4-4 一本堂灸點圖解(4-5香川灸點) 香川輿司馬撰
京大富士川文庫所蔵『医書九種』(イ/一七九)所収『一本堂灸點圖解』と『香川灸點』(カ/七八)〔『古典全書』での題名は「灸點圖解」〕により校合した。
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00000180 (イ/179)
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00001544 (カ/78)
題灸點圖解首
夫吾門之施治也灸為最多藥次之湯泉復次之用灸
(カ有「奏」)効驗之夥也舉天下之所知也而其灸(カ有「焉也」)不敢縁古人
之寸法配當隨腹背手足鬱塞痒(カ無「痒」)痛不快處而灸焉也千金
方云呉蜀之國多用此法其將灸也就其病(イ作「痛」)處以指摸索
其穴推而應指頭淵々不中骨不當筋處是屬穴(カ無「推而~屬穴」十七字)
所謂阿是也吾門常々用此法而雖用古名称之與古
人之所説點法不同則名亦不相當今復改名嫌于好事且恐
郢書而諸子之燕説故暫用古名以枉同厥臭焉彼以寸法配
當為則吾以徹穴内透為律若寸法配當不量老弱長短肥瘠
(カ有「倶一」)而施(カ有「之」)膠柱刻舟幾不能無舛差奚不翅不當穴隔骨
ウラ
胃筯徒損好肉何至効驗障壁罵聾亦悖哉夫灸之有効
也徹穴内透煦々(カ無「々」。イ「煦」作「呴」)温々橐籥一身之氣機陽氣運行周(カ作「用」)軀全無
所不至施故元氣内盈腠理外健是乃所以吾門主探穴必要
覺徹于内也矣至其考証審論委曲(カ有「周盡」)既詳
先君所箸(イ作「著」)行餘醫言中故不復贅焉(カ無「贅焉」)
寶暦丙子孟春香川輿司馬筆于平安
一本糞心室南窓
【訓み下し】
題灸點圖解首
夫れ吾が門の治を施すや、灸を最多と為(し)、藥、之に次ぎ、湯泉復た之に次ぐ。灸を用いて効驗(を奏する)の夥(おびただ)しきや、舉げて天下の知る所なり。而して其の(焉(これ)に)灸(するや)、敢えて古人の寸法配當に縁らず、腹背手足の鬱塞、(痒)痛、不快なる處に隨いて焉(これ)に灸するなり。千金方に云う、呉蜀の國多く此の法を用う、と。其の將に灸せんとするや、其の病(一作「痛」)處に就きて指を以て其の穴を摸索す。(推して指頭に應じ、淵々として骨に中(あ)たらず、筋に當らざる處、是れ穴に屬す。)所謂(いわゆる)阿是なり。吾が門は常々此の法を用う。而して古名を用いて之を称すと雖も、古人の所説と點法同じからず。則ち名も亦た相い當たらず。今ま復た名を改むれば好事を嫌う。且つ郢書して諸子の燕説するを恐る。故に暫く古名を用い、以て枉(ま)げて厥(そ)の臭を同じくす。彼は寸法配當を以て則と為(し)、吾は徹穴内透を以て律と為(す)。寸法配當の若きは、老弱・長短・肥瘠を量らず(、倶に一と)して(之に)施す。膠柱刻舟、幾(ほとん)ど舛差無きこと能わず。奚(いず)くんぞ翅(ただ)に穴に當たらざるのみならず、骨に隔たり
ウラ
筋を冒して、徒らに好肉を損じ、何ぞ效驗に至らんや。壁を障(へだ)てて聾を罵るも、亦た悖(もと)らんや。夫れ灸の效有るや、穴を徹して内に透し、煦々温々として一身の氣機を橐籥し、陽氣は周軀に運行して、全く至りて施さざる所無し。故に元氣、内に盈ち、腠理、外に健(たけ)し。是れ乃ち吾が門の穴を探るを主とし、必ず内に徹するを覺ゆるを要(かなめ)とする所以なり。其の考證審論に至っては、委曲(周盡)、既に先君箸する所の行餘醫言の中に詳し。故に復た贅せず。
寶暦丙子孟春 香川輿司馬 平安一本糞心室の南窓に筆す
【注釋】
○千金方云‥『備急千金要方』卷二十九・灸例第六「凡人呉蜀地遊官、體上常須三兩處灸之、勿令瘡暫差、則瘴癘温瘧毒氣不能著人也、故呉蜀多行灸法、有阿是之法、言人有病痛、即令捏其上、若裏當其處、不問孔穴、即得便快成痛處即云阿是、灸刺皆驗、故曰阿是穴也」。 ○好事‥変わった物事を好むこと。ものずき。 ○郢書而諸子之燕説‥こじつけてもっともらしく説明すること。「郢」は中国の春秋戦国時代の楚の国の都。「燕」は現在の北京付近にあった国の名前。郢の人が、燕の大臣に手紙を書いたとき、部屋が暗いので「燭をあげよ」と言いながら、うっかりそれを手紙に書いてしまった。それを受け取った燕の大臣は、それを「明るい人間(賢人)を登用せよ」と解釈して王に進言し、その結果、国が良く治まったと言う故事による。『韓非子』外儲説左上「故先王有郢書而後世多燕説。……郢人有遺燕相國書者、夜書、火不明、因謂持燭者曰、舉燭。云而過書舉燭、舉燭、非書意也、燕相受書而説之、曰、舉燭者、尚明也、尚明也者、舉賢而任之。燕相白王、王大説、國以治、治則治矣、非書意也。今世舉學者多似此類」。 ○枉同厥臭‥「枉」を『香川灸點』(カ)は「狂」に作る。不本意だが、古名を踏襲する、という意味であろう。「同臭」は同類、仲間。 ○膠柱‥規則などにとらわれて融通のきかないこと。琴柱(ことじ)に膠(にかわ)す。『史記』廉頗藺相如列傳。 ○刻舟‥時勢の移り変わりに気が付かないことのたとえ。舟から剣を落とした人が、舟が動くことを考えずに舟端に目印を刻みつけて水中の剣を捜したという『呂氏春秋』察今の故事から。 ○舛差‥あやまり。 ○翅‥「啻」と同じ。 ウラ ○冒筋‥カは「胃筯」につくる。 ○障壁罵聾‥未詳。徒労であることの比喩か。 ○悖‥はずれる。もとる。あやまったさま。 ○煦煦‥温和。暖和。「呴呴」は言葉がなめらかな意。 ○橐籥‥ふいご。ふいごで風を送る。 ○氣機‥生気。人体の正常なはたらき。 ○周軀‥全身。「周」をカは「用」につくる。 ○考証審論委曲‥カは「秀諸證審論委曲周盡」につくる。委曲‥詳しい内容。詳細なさま。 ○周盡‥あらゆるものを周知し、その理をつくす。周到に詳細。 ○先君‥亡き父。 ○箸‥撰述。「著」に通ず。 ○行餘醫言‥香川修庵(一六八三~一七五五)著。全二十二卷(目録には卷之三十まである)。天明八(一七八八)年刊。 ○寶暦丙子‥宝暦六(一七五六)年。 ○孟春‥陰暦正月。 ○香川輿司馬‥修庵(一七五五年没)の子、希輿であろう。修庵の子、希輿、字は主馬、号は冬嶺、明和五(一七六八)年没。希輿の没後、修庵の甥、南洋(一七一四~一七七七)が香川家を継ぐ。名は景与。字は主善。南洋は号。別号に紙莊主人。 ○平安‥京都。 ○一本糞心室‥「一本」は「儒医一本」を称えた香川修庵の「一本堂」という堂号にちなむのであろう。
題灸點圖解首
【意訳】『灸点図解』の巻首に書き記す
夫れ吾が門の治を施すや、灸を最多と為(し)、藥、之に次ぎ、湯泉復た之に次ぐ。
【意訳】そもそもわが一門(香川流)の治療は,施灸をもっとも多くおこない,湯液がその次で,湯泉療法がまたこれについで用いられる。
灸を用いて効驗(を奏する)の夥(おびただ)しきや、舉げて天下の知る所なり。
【意訳】施灸の治療効果が非常に多大であることは,全世界の人に知られている。
而して其の(焉(これ)に)灸(するや)、敢えて古人の寸法配當に縁らず、腹背手足の鬱塞、(痒)痛、不快なる處に隨いて焉(これ)に灸するなり。
【意訳】しかしながら,我らの施灸方法は,古人から伝承されている既成のツボの寸法配置(位置)には基づかず,背・腹・手・足における鬱滞・痛痒・不快な場所にしたがって施灸する。
千金方に云う、呉蜀の國多く此の法を用う、と。
【意訳】『備急千金要方』には,「呉や蜀の国では,この方法で施灸することが多い」と書かれている。
其の將に灸せんとするや、其の病(一作「痛」)處に就きて指を以て其の穴を摸索す。
【意訳】施灸しようとしたら,その病む(痛む)場所を指でその穴を撫で探る。
(推して指頭に應じ、淵々として骨に中(あ)たらず、筋に當らざる處、是れ穴に屬す。)
【意訳】(押してみて指先に反応を感じ,深く探っても骨にも筋にもぶつからない場所,これこそ穴がある場所である。)
所謂(いわゆる)阿是なり。
【意訳】『千金方』にいうところの「阿是穴」である。
吾が門は常々此の法を用う。
【意訳】わが一門では,いつもこの方法で取穴する。
而して古名を用いて之を称すと雖も、古人の所説と點法同じからず。
【意訳】昔からの経穴名を使って呼んではいるが,古人の説くところとは,取穴法は異なる。
則ち名も亦た相い當たらず。
【意訳】名称も,対応していない。
今ま復た名を改むれば好事を嫌う。且つ郢書して諸子の燕説するを恐る。
【意訳】(だからといって)いま名称を改めてしまっては,物好きなことをしたりするようで好ましくない。そのうえ,本意が伝わらずに誤解され,諸君によって勝手に解釈されてしまうのを恐れる。
故に暫く古名を用い、以て枉(ま)げて厥(そ)の臭を同じくす。
【意訳】そのため,暫定的に古来からの名称を使用し,不本意ではあるが,その古くさいものと同類のままとする。
彼は寸法配當を以て則と為(し)、吾は徹穴内透を以て律と為(す)。
【意訳】従来のやり方は寸法配置(取穴位置)を規範とし,我が門は穴を徹し内に透ることをきまりとする。
寸法配當の若きは、老弱・長短・肥瘠を量らず(、倶に一と)して(之に)施す。
【意訳】寸法配当(従来の取穴)のやり方では,老人と子供,身長の高低,太っているか痩せているかを考慮せず(みな一つのものとして)おこなう。
膠柱刻舟、幾(ほとん)ど舛差無きこと能わず。
【意訳】〔このような方法は〕琴柱(ことじ)を動かせないように膠(にかわ)でとめると、調子を変えることができないように,また舟から剣を落として,落とした箇所に舟に刻みを入れて,後から探そうとするようなもので,規則にとらわれて融通が利かず,誤りがないはずがない。
奚(いず)くんぞ翅(ただ)に穴に當たらざるのみならず、骨に隔たり筋を冒して、徒らに好肉を損じ、何ぞ效驗に至らんや。
【意訳】単に穴に命中しないだけでなく,骨にさえぎられ,筋を無理に冒して,むやみに健康な筋肉を損傷することになり,どうして治療効果が得られるだろうか。
壁を障(へだ)てて聾を罵るも、亦た悖(もと)らんや。
【意訳】壁越しに耳の聞こえない人をののしるようなもので,なんと誤りではないか。
夫れ灸の效有るや、穴を徹して内に透し、煦々温々として一身の氣機を橐籥し、陽氣は周軀に運行して、全く至りて施さざる所無し。
【意訳】灸の効果というものは,穴から内部に透徹して,温かさを伝えて,体全体の気の働きをふいごで風を送るように励起し,陽気は体中をめぐって,気が届かないところがなくなる。
故に元氣、内に盈ち、腠理、外に健(たけ)し。
【意訳】そのため,元気は内部で充満し,腠理は外部で健康になる。
是れ乃ち吾が門の穴を探るを主とし、必ず内に徹するを覺ゆるを要(かなめ)とする所以なり。
【意訳】これが我が一門で,穴を探索することを主体として,かならず内部に透徹することを感じるのを要諦とする理由である。
其の考證審論に至っては、委曲(周盡)、既に先君箸する所の行餘醫言の中に詳し。故に復た贅せず。
【意訳】その考証議論について,詳しいことは,今は亡き父が著わした『行余医言』の中にすでに詳しく書いてあるので,あらためて贅言しない。
★『行余医言』卷一・灸治(穴法・取穴法……)
https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ya09/ya09_00511/ya09_00511_0001/ya09_00511_0001.pdf
40/61コマ目
寶暦丙子孟春 香川輿司馬 平安一本糞心室の南窓に筆す
【意訳】宝暦六年(1756)の正月,香川輿司馬が平安(京都)の一本糞心室の南窓際にて書す
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