2010年11月1日月曜日

4-3 鍼灸燈下餘録

4-3 鍼灸燈下餘録
     武田科学振興財団杏雨書屋所蔵『鍼灸燈下餘録』(乾3655)
     オリエント出版社『鍼灸臨床古典全書』4所収

(鍼灸燈下餘録序)
人身固有自然之穴兪者針之達病處焫之去邪氣古人濟世
救民之嘉惠何其至邪後世滑張之輩強會之經絡而不知其
陷没徹底是穴乃謂人身始有此經絡則有此穴兪遂復令絡
絡矯引諸穴兪之處後之學者拘泥益甚其弊也不問大小長
短不辨陷没徹底而守拘寸度固執絡絡雖外面如法眞穴不
當其處不然則不知經絡不論穴兪夢託神授以欺人皇甫士
安乃不拘經絡所撰甲乙經分穴兪以部類近吾所嘗臆蓋去
古未遠法尚有存者私謂古人用寸度庶令後者易曉耳若徒
曰在手在足後者於何處取之故其骨間肉縫所不待寸度之
處未嘗謂之也唯於忙乎難尋乃立此寸度也先子艮山出于
數千歳之下始徹沿習以陷没為穴兪自謂在吾方寸之權度
頃日讀書之餘遠追古人之法度近逑先子之遺訓自摸索穴
  一ウラ
兪之處纂次充于集中先子曰取穴之際苟盡吾心求焉則不
中不遠矣若詳之在乎其人
己丑之夏平安後藤敏識


  書き下し
(鍼灸燈下餘録序)
人身固(もと)より自然の穴兪なる者有り。之に針すれば病處に達し、之に焫すれば邪氣を去る。古人、世を濟(すく)い
民を救うの嘉惠、何ぞ其れ至らんや。後世の滑張の輩、強いて之を經絡に會せしめ、而して其の
陷没徹底するを知らず。是の穴は、乃ち人身に始めて此の經絡有りて、則ち此の穴兪有るを謂う。遂に復た絡〔經〕
絡をして諸穴兪の處に矯引せしむ。後の學者、拘泥すること益ます甚だし。其の弊たるや、大小長
短を問わず、陷没徹底を辨ぜず、而して寸度に守拘し、絡〔經〕絡に固執す。外面は法の如しと雖も、眞穴は
其の處に當たらず。然らずんば、則ち經絡を知らず、穴兪を論ぜず。夢に神授を託して以て人を欺く。皇甫士
安は乃ち經絡に拘せず、撰する所の甲乙經、穴兪を分くるに部類を以てす。吾が嘗て臆する所に近し。蓋し
古を去ること未だ遠からず。法、尚お存する者有り。私(ひそ)かに謂(おも)えらく、古人は寸度を用いて、後の者をして曉(あきら)め易くせしめんと庶(こいねが)うのみ、と。若し徒(いたず)らに
手に在り、足に在りと曰わば、後の者、何れの處〔地〕に於いてか之を取らん。故に其の骨間肉縫の所、寸度の
處を待たず、未だ嘗て之を謂わざるなり。唯だ忙乎に於いて尋ね難きは、乃ち此の寸度を立つるなり。先子艮山、
數千歳の下に出でて、始めて沿習を徹して、陷没を以て穴兪と為す。自ら謂えらく、吾が方寸の權度に在りては、
頃日、讀書の餘、遠くは古人の法度を追い、近くは先子の遺訓を逑(あつ)め、自ら穴
  一ウラ
兪の處を摸索し、纂次して集中に充つ、と。先子曰く、取穴の際、苟(いやしく)も吾が心を盡くして焉(これ)を求むれば、則ち
中(あ)たらずとも遠からず。之を詳らかにするが若きは、其の人に在り、と。
己丑の夏、平安後藤敏識(しる)す


  【注釋】
○嘉惠:恩恵。 ○滑張:滑壽、張介賓。 ○矯引:無理にたわめ引き寄せる。 ○絡絡:眉部の批注に「二絡共當作經」とあり。 ○處:眉部の批注に「處者地之誤」とあり。 ○忙乎:忙しい。急を要する仕事。 ○艮山:後藤艮山(1659--1733)。 ○沿習:因習。旧来の習慣に従うこと。 ○權度:規章法則。物の軽重長短を測定する道具。 ○頃日:ひごろ。 ○先子:亡き父。 
  一ウラ
○集中:意見や経験などを帰納する。 ○苟盡吾心求焉則不中不遠矣:『禮記』大學「心誠求之、雖不中不遠矣。」 ○己丑:明和六年(一七六九年)。 ○平安:京都。 ○後藤敏:さとし。後藤慕庵(一七三六~八八)。『艾灸通説』の著者、椿庵の子。後藤艮山の孫。

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