2010年10月21日木曜日

1-3 鍼法藏心卷

1-3 『鍼法藏心卷』
武田科学振興財団杏雨書屋所蔵(杏五五八四)
オリエント出版社『臨床鍼灸古典全書』1所収

『鍼法藏心卷』

鍼法藏心卷(序文)
           長生庵了味編之
夫鍼法術者大率以補瀉為先所謂補瀉以氣
血為主人之氣血易虗復實人受天地隂陽之
氣以生乃成其神然以喜怒之過傷隂陽而疾
生焉人之生病因地水風火之四證以之丹溪先
生曰婦人宜耗其氣而調其經男子以養其
氣而全其神抒怒以全隂忍喜以養陽以此所
  一ウラ
由聖人嗇氣如至寳氣易虗如射箭行血易虗
如蓬矢行氣血之變易如掌反雖然實者少
虗者多故以補為本以瀉為標補瀉法復不一旦
之説用四時針有淺深補瀉十二經亦有補瀉十
五絡亦有補瀉竒經八脉亦有補瀉井滎兪經合
有補瀉表裏有補瀉氣血有補瀉藏府有補
瀉老少亦有補瀉諸疾暴久隨其輕重復有補
瀉法日月順行有虗實是復可補瀉之理在之
  二オモテ
東南西北有虗實之定位又有可補方有可瀉
方能不辨補瀉之深法如何宜究針治之術
乎遠言之則四海廣尚近言之則不過十言
按之只考氣血流行不刺榮衞刺之復如
不至氣血的道氣血循周身至速也自寅至丑
五十行故經過無間刺針如不中榮衞復有
其法名之法鍼自寅至丑氣血流行隨時行
有其主經考之知之有其法謂之觀時針
  二ウラ
法之術側迎隨之氣五藏之氣隨虗々實々
奪之可補者補可瀉者瀉謂之迎隨治病
之法尋神倶集療養之口傳當尋此卷非
甚深輩不可示之非親友不可言之穴賢〃〃


  書き下し
鍼法藏心卷(序文)
           長生庵了味、之を編す
夫れ鍼法術とは、大率補瀉を以て先と為す。所謂(いわゆる)補瀉は、氣
血を以て主と為す。人の氣血は虗し易くして復た實す。人は天地隂陽の
氣を受けて、以て生じ、乃ち其の神を成す。然も喜怒の過を以て隂陽を傷(やぶ)り、疾
焉(ここ)に生ず。人の病を生ずることは、地水風火の四證に因る。之を以て丹溪先
生の曰く、婦人は宜しく其の氣を耗して其の經を調すべし。男子は以て其の
氣を養いて其の神を全うし、抒怒して以て隂を全うし、喜を忍びて以て陽を養う。此の
  一ウラ
所由を以て、聖人は氣を嗇(おし)み、至寳の如し。氣の虗し易きは、射箭行の如し。血の虗し易きは、
蓬矢行の如し。氣血の變易は掌反の如し。然ると雖も、實は少なく
虗は多し。故に補を以て本と為し、瀉を以て標と為す。補瀉の法は復た一旦
の説にあらず。四時に針を用いて、淺深の補瀉有り。十二經に亦た補瀉有り。十
五絡に亦た補瀉有り。竒經八脉に亦た補瀉有り。井滎兪經合に
補瀉有り。表裏に補瀉有り。氣血に補瀉有り。藏府に補
瀉有り。老少に亦た補瀉有り。諸疾暴久も其の輕重に隨い、復た補
瀉法有り。日月順行に虗實有り。是に復た補瀉す可きの理、之に在り。
  二オモテ
東南西北に虗實の定位有れば、又た補う可き方有り、瀉す可き
方有り。能く補瀉の深法を辨ぜざれば、如何(いかん)として宜しく針治の術を究むべけんや。
遠く之を言う則(とき)んば、四海廣く尚(たか)く、近く之を言う則(とき)んば、十言に過ぎず。
之を按ずれば、只だ氣血流行を考え、榮衞を刺さざれ。之を刺すとも復た
氣血の道に至らざるが如く、氣血の周身を循ること、至って速し。寅自り丑に至りて、
五十行。故に經過に間無し。針を刺すとも榮衞に中(あた)らざるが如く、復た
其の法有り。之を法鍼と名づく。寅自り丑に至り、氣血流行して時に隨いて行く。
其の主經有り。之を考え、之を知るに其の法有り。之を觀時針
  二ウラ
法の術と謂う。迎隨の氣を側り、五藏の氣は、虗々實々に隨いて
之を奪う。補う可き者は補し、瀉す可き者は瀉す。之を迎隨と謂う。治病
の法は、神倶集を尋ねて、療養の口傳、當に此の卷を尋ぬべし。
甚深の輩に非ざれば、之を示す可からず。親友に非ざれば之を言う可からず。穴賢〃〃(あなかしこあなかしこ)。

  【注】
○長生庵了味:長野仁先生によれば、土佐の武士、桑名将監の別名。生没年未詳。雲海士流。『広狭神倶集』(慶長十七年(1612))の著者。(日本医史学雑誌、第56巻第3号、398頁)。 ○大率:おおむね。おおかた。だいたい。 ○虗:「虚」の異体字。 ○丹溪先生曰:出所未詳。 ○抒:のべる。解く。汲む。 
  一ウラ
○所由:よりどころ。出所。 ○射箭:矢を射ること。 ○蓬矢:蓬(ムカシヨモギ/艾とは異なる)の枝で作った矢。古くは男子が生まれると、桑で弓を作り、蓬の枝で矢を作り、天地四方に向けて射て、男児の志が四方に応じる象徴とした。 ○掌反:手のひらを返すが如く容易である。 ○一旦:判読に若干疑念あり。 
  二オモテ
○四海:全国各地。世界各地。 
  二ウラ
○觀時針法:本文を参照。 ○側迎隨之氣:「側」の訓、未詳。送りがな「リ」。 ○神倶集:雲棲子『(広狭)神倶集』。石坂宗哲による校本『鍼灸広狭神倶集』あり。 ○穴賢:「あなかしこ」。ああ、恐れ多い。また、結びにおいて敬意をあらわす。かしこ。

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