2010年10月30日土曜日

3-4 鍼治樞要

3-4 鍼治樞要
     京都大学医学図書館富士川文庫所蔵『鍼治樞要』(シ・582)
     オリエント出版社『臨床鍼灸古典全書』3所収

鍼治樞要序
大哉醫之道語兩儀消長
則謂之易而醫理也乃庖
羲爲之祖語氣味㕮咀則
謂之醫方乃炎皇爲之祖
語調神衞生則謂之醫道
乃黃軒爲之祖咸是上古
神聖開物成務之至仁也
然羲農之教當時未施于
册至軒帝與岐鬼諸臣論   「册」:原文、「用」の中の縦棒が短い形。
  一ウラ
著內經以窮竭天人一理
之道醫道之淵源醫術之
微妙不漏纖毫不遺秘蘊
天下萬世諒無不仰之無
不因之然内經所載之要
唯鍼灸藥三者爲衞生之
輨轄也其中論湯液者十
而僅居二焉論熨炳者亦
三分而得一矣其他皆是
刺鍼之良法也方識上古
  二オモテ
賢聖專重砭針焉然中古
以來歷代明醫偏主以劑
科治病而建家家方技者
多乃精刺鍼而追軒岐之
捷徑者未曾聞焉雖間有
雜辨者或以針芒之往上
下爲迎隨或以呼吸出內
爲補瀉或遂至有針有瀉
無補之說經云刺虛須實
刺實須虛又云遠近在志
  二ウラ
淺深如一奚以其針芒之
上下呼吸出内必爲補瀉
迎隨哉伏惟雖古今名家
至鍼術則不獲覺軒岐之
心法故有紛紛若斯之異
論而已是以刺針之術纔
墜專門小技之手其妙道
倍湮晦不傳焉最所可嘆
息也余自弱冠抱宿痾又
遇父母之罹疾是以志于
  三オモテ
醫尤深矣曾從先覺受讀
素靈晨昏不釋繙繹而世
醫專尊用湯液忽諸砭鍼
余酷疑不愜經意沉潛反
覆用力之之久而較曉聖
教之罔誣似有得其玄微
於是參酌今古乃製造金
槌鉄針以療舊痾瘥痼疾
雖如立一家之法都是軒
岐萬世之妙傳也詎豈敢
  三ウラ
謂獨見謾作哉竊以聖賢
者體道内無七情之感外
無飲食起居之過竟全其
天年亦不宜乎不攝厥生
者五志之火無時不熾五
味之偏無日不傷邪氣充
塞于三焦必使榮衞失其
常候是以腑臓不能守其
官賊邪乘虛輻輳矣諸般
雜病朝輟暮作遂爲膠固
  四オモテ
之疾疢當斯之時非良工
妙手則不能清其源抜其
根然世醫徒泥局方專因
症施治若不中其的則攻
者耗元氣補者添邪氣其
害不可得而測焉舊病更
加新病藥品却爲毒種或
爲憊羸或爲夭札最爲可
憫焉唯斯針治異于此且
鍼者導陽者也故導陽以
  四ウラ
流通厥升降則雖有飲食
停滯塊癖昇衝忽塞胸膈
將絕者取其即効那有如
鍼者乎余不敢黜湯液陟
刺鍼爲專泥局方者言之
而已不啻明鍼道以至其
極亦庶幾於陰陽造化天
人一理之道思過半者歟
旹元祿癸酉季春 橘姓
矢野氏白成識


  書き下し
鍼治樞要序
大なるかな、醫の道。兩儀消長を語るときは、
之を易と謂う。而して醫理なり。乃ち庖
羲、之が祖爲(た)り。氣味㕮咀を語るときは、
之を醫方と謂う。乃ち炎皇、之が祖爲り。
調神衞生を語るときは、之を醫道と謂う。
乃ち黃軒、之が祖爲り。咸(ことごと)く是れ上古の
神聖、物を開き務めを成すの至仁なり。
然うして羲農の教え、當時(そのかみ)未だ
册に施さず。軒帝と岐鬼の諸臣と、   
  一ウラ
内經を論著して、以て天人一理の
道を窮(きわ)め竭(つく)すに至って、醫道の淵源、醫術の
微妙、纖毫を漏さず、秘蘊を遺(のこ)さず。
天下萬世、諒(まこと)に之を仰がずということ無く、
之に因らずということ無し。然れども内經に載する所の要、
唯だ鍼・灸・藥、三の者のみ、衞生の
輨轄爲り。其の中(うち)、湯液を論ずる者、十にして
僅かに二に居れり。熨炳を論ずる者も、亦た
三分にして一を得たり。其の他は皆な是れ
刺鍼の良法なり。方(まさ)に識る、上古の
  二オモテ
賢聖、專ら砭針を重ずることを。然れども中古
以來(このかた)、歷代の明醫偏(ひと)えに劑
科を以て病を治することを主として、家家の方技を建つる者
多く、乃(いま)し刺鍼を精(くわ)しうして、軒岐の
捷徑を追う者、未だ曾て聞かず。間ま
雜(まじ)え辨ずる者有りと雖も、或いは針芒の上下に往くを以て
迎隨と爲し、或いは呼吸出內を以て
補瀉と爲し、或いは遂に針に瀉有りて
補無きの說有るに至る。經に云う、虚を刺すに實を須(ま)ち、
實を刺すに虛を須つ、と。又た云う、遠近、志に在り、
  二ウラ
淺深、一の如し、と。奚んぞ其の針芒の
上下、呼吸の出内を以て、必ず補瀉
迎隨と爲さんや。伏して惟(おもん)みるに古今名家と雖も、
鍼術に至っては、軒岐の
心法を覺(さと)ることを獲ず。故に紛紛として斯(かく)の若きの異
論有るのみ。是(ここ)を以て刺針の術、纔(わず)かに
專門小技の手に墜ちて、其の妙道
倍(ます)ます湮晦して傳わらず。最も嘆
息す可き所なり。余、弱冠自り、宿痾を抱き、又た
父母の疾に罹(かか)るに遇う。是を以て
  三オモテ
醫に志すこと、尤も深し。曾て先覺に從って
素靈を受け讀み、晨昏に繙繹することを釋(お)かず。世
醫專ら湯液を用ゆることを尊び、諸の砭鍼を忽(ゆるが)せにす。
余、酷(はな)はだ疑う、經意に愜(かな)わざることを。沉潛反
覆、力を用ゆるの之れ久しうして、較(や)や聖
教の罔誣を曉(さと)りて、其の玄微を得ること有るに似たり。
是(ここ)に於いて今古を參酌し、乃ち金
槌鉄針を製造して、以て舊痾を療し、痼疾を瘥(い)やす。
一家の法を立つるが如しと雖も、都(すべ)て是れ軒
岐萬世の妙傳なり。詎(たれ)か豈に敢えて
  三ウラ
獨見謾作することと謂わんや。竊(ひそ)かに以(おも)んみるに聖賢は、
道を體して内(う)ち七情の感無く、外(ほ)か
飲食起居の過無し。竟(つい)に其の
天年を全うすること、亦た宜ならずや。厥(そ)の生を攝せざる
者は、五志の火、時として熾(さか)んならざること無く、五
味の偏、日として邪氣、三焦に充
塞して傷らざること無し。必ず榮衞をして其の
常候を失せしむ。是(ここ)を以て腑臓、其の
官を守ること能わず、賊邪、虚に乘じて輻輳す。諸般の
雜病、朝(あし)たに輟(や)みて暮(ゆう)べに作(お)こる。遂に膠固
  四オモテ
の疾疢と爲る。斯の時に當って、良工
妙手に非ずんば、其の源を清くし其の
根を抜くこと能わず。然れども世醫徒(いたず)らに局方に泥(なず)みて、專ら
症に因って治を施し、若(も)し其の的(まと)に中(あた)らざれば、攻むる
者は元氣を耗し、補う者は邪氣を添う。其の
害たること得て測る可からず。舊病、更に
新病を加え、藥品却って毒種と爲る。或いは
憊羸を爲し、或いは夭札を爲す。最も
憫れむ可しと爲す。唯だ斯れ針治は此れに異なり、且つ
鍼は、陽を導く者なり。故に陽を導きて以て
  四ウラ
厥(そ)の升降を流通するときは、飲食
停滯し、塊癖昇り衝き、忽ち胸膈を塞ぎて
將に絶せんとする者有りと雖も、其の即効を取ること、那(な)んぞ
鍼の如き者有らんや。余、敢えて湯液を黜(しりぞ)けて
刺鍼を陟(すす)むるにあらず。專ら局方に泥(なず)む者の爲に之を言う
のみ。啻(ただ)に鍼道を明らかにして以て其の
極に至るのみにあらず。亦だ庶幾(こいねが)わくは、陰陽造化、天
人一理の道に於いて、思い半ばに過ぎん者か。
旹に元祿癸酉季春 橘姓
矢野氏白成識


  【注釋】
○兩儀:天地。『易經』繫辭上:「是故易有太極、是生兩儀。」 ○消長:変化。増減。盛衰。 ○庖羲:伏羲。『易経』の卦を制したという。 ○氣味:薬の寒熱温涼を氣といい、辛酸甘苦を味という。 ○㕮咀:フショ。〔フは「口+父」。中国フォント必要。〕:咀嚼。薬物を細かく砕くこと。 ○炎皇:神農氏。 ○調神衞生:神を調え、生を衛る。精気神気を調和させ、生命を保護する。養生。 ○黃軒:黄帝。軒轅氏という。 ○開物成務:万物の理を開通し、人事をそれぞれその宜しきを得させる。『易經』繫辭上:「夫易、開物成務、冒天下之道、如斯而已者也。」 ○至仁:最も崇高な仁徳。 ○當時:傍訓「ソノカミ」。当時。その時。その昔。 ○施于册:書籍として著す。古代、竹簡を編綴したものを冊という。 ○軒帝:黄帝。 ○岐鬼諸臣:岐伯、鬼臾區など、『黄帝内経』に登場する諸臣。
  一ウラ
○内經:『黄帝内経』。 ○天人一理:『朱子語類』卷十七大學四(或問上)「天即人、人即天。人之始生、得於天也。既生此人、則天又在人矣。」「天人本只一理、若理會得此意、則天何嘗大、人何嘗小。」 ○纖毫:非常に微細な事物。 ○秘蘊:奥深く隠された事物。 ○萬世:永久。万代。 ○輨轄:錧鎋。管轄。かぎと車軸のくさび。/轄:車輪のスポークを受ける軸受けで、車輪が外れないようにする器具。重要な物。 ○熨炳:ここでは、灸の別名であろう。『霊枢』病伝(42)「或有導引行氣喬摩灸熨刺炳飮藥之」。『古今醫統大全』卷之三 翼醫通考(下)醫道・針灸藥三者備爲醫之良「扁鵲有言。疾在腠理、熨炳之所及。疾在血脈、針石之所及。其在腸胃、酒醪之所及。是針灸藥三者得兼而後可與言醫。可與言醫者、斯周官之十全者也。」(「熨炳」、『史記』扁鵲倉公列伝は「湯熨」に作る。)/熨:熱の力をかりて圧して衣類などを平らにする。火熨斗。アイロン。薬などを塗り、温める。/炳:燃やす。 
  二オモテ
○以來:おくりがな「タ」により、「このかた」と訓んだ。 ○劑科:方剤科。処方。薬方。 ○家家:一家ごとの。 ○方技:医術。 ○乃:おくりがな「マシ」。いまし:今しも。ちょうど今。今となっては。「し」は意味を強める助詞。 ○軒岐:黄帝(軒轅)と岐伯。 ○精:通暁する。深く理解する。 ○捷徑:近道。 ○針芒:針先。針の向かう方向。/芒:植物の一種。葉は細長く尖っている。 ○針有瀉無補之說:『丹溪心法』卷五・拾遺雜論九十九「針法渾是瀉而無補、妙在押死其血氣則不痛、故下針隨處皆可。」明・虞摶『醫學正傳』卷之一・醫學或問「其針刺雖有補瀉之法、予恐但有瀉而無補焉。……若此等語、皆有瀉無補之謂也、學人不可不知。」 ○經云:『素問』寳命全形論「刺虚者須其實、刺實者須其虚、經氣已至、愼守勿失。深淺在志、遠近若一」。
  二ウラ
○伏惟:上の者に対する謙遜語。 ○心法:禅宗の用語で、言語・文字によらず弟子に伝授される仏法。儒学では、心を伝え性を養う方法を指す。 ○紛紛:多く乱雑なさま。 ○妙道:精妙な道理。 ○湮:埋没する。 ○晦:くらくなる。 ○弱冠:二十歳。 ○宿痾:久病。長患い。 
  三オモテ
○先覺:先覚者。常人よりも先に道理をさとる人。 ○素靈:『素問』『霊枢』。 ○晨昏:早晩。朝早くから夜遅くまで。 ○釋:物をおろして置く。「不釋文(手から書物を離さない)」。 ○繙:ひもとく。書物を読む。 ○繹:たずねる。物事の端緒を引き出すように、きわめる。 ○世醫:代々医業をなりわいとする人。 ○沉潛:深く浸りきって探究する。 ○反覆:何度も繰り返す。詳しく追求することの比喩。 ○用力:努力する。 ○久:原文、「久」の三画目が二画目と交叉する形で、「終」の異体字と同形であるが、意味の上から「久」ととった。 ○聖教:聖人の教え。 ○罔誣:不誣。欺かないこと。 ○玄微:深遠微妙の理。 ○參酌:參考にする。斟酌する。 ○舊痾:旧病。 ○瘥:癒す。 ○痼疾:久しく治療しても治らない病。 
  三ウラ
○獨見謾作:独自の見解で人を欺く著作をなす。 ○竊:自己の見解が不確定であることを謙遜する語。 ○體道:正しい道を自ら行う。 ○七情:喜、怒、憂、思、悲、恐、驚の七種の精神状態で、内傷の病因。 ○過:錯誤。あやまり。 ○天年:天然(自然)の寿命。 ○攝:保養する。/「攝生」は養生と同義。身体を保ち、生命を養う。 ○五志:怒・喜・思・憂・恐の五種の精神情緒。これらの情志が失調すると火証に変化する。 ○五味:辛、酸、甘、苦、醎。薬物はそれぞれ味が異なり、それにより異なる作用をする。 ○偏:かたより。 ○常候:通常の状態。 ○輻輳:輻湊。輻(スポーク)が軸受けにあつまる(輳・湊)ように人や物が一箇所に集中する。 ○諸般:各種の。ありとあらゆる。 ○雜病:ひろく傷寒・温病以外の多種の(主に内科)疾病をいう。 ○膠固:牢固な。にかわで貼り付けたように固い。
  四オモテ
○疾疢:疾病。/疢:熱病。またひろく病をいう。 ○良工:技術の並外れて高い人。ここでは医者。良医。『靈樞』五色「審察夭澤、謂之良工」。 ○妙手:技能の高く精妙な人。 ○其源:病源。 ○其根:病根。 ○泥:なずむ。拘泥する。 ○局方:『(太平惠民)和劑局方』にある処方。宋代の太医局に所属する薬局の処方集。製薬の規範となった。朱震亨はこの書が症候を並べるだけで、病源を述べないことを批判して『局方発揮』を著した。 ○添:添加する。増やす。 ○毒種:毒の素因。 ○憊羸:羸憊。疲労困憊。疲れ切る。 ○夭札:疫病に遭って早死にする。 
  四ウラ
○塊癖:腹中のかたまり。/癖:消化不用により腹内に出来るかたまり。 ○那:反語の語気をあらわす。 ○黜:排斥する。地位を落とす。 ○陟:上げて賞する。 ○旹:「時」の異体字。 ○元祿癸酉:元禄六(一六九三)年。 ○季春:旧暦三月。 ○橘姓矢野氏白成:未詳。『鍼治或問』も著す。 ○識:しるす。


  (跋)
優哉矢白子之志鍼術
乎雖牙齒疎豁之期猶
未休沈濳思乎經義礱
磨効乎事業而遂著一
篇名曰鍼治樞要焉其
意竊欲顯古人之心術
救後世之流弊也事成
而教其親川利渉子正
爪瓜之謬焉彼人者予
  四十二ウラ
同志也則携則來曰其
義理雖通明其文詞轉
鄙拙也請相議而潤飾
之予答曰凡讀書纘言
者不誇多闘靡也欲擇
精適要耳今顧為此書
前則約多年見聞之博
而闕危疑収近功焉可
謂眞擇精者也后則就
  四十三オモテ
晨昏施治之中而舉經
驗辨得失焉豈不曰適
要者乎至如集舊説之
簡録新語之俗者可謂
不誇多闘靡之本志矣
且夫醫書者不尚文華
而勤質實矣義理昭著
之後何為憂文詞之鄙
拙歟嗚呼利渉子謹而
  四十三ウラ
勿效作蛇足卒書之以
跋其後
  于旹
元禄九丙子歳臈月中浣
東武庸醫
間玄規書
書き下し
優れるかな、矢白子の鍼術に志す
や。牙齒疎豁の期と雖も、猶お
未だ休まず。沈濳して經義を思い、礱
磨して事業を効(いた)す。而して遂に一
篇を著す。名づけて曰く、鍼治樞要。其の
意は竊(ひそ)かに古人の心術を顯らかにし、
後世の流弊を救わんと欲するなり。事成りて
其れ親川利渉子をして、
爪瓜の謬りを正さしむ。彼の人は、予が
  四十二ウラ
同志なり。則ち携え則ち來たりて曰く、其の
義理、通明なると雖も、其の文詞轉(かえ)って
鄙拙なり。相議して之を潤飾せんことを請う、と。
予答えて曰く、凡そ讀書纘言
は、多を誇り靡を闘わざるなり。
精を擇び要に適(かな)わんと欲するのみ。今ま顧みるに此の書為(た)るや、
前は則ち多年見聞の博きを約して、
危疑を闕して近功を收む。
眞に精を擇ぶ者と謂っつ可し。后ろは則ち
  四十三オモテ
晨昏の施治の中に就いて、經
驗を舉げて得失を辨ず。豈に
要に適う者と曰わざらんや。舊説の
簡なるを集め、新語の俗なるを録するが如き者に至っては、
多を誇り靡を闘わざるの本志と謂っつ可し。
且つ夫(そ)れ醫書なる者は、文華を尚(たつと)ばずして
質實に勤む。義理昭著
の後、何為(なんす)れぞ文詞の鄙
拙を憂えんや。嗚呼、利渉子、謹みて
  四十三ウラ
蛇足を效作する勿れ。卒(にわ)かに之を書して以て
其の後に跋す。
  旹に
元禄九丙子歳臈月中浣
東武庸醫
間玄規書

  【注釋】
○矢白子:矢野白成。本書の著者。 ○牙齒疎豁之期:老年。歯が欠け間が広がる時期。卷之下・醫按によれば、著者は七十歳以上。 ○沈濳:深く入って探究する。唐・韓愈『上兵部李侍郎書』「﹝愈﹞遂得究窮於經傳史記百家之説、沈潛乎訓義、反復乎句讀、礱磨乎事業、而奮發乎文章。」  ○經義:経文の意味。 ○礱磨:磨いて鍛錬する。/礱:みがく。 ○事業:重要な仕事。 ○心術:思考。考え。 ○流弊:昔から伝えられている悪弊。 ○教其親川利渉子:未詳。「親川利渉」を人名と理解した。「子」は敬称。 ○正爪瓜之謬:ちょっとした誤り、誤字を正す、という意であろう。
  四十二ウラ
○義理:意味。 ○通明:事物の理に通じている。よく理解できる。 ○文詞:文章用語。 ○纘言:「纘」、原文は「糸偏+濳-氵」につくるが、意味の上から「纘」とした。「纂」に通ず。文藻を集めて述作に従事する。 ○誇多闘靡:学識が豊富で文章を華麗に飾ることを誇る。唐・韓愈『送陳秀才彤序』「讀書以為學、纘言以為文、非以誇多而闘靡也。」「靡」は華麗なこと。 ○適要:要所にぴったり合う。 ○顧:よく見る。 ○約:要約する。 ○闕危疑:解決しない疑わしいところは無理にこじつけたりしないで、そのままにしておく。『論語』爲政「多見闕殆、慎行其餘、則寡悔。」何晏集解引包咸曰「殆、危也。所見危者、闕而不行、則少悔。」 ○近功:当面の利益。
  四十三オモテ
○晨昏:朝から晩まで。 ○得失:利害。適当と不適当。 ○本志:本意。 ○文華:文章の彩り、修飾。 ○質實:質朴誠実で浮ついていない。 ○昭著:明白である。 ○
  四十三ウラ
○效作:まねる。 ○蛇足:畫蛇添足(蛇を畫いて足を添う)。出典、『戰國策』齊策二。戦国時代、楚の人が誰が酒を飲むか、蛇を画いて決めることにした。あるひとは描き終わって、また四本の足を書き添えた。二番目の人も画き終わった。最初の人は、本来存在しない蛇の足を画いたため、かえって酒をのみそこなった。よけいな事柄。 ○旹:「時」の異体字。 ○元禄九丙子歳:西暦一六九六年。 ○臈月:旧暦十二月の別称。 ○中浣:中旬。 ○東武:武蔵の国、江戸の異称。 ○間玄規:

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