2023年4月27日木曜日

天回医簡『経脈』残篇と『霊枢』経脈の淵源 02

   2 主病

 大陽脈:簡二の残文に「腨皆痛」があり,『霊枢』経脈の「膀胱足太陽之脈……項背腰尻膕踹脚皆痛」[5]と文が近い。『陰陽乙』2の「鉅陽脈……其所產病:頭痛,耳聾,項痛,耳疆,瘧,背痛,腰〖痛〗,尻【痛】,痔,郄痛,腨痛,足小指【痹】」[7],『足臂』3-4の「其病:病足小指廢,腨痛,郄攣,𦞠痛,產痔,腰痛,挾脊痛,【頭】痛,項痛,手痛,顏寒,產聾,目痛,鼽衄,數癲疾」[8]とは,ともにこれとは対応しがたい。

 少陽脈:竹簡は主病の文を欠く。『霊枢』経脈は「膽足少陽之脈……胸脇肋髀膝外至脛絕骨外踝前及諸節皆痛」[5]であり,『足臂』8は「足少陽脈……其病……脇外腫」[8]である。ただ,その循行は「脇外廉」を通過するので,上述の病候とそれほどかけ離れてはいないと推測される。

 陽明脈:簡四の残文は「是動則病,洒洒」であり,『霊枢』経脈・足陽明脈の「是動則病洒洒振寒,善呻數欠顏黑……」[5]と前の六字が一致する。

 太陰脈:簡五の残文は「煩心,心痛,□□洩,水閉,黃癉,股……腫蹷,不臥,強欠,大指不用」であり,『霊枢』経脈の「脾足太陰之脈……煩心,心下急痛,溏瘕泄,水閉,黃疸,不能臥,強立股膝內腫厥,足大指不用」[5]と文が高い割合で一致する。しかし『脈書』『陰陽』『足臂』等とは内容から体例までいずれもかなり違いがある。『霊枢』経脈は「強立」に作るが,『太素』経脈連環は「強欠」[9]に作る。按ずるに『脈書』33-35は「泰陰之脈……不能食,耆臥,強吹(欠),此三者同則死」[6]に作り,『太素』が「強欠」に作るのが正しいことを証しているし,この簡ともまた符合する。

 厥陰脈:簡六の残文は「癃,遺溺。凡十一病」であり,『霊枢』経脈の「肝足厥陰之脈……狐疝遺溺閉癃」[5]と病証が一致する。『脈書』38は「熱中,癃,㿗,偏山(疝),為五病」[6]に作り,『足臂』20は「病脞瘦,多溺,嗜飲,足跗腫,疾痹」[8]に作り,どちらも一致しない。また「病有煩心,死,毋治」を,『陰陽乙』16は「五病有〖而〗煩心,死,勿治也」[7]に作り,『足臂』21は「偏有此五病者,又煩心,死」[8]に作る。本篇とは病候数の合計が異なるが,「病」の前の「五」を除けば,文の意味はほぼ同じである。

 少陰脈:簡七から簡八の残文は「上氣,嗌乾痛,煩心心痛,……內廉痛,厥痿,嗜臥,足下熱」であり,『霊枢』経脈の「腎足少陰之脈……口熱舌乾,咽腫上氣,嗌乾及痛,煩心心痛,黃疸腸澼,脊股內後廉痛,痿厥嗜臥,足下熱而痛」[5]と文が高い割合で一致する。しかし『脈書』『陰陽』『足臂』等とは,文の表現や列挙される順序の違いが大きい。

 臂少陽脈:簡一〇の残文は「……腫。所生病,目外顏腫,耳後、肩、後廉痛,汗出,中指不用,喉痹」であり,『霊枢』経脈の「三焦手少陽之脈……是動則病耳聾渾渾焞焞,嗌腫喉痹。是主氣所生病者,汗出,目銳眥痛,頰痛,耳後肩臑肘臂外皆痛,小指次指不用」[5]と文の多くが一致する。唯一,「中指不用」と「小指次指不用」は明らかに異文である。按ずるに,『霊枢』経脈の手少陽脈は「小指次指之端に起こる」ので,所生病には「小指次指不用」が見える。しかし『足臂』の臂少陽脈は「出中指,循臂上骨下廉,奏耳」(31)[8]であり,循行と主病はともにこの竹簡と一致する。この循行と主病の変化が生じた理由は,『霊枢』経脈では「中指」は「心主手厥陰心包絡之脈」の循行が経過する部位であるからである。しかし『足臂』にはまだこの脈はなかったので,中指は「臂少陽脈」の循行部位であった。『霊枢』経脈では「手厥陰脈」が増えて,「十一脈」が「十二脈」になると同時に,「手少陽脈」の循行にも調整がくわえられ,主病についてもこれに応じて変更がおこなわれた。このことから,われわれは本篇の経脈は依然として「十一脈」系統であり,「手厥陰脈」は収載されていなかったと推測できる。これは同じ墓から出土した『脈書』下経が「十二脈」系統であるのとは,大きな違いであり(『脈書』下経で増えたものは「手心主之脈」と称する),両者は異なる伝承系統に属するようである。

 このほか,用語の細部を見ると,足と手の指の病を表現する場合,『脈書』では「○○指痺」,『足臂』では「○○指廃」,本篇と『霊枢』経脈では「○指不用」がそれぞれよく使われ,本篇と『霊枢』経脈は「所生病」を,『脈書』『陰陽』は「所産病」を用いていて,特徴的な違いが見られる。記述の体例を見ると,本篇と『脈書』『陰陽』等はみな「所生(産)病」の病候を数に入れているが,『足臂』は「足帣(厥)陰脈」をのぞいて,みな数に入れていない。『足臂』では足脈の病候は循行の前後にしたがい順番に排列されているので,「○○指廃」はみな一番最初にある。これに対して本篇と『霊枢』経脈中の「○指不用」は一律に最後に並べられている。注目に値することは,『霊枢』経脈における経脈の循行順序は,この竹簡とくらべると大幅に変更されているが,病候の排列順序,特に「○指不用」を最後に並べる体例は,依然として本篇との一致を保っていることである。


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