2011年3月27日日曜日

37-1 灸穴集

37-1『灸穴集』
     東京国立博物館所蔵(〇三九-と二二一七)
     オリエント出版社『臨床鍼灸古典全書』37所収

  読み取れない部分を□であらわした。一部は『医学入門』内集・卷一下・灸法を参考にして補った。

灸穴集序
夫惟則人者爲血氣之屬矣雖聖
賢有腔子則不免疾病況於百年
之光隂乎上古治病服餌之法纔
一二爲灸者四三其他則以鍼砭
不用鍼灸而爭危急及暴絶而灸
治漸一壯乍得蘓生無不有効驗
矣内經曰補虚瀉實陷下者灸之
□醫學入門云虚者灸之使火氣
以助元陽也實者灸之使實邪隨
火氣而發散也寒者灸之使其氣
一ウラ
復温也熱者灸之引欝熱之氣外
發也世醫知鍼而不知灸用藥而
不知鍼灸臨病不從古人之矩則
世人亦覺鍼灸者盲人女子爲按
摩庸劣之業也庸醫亦平日不講
究灸穴經隧忽逢急卒則不抱經
穴妄意按探竝點壯數妄施且僧
尼輩自稱家傳或御夢想之妙灸
而畫財神出招牌欺惑於人無論
寒熱虚實爭醫柄不明經脉則又
烏知榮衞之所統邪之所在哉故
  二オモテ
妄害人之體軀豈不悲哉且夫鍼
灸者爲醫家之要鍼灸醫病其効
最捷故再改正經絡竒穴扣其所
用之竒法窮其妙而撮要鈎玄而
以闢一家之秘作此圖謹而守此
灸法救患人之危急則殆幾於志
士仁人之用心萬助云爾


  【訓み下し】
灸穴集序
夫(そ)れ惟(おもんみ)れば、則ち人は血氣の屬爲(た)り。聖
賢と雖も腔子有れば、則ち疾病を免かれず。況んや百年
の光隂に於いてをや。上古の病を治するに、服餌の法は、纔(わず)かに
一二。灸を爲す者は四三。其の他は則ち鍼砭を以てす。
鍼灸を用いずして危急を爭い、暴絶に及ぶ。而して灸
治すること漸く一壯にして、乍(たちま)ち蘓生するを得て、効驗有らざる無しという。
内經に曰く、虚を補い、實を瀉し、陷下する者は之を灸す、と。
□醫學入門に云う、虚は之を灸し、火氣をして
以て元陽を助けしむるなり。實は之を灸して、實邪をして
火氣に隨いて發散せしむるなり。寒は之を灸して其の氣をして
一ウラ
温に復せしむるなり。熱は之を灸して欝熱の氣を引きて外
に發するなり、と。世醫は鍼を知りて灸を知らず。藥を用いて
鍼灸を知らず。病に臨んで古人の矩(のり)に從わざれば、則ち
世人も亦た鍼灸なる者は、盲人女子の、按
摩庸劣の業爲(た)りと覺ゆるなり。庸醫も亦た平日、
灸穴・經隧を講究せず、忽(にわ)かに急卒に逢わば、則ち經
穴を抱かず、妄意に按(も)み探り、竝びに點し、壯數妄りに施す。且つ僧
尼の輩は、自ら家傳或いは御夢想の妙灸と稱して、
財神を畫き、招牌を出だし、人を欺き惑わし、
寒熱虚實を論ずること無く、醫柄を爭う。經脉に明らかならざれば、則ち又た
烏(いず)くんぞ榮衞の統ぶる所、邪の在る所を知らんや。故に
  二オモテ
妄りに人の體軀を害す。豈に悲しからずや。且つ夫れ鍼
灸なる者は、醫家の要爲(た)り。鍼灸、病を醫(いや)すこと、其の効
最も捷(すばや)し。故に再び改めて經絡・奇穴を正し、其の
用いる所の奇法を扣(と)い、其の妙を窮めて要を撮(と)り玄を鈎(さぐ)りて、
以て一家の秘を闢(ひら)き、此の圖を作る。謹しみて此の
灸法を守り、患人の危急を救わば、則ち殆(ほとん)ど
志士仁人の用心・萬助に幾(ちか)からんと爾(しか)云う。

【注】腔子:からだ。 ○隂:「陰」の異体字。光陰は時間、歳月。 ○服餌:丹薬を服用する。道家が養生して寿命を延ばすための技術の一種。 ○危急:目前に危険が迫るさま。 ○暴絶:突然気が絶えるさま。 ○乍:突然。 ○蘓:「蘇」の異体字。 ○内經曰:『靈樞』經脈などを参照。 
一ウラ
○世醫:代々世襲の医者。 ○矩:法則、常規。 ○世人:世間のひと。 ○抱:まもる。 ○妄意:臆測で。随意に。 ○御夢想之妙灸:興福寺・八釣地蔵さん4月24日「聖徳太子が夢のお告げで御体顕された御夢想の名灸があり、リュウマチや神経痛治療によいとされている。」/泉鏡花『露肆』「弘法大師御夢想のお灸であすソ、利きますソ。」/齒の博物館:『大阪のまじないの引札』「此まじないの儀は、天満宮の御夢想にして……」 ○財神:金運を高め、財運を呼び込む神様。 ○招牌:商店や医家などが門前などに名前や扱う内容などを表示した商標。 ○柄:権力。手柄。 
  二オモテ
○扣:「叩」に通ず。質問する。 ○撮要:要点を摘み取る。 ○鈎玄:奥深い意味を探究する。「鈎」は「鉤」の異体字。かぎに掛けてとる。究明する。 ○志士仁人:理想抱負と道徳仁心を備えた人。『論語』衛靈公「志士仁人、無求生以害仁、有殺身以成仁(志士仁人は、生を求めて以て仁を害すること無く、身を殺して以て仁を成すこと有り)」。 ○用心:心遣い。 ○萬助:多くの助け。

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