できるようなものにしたい。したがって一般的な書き下し文よりも和語が多くなり,一般的な訓にはこだわらないであろう。ときには,漢字のルビも使うかも知れない。
・押韻する四字の二句は,そのまま音読すべきかとも思われるが,参考までに【訓み下し】をつけた。邵冠勇らにならい,末尾に各聯に登場する人物名を挙げる。
・書名の「大素經」と「太素經」,人名の「楊上善」と「揚上善」など,固有名詞でも表記が一定していないものがあるが,取り扱いは思案中。
【注釋】
・引用文献の出典を捜索し,あわせて語句の意味をしらべた。おもに漢語の辞書による。辞書が引用する例文も理解を助けるために貼り付けているところもあるが,その原典チェックはしていない。標点符号は引用元のままのところが多いが,一部改変した。そのため,不揃いである。
・簡体字の注は基本的に繁体字に置換した。
・繁体字の一部を常用漢字にあらためたところがある。
【譯文】
『识典古籍』所収の『历代名医蒙求』にある現代漢語訳を参考に記載し,またそれをChatGPTやCopilotなどを利用して日本語にAI翻訳してみる。翻訳の元となった翻字にあやまりが含まれているものもあるが,基本的に手を加えない予定である。
・異体字の例:
歳・歲。兾・冀。敎・教。𠋩・復。丗・世。万・萬。靣・面。錄・録。凢・凡。冨・富。変・變。盖・蓋。况・況。緼・蘊。湿・濕。强・強。針・鍼。効・效。沈・沉。内・內。說・説。眞・真。畧・略。槩・概。横・橫。黄・黃。胷・胸。莭・節。将・將。苐・第。聦・聰。聴・聽。満・滿。曽・曾。静・靜。卧・臥。讃・讚。悪(西+心)・惡。甞・嘗。絶・絕。恒・恆。蔵・藏。髪・髮。輙・輒。晋・晉。㑹・會。従・從。决・決。来・來。逺・遠。娱・娛・娯。髙・高。覧・覽。熈・熙。恠・怪。黒・黑。寳・寶。劔・劍。刄・刃。暦・曆。歴・歷。懐・懷。竒・奇。蟇・蟆。峯・峰。経・經。廵・巡。栁・柳。遥・遙。甦・蘓・蘇。潜・潛。祕・秘。鋭・銳。拋・抛。叙・敘。荅・答。溉・漑。乆・久。沉・沈。禄・祿。㮤・榕。菴・庵。欵・款。荖・差。朞・期。衆・眾。㱕・歸・帰。
・腹の旁は,𠋩の旁と同じものが多いが,現状,ユニコードに配当がないので,「腹」のまま。通用字より画数が微妙に増減する字もあるが,これも表示できないので無視した。
・異体字と考えられる漢字でも,「針」と「鍼」,「乃」と「廼」,「絡」と「胳」,「麤」と「麁」(=粗)など字形がかなり異なるものの中にはそのままにしたものもある。
・巻末の釋音には,異体字の説明も含まれている。統一してしまうと意味不明になるおそれがあるので通行の字に改めなかったところもある。
○釋音:脈(與脉同)。
本書の引用書目(順不同。底本の表記をおおむね尊重する):
○序本草:001
○名醫録: 008/011/022/025-1.2/026/029-1.2/046-1.2/048/058/059/064-1.2/065/068/070/080/086/090-1.2/093/095-1.2/097/098/099-1.2/100
○名醫大傳:031/045/081/092
○稽神録:017/021/037-1.2
○北夢瑣言:019-1.2/059/065
○玉堂閑話:044/052-1.2/070/077
○朝野僉載:020/030/078/094/096/100
○夷堅志:044/051/057/058/060/077/086/091/092/094
○太平廣記:014/043 他にも『太平廣記』からの孫引きもあるはず。
○本草藥經序:042
○史記:001/003/004/005/018/055/063/066/(076)/081/082/083/085/087/098
○左傳:014/018
○帝王世紀:001/60
○前漢書:039/062(『後漢書』の誤り)
○後漢書:002/040/043
○列子:002/045
○列仙傳:003/008/034/049/054/083/
○神仙傳:(003)/009/027/041/050/057/075/082
○尸子:006
○呂氏春秋:074
○高湛養生論:062
○千金序:006/040/097
○仲景方:069-1・2。
○何首烏傳:009(→寇宗奭編撰『圖經衍義本草』)
○蜀志:039
○晉書:007-1.2/015/016/024-1.2/038/047/056/067/088/
○宋書:012/013/032-1.2/053
○南齊史:053
○北齊書:011/036/073/087
○齊書:012/038/085/093
○張太素齊書:067/084
○魏書:013
○後魏書:075
○魏志:054/063
○蜀異志:072
○梁書:084
○梁七録:023
○吳均齊春秋:030
○徐廣晉紀:026
○南史:074
○北史:016/022/068/089
○隋書:091
○唐書:10-1/2/023/033/047/048(新唐書)/079/089/
○國史補:020/021/071
○齊諧記:017
○晉中興書:066/071/078
○續玄恠録:027
○襲【龔】慶宣鬼遺方序:028
○說文:031
○玉匱針經序:033
○髙道傳:035
○太清黃帝九鼎丹經:035
○丹臺新録:036
○丗本:041
○異苑:049
○酉陽雜俎:096
○譚賔録:056/061
○明皇雜録:061
○談藪:072/079
○何顒別傳:073
○眞境録:076
○續搜神記:080
すべてのインターネット・リソース等の提供者ならびに先行する研究者に深甚なる感謝の意を表します。
大作楽しみです
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