2026年8月11日火曜日

【意訳】江戸時代鍼灸文献序跋集3-1 鍼灸合類 

 3-1 鍼灸合類  雒洋散人撰  京大富士川文庫所蔵(シ/四九八)

 https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00003426 (シ/498)

 https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00003425 (シ/497)もあり


  (跋)

夫上古治病多用灸刺補之瀉之

以驅去其所苦矣爲其書也内經

以下百家之典不可勝計焉雖然

中間寢廢不講殊前賢之書淵乎

如望洋且孔穴分寸之差紛然而

無歸一之論矣予竊有憂焉間攟

    卷之下 二十六ウラ

摭於曩昔之遺録所以宜于今者

而輯之以爲二卷該曲几之備焉

一日或來求梓之更不獲辭而任

其言也誠其固陋鄙見豈及前人

之萬一乎然今分證附穴而欲便

于倉卒也庶幾博洽之君子改証

  二十七オモテ

之幸也

萬治二秊龍集己亥冬十月日雒

洋散人書于四味堂中


  【訓み下し】

夫(そ)れ上古の治病は、多く灸刺を用いて、之を補し之を瀉し、以て其の苦しむ所を驅去す。其の書爲(た)るや、内經以下、百家の典、勝(あ)げて計(かぞ)う可からず。然りと雖も、中間寢廢して講ぜず。殊に前賢の書、淵乎として望洋の如し。且つ孔穴分寸の差、紛然として歸一の論無し。予、竊(ひそ)かに憂い有り。間ま

    二十六ウラ

曩昔の遺録を攟摭す。今に宜しき所以の者は之を輯して、以て二卷と爲(す)。該曲几(ほとん)ど之れ備わる。一日、或るひと來たりて之を梓にせんことを求む。更に辭するを獲ずして、其の言に任(まか)す。誠に其の固陋鄙見、豈に前人の萬の一に及ばんや。然れども今ま證に分かち、穴を附して、倉卒にも便ならんと欲するなり。庶幾(こいねが)わくは、博洽の君子、証を改めば、

  二十七オモテ

之れ幸いならん。

萬治二秊龍集己亥 冬十月の日 雒洋散人 四味堂中に書す

    

 【注釋】

 ○刺‥原文は「剌」字。しばしば混淆して用いられる。 ○驅去‥駆逐、除去。 ○内經‥『黄帝内經』(『素問』と『靈樞』)。 ○百家‥多数、各種の流派、人々。 ○典‥典籍。書物。 ○寢廢‥停止する。廃棄する。「寢」、原文はウ冠ではなく、「穴冠」につくる。 ○前賢‥前代のすぐれた人。 ○淵乎‥奥深いさま。『莊子』天道「淵乎其不可測也」。『莊子』知北遊「淵淵乎其不可測也」。 ○望洋‥望羊。望陽。茫然。どうしていいか分からないさま。 ○差‥区別。ちがい。 ○紛然‥乱雑なさま。 ○歸一‥一致。統一。規矩。 ○攟‥「捃」の異体。拾い取る。採集する。 二十六ウラ ○摭‥採集する。 ○曩昔‥以前。むかし。 ○遺録‥のこされた記録。 ○該曲几‥「該」は、ひろく、ことごとく。「曲」は、つまびらかに、ゆきとどいて。「几」は、幾。ほとんど。 ○梓‥印刷出版する。 ○更‥いよいよ。ついに。 ○獲‥助動詞。できる。韓愈の文や滑壽『十四經發揮』自序などに見られる。江戸時代鍼灸書の序跋でもひろく使われている。 ○辭‥ことわる。辞退する。 ○固陋‥見聞が浅薄である。 ○鄙見‥自己の見解を謙遜していう。 ○萬一‥万分の一。きわめて微少なことの形容。 ○分證‥病証・症候別に分ける。 ○便‥便利。 ○倉卒‥急なとき。 ○博洽‥学識のひろい。「洽」、原文は「二水(冫)」に「合」。 ○改証‥改證。依拠、判断材料を改める。 二十七オモテ ○萬治二秊龍集己亥‥「秊」は「年」の異体。「龍集」は歳次。万治二(一六五九)年。 ○雒洋散人‥未詳。「散人」は、世の中に無用のひと。引退した文人儒者が自ら号することが多い。 ○四味堂‥

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   (跋)

夫(そ)れ上古の治病は、多く灸刺を用いて、之を補し之を瀉し、以て其の苦しむ所を驅去す。

 【意訳】さて,上古時代の病気の治療には,鍼灸が多く用いられ,補瀉をほどこすことによって,そのひとの苦しみを取り除いた。

其の書爲(た)るや、内經以下、百家の典、勝(あ)げて計(かぞ)う可からず。

 【意訳】それに関する書籍は,『黄帝内経』以下,多数の流派の典籍があって,数え切れない。

然りと雖も、中間寢廢して講ぜず。

 【意訳】そうとはいえ,(今に至るまでに)途中で(鍼灸は)見捨てられて,学ばれなくなった。

殊に前賢の書、淵乎として望洋の如し。

 【意訳】(そのため)とりわけ,前代の優れた人の書物は奥が深いので,内容が理解しがたくなってしまった。

且つ孔穴分寸の差、紛然として歸一の論無し。

 【意訳】その上,取穴法は諸説紛々として定論がなくなってしまった。

予、竊(ひそ)かに憂い有り。

 【意訳】わたくしは,個人的にうれいていた。

間ま曩昔の遺録を攟摭す。

 【意訳】(それで)折に触れて,昔の書き残された記録を採集した。

今に宜しき所以の者は之を輯して、以て二卷と爲(す)。

 【意訳】現代においても有用だと思われるものを編集して2巻にまとめた。

該曲几(ほとん)ど之れ備わる。

 【意訳】内容は,広く漏れなくほとんど備わっている。

一日、或るひと來たりて之を梓にせんことを求む。

 【意訳】ある日,某人が来訪して,出版したいという。

更に辭するを獲ずして、其の言に任(まか)す。

 【意訳】ついに辞退するのもままならず,その人が言うことに任せた。

誠に其の固陋鄙見、豈に前人の萬の一に及ばんや。

 【意訳】この2巻は,まことにわたくしの非常に浅薄な見解だらけで,前代の賢人の優れた見解の一万分の一にも達していないだろう。

然れども今ま證に分かち、穴を附して、倉卒にも便ならんと欲するなり。

 【意訳】そうではあるが,いま,病症ごとに分類して治療穴を付け加え,急病の時にも便利につかえれば,と願うものである。

庶幾(こいねが)わくは、博洽の君子、証を改めば、之れ幸いならん。

 【意訳】願わくは,学識の高いひとたちがこれを参考にして,さらによいものを作っていただければ,非常に幸いである。

萬治二秊龍集己亥 冬十月の日 雒洋散人 四味堂中に書す

 【意訳】万治2年(1659)10月 雒洋散人が四味堂の中でこの跋を書いた


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