2026年8月25日火曜日

【意訳】江戸時代鍼灸文献序跋集6-6 宮門流針書

6-6 宮門流針書  著者未詳

    杏雨書屋所蔵(乾三七二一)

    読みやすさを考慮し、読点を付けた。一部判読に疑念あり(傍線部)。ルビをつけた。神文は起請文の意。


 宮門流針書

神文之事

一(ひとつ)今度拙者義、御流儀針治法懇望ニ付、御傳法御願申上候處、御傳法被成下(なしくだされ)、難有仕合(ありがたきしあわせ)ニ奉存(ぞんじたてまつり)候

一御傳法之秘事、たとひ親子兄弟たり共、猥りニ語り申(もうす)間敷(まじく)候

一御傳法之後者、親兄弟親類之仰を堅ク相守り、忠孝第一ニ可仕(つかまつるべく)候事

一御傳法之後、儀を堅く相守可申事、若(もし)不儀成(なる)事出來(しゆつたい)仕候ハヽ、何時ニ而も御破門被成(なされ)候而も、少シも恨申間敷候事

一他流之批判、堅く仕間敷候、尚又自慢仕間敷候事

一平生行儀正く、言葉遣ひきれいに、慇懃ニ仕候、諸人

  一ウラ

  様方ニ謙(へりくだ)り、親子兄弟妻子ハ勿論、諸人むつましく可仕候事

一針治之節ハ、平生心安き人たり共、少シもたハむれ言葉心安立、并雜談仕間敷候、尤貧賤之人、女子婦人ニ對し、戲(ざれ)言(ごと)申間敷候、勿論行義正敷可仕候事、平生たしなミ申事也

一貧賤之人を大切ニいたし、何時ニ限らす、療治いたし可遣(つかわすべき)事

一治術之義、日々修行仕候而、達道之御人ニと(問)ひ奉り出情(精)可仕候事

一子下ケ針仕間敷候事

  二オモテ

一師家之掟、堅可相守候事

一針治之節ハ、別而行義を正しく可仕候、勿論行義不正(ただしからず)してハ、針治不出、且又師家之掟ニ相叶不申候、平生立居ニ而も、針治之節◇◇如く正敷坐◇ぬ申也、針治不限、諸藝術皆々如此ニ候、行義不正人にハ、秘針傳受、堅く無用たるべし、尚又十四經覺不申候也

    同◇

 右之條々於相背者、日本大小神祇可蒙御罪者也、仍而神文如件(くだんのごとし)


 宮門流針書

神文之事

【意訳】起請文のこと

     ○神文:起請の内容に偽りがあったり違背した場合、神仏の罰を受けるべき旨を記した文。

一(ひとつ)今度拙者義、御流儀針治法懇望ニ付、御傳法御願申上候處、御傳法被成下(なしくだされ)、難有仕合(ありがたきしあわせ)ニ奉存(ぞんじたてまつり)候

【意訳】・このたび,わたくしごとではありますが,貴流派の針治法をひたすら願い望み,ご伝授を願いましたところ,ご伝授をしていただき,この上ない幸せとこころから思っております。

一御傳法之秘事、たとひ親子兄弟たり共、猥りニ語り申(もうす)間敷(まじく)候

【意訳】・ご伝授していただきました奥義につきましては,たとえ親兄弟であっても,軽率に語り伝えたりなどいたしません。

一御傳法之後者、親兄弟親類之仰を堅ク相守り、忠孝第一ニ可仕(つかまつるべく)候事

【意訳】・ご伝授を受けたのちは,親兄弟,親類のいいつけをしっかり守り,主君に対する忠義と親に対する孝行を最も重要なこととして考えて参ります。

一御傳法之後、儀を堅く相守可申事、若(もし)不儀成(なる)事出來(しゆつたい)仕候ハヽ、何時ニ而も御破門被成(なされ)候而も、少シも恨申間敷候事

【意訳】・ご伝授を受けたのちは,道義をしっかりと守ります。もし人の道にはずれたふるまいをいたしましたら,いつ破門されましても,少しも恨むようなことはいたしません。

一他流之批判、堅く仕間敷候、尚又自慢仕間敷候事

【意訳】・他の流派に対する批判などは,厳重にいたしません。また(自分の腕)自慢などもいたしません。

一平生行儀正く、言葉遣ひきれいに、慇懃ニ仕候、諸人様方ニ謙(へりくだ)り、親子兄弟妻子ハ勿論、諸人むつましく可仕候事

【意訳】・常日頃,立ち居振る舞いを正し,下品な言葉は遣わず,真心をこめて礼儀正しくいたします。多くの皆様には尊敬の念を持って応対し,親子兄弟妻子はもちろんのこと,皆様方と仲良くいたします。

一針治之節ハ、平生心安き人たり共、少シもたハむれ言葉心安立、并雜談仕間敷候、尤貧賤之人、女子婦人ニ對し、戲(ざれ)言(ごと)申間敷候、勿論行義正敷可仕候事、平生たしなミ申事也

【意訳】針治療の際には,普段気が置けない関係のひとであっても,少しも冗談などむやみに言わず,雑談もいたしません。とりわけ貧しい人・身分の低い人,女・子供に対してふざけたことなどは申さず,言うまでもなく行儀正しくいたすように,ひごろから心がけいたします。

一貧賤之人を大切ニいたし、何時ニ限らす、療治いたし可遣(つかわすべき)事

【意訳】・貧しい人・身分の低い人を大切にして,普段の臨床時間外であって,治療いたします。

一治術之義、日々修行仕候而、達道之御人ニと(問)ひ奉り出情(精)可仕候事

【意訳】・治療技術については,毎日励み務め,この道の達人に疑問点をただし,精を出します。

一子下ケ針仕間敷候事

【意訳】・針を使って堕胎することはいたしません。

  二オモテ

一師家之掟、堅可相守候事

【意訳】師匠が決められた約束事は,かたくお守りいたします。

一針治之節ハ、別而行義を正しく可仕候、勿論行義不正(ただしからず)してハ、針治不出、且又師家之掟ニ相叶不申候、平生立居ニ而も、針治之節◇◇如く正敷坐◇ぬ申也、針治不限、諸藝術皆々如此ニ候、行義不正人にハ、秘針傳受、堅く無用たるべし、尚又十四經覺不申候也

【意訳】針治療の際は,格別に行儀を正しくいたします。もちろん行儀が正しくなければ,針の治療はできません。かつまた師匠が決められた約束事に当てはまりません。常日頃の立ち居振る舞いにしても,針治療の際は,……針治療にかぎらず,あらゆる技術とはこういうものです。行ないや品行が正しくない者には,秘伝の針術をさずけることは,決して行ないません。なおまた教わりました十四経については,他言いたしません。

    同◇

【意訳】同

 右之條々於相背者、日本大小神祇可蒙御罪者也、仍而神文如件(くだんのごとし)

【意訳】右の一つ一つの箇条に背いた場合は,日本の大小の神々さまからの御罰をお受けいたします。以上の起請文の内容に間違いはありません。

 

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