4 各類の病症に関する刺法を論ずる
竹簡の文例:
【蹷】,兩胻陽明各五,有(又)因所在。(666)𥢢=(㿗,㿗)山(疝),暴L,侖,𤵸(癃),轉胞,蹷(厥)陰各五。(630)
脛(痙),北(背)巨陽落各五。(643)
身盈,在肌分㓨(刺),在胻=(胻胻)㓨(刺)。(657)
水,巨陽落(絡)與腹陽明落(絡)會者各八。(637)
厀(膝)攣痛,因痛所,以劇昜(易)為數。(664)
本篇の各論部分には42条があり,風・脛(痙)・水・單(癉)・顛疾・𥢢山(疝)・痿・蹷・狂・膚張(脹)・肘(疛)・欬上気などの病証におよぶ。各条はおおむね「病名-鍼刺部位-(数)」という規範的な体例に従って書かれている。鍼刺の数には五・十・三・八・四があり,「五」とするものが最も多く,全部で29箇所ある。「八」と「十」はそれぞれ2箇所,「三」「四」はともに1箇所のみである。ほかに6条には数は記載されておらず,1条は数の部分が闕文となっている。
鍼灸部位で分けるならば,「巨陽」「少陽」「陽明」「大陰」「少陰」「厥陰」という三陰三陽の名称はすべて経脈(あるいは絡脈)を指している。その刺法がすなわちいわゆる「脈刺」であり,全部で32条ある。本篇の特徴は,言及されている経脈の前には,足・辟(臂)・胻・肩・北(背)・項・頭・頰・耳前など,具体的な部位がみな冒頭にあることである。これ以外では,竹簡の文に督・心落(絡)・陽明落(絡)・巨陽落(絡)・兩辟(臂)內筋間・足大指讚(攢)毛上などの部位も現われることである。注目に値することは,本篇には『脈書』下経に見られるような「手心主脈」がないことである。鍼刺部位に「兩辟(臂)內筋間」(633)という呼称があることから,おそらく当時はまだ「手心主脈」という概念に進展していなかったのであろう。くわえて,本篇では「×落」「××落」とされ,「落」字がみな用いられており,「絡」字ではない。『漢書』芸文志の「医経」の小序でも「醫經者,原人血脈・經落・骨髓・陰陽・表裏」と,「經落」が用いられていて,これには必ず基づくところがあることがわかる。
「分刺」はこの部分に「身盈,在肌分㓨(刺)」(657)の一条が見えるだけで,「水」に言及するところも,「水,巨陽落(絡)與腹陽明落(絡)會者各八」(637)の一条だけである。しかしこの一条は刺絡法を用いていて,脈刺の条文に属すると思われるが,本篇にいう「刺水」のであるかどうかは,つまびらかではない。
このほか,本篇には刺鍼部位について,「因(病)所在」の刺法もある。全部で11条(「脈刺」と3条重なる),その刺鍼数は3条では,「以劇易為數」(644),すなわち症状の軽重によって刺鍼数が決定される。これも後世の「以痛為腧」および「阿是穴」の取穴方法への道を開いた。本篇にある刺法と刺鍼数の対応関係を表にしてに示し(表1),参考に供する。
表 1 『㓨(刺)數』篇に見られる刺法と刺鍼数の対応関係
刺鍼数 五 十 三 八 四 数なし 数闕
脈刺 28 2 0 1 0 0 1
分刺 0 0 0 0 0 1 0
因所在 3 1 1 1 1 4 0
不刺 0 0 0 0 0 1 0
注:表にある数字「五」「十」などは,本篇に出現する鍼刺の数である。「なし」とは明確な鍼刺数の記載がないもの,「闕」とは文字の記載はあるものの筆跡がはっきりせず,判読が困難なもの。アラビア数字の28・3・1などは,その数が記載されている竹簡でそれぞれ見える頻度を示す。
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