2011年3月18日金曜日

35-2 鍼法辨惑

35-2『鍼法辨惑』
     京都大学医学図書館富士川文庫所蔵『鍼法辨惑』(シ・626)
     オリエント出版社『臨床鍼灸古典全書』35所収

自敍
素問靈樞刺之大法存矣而其書成於周之季
不知出誰手是以玉石不分朱紫相混未必無
取舎也後世取法於此附會牽合無所不至數
千年間誤人之弊可勝嘆哉余業鍼刺三十餘
年斟酌古法間加新意試諸己施諸人稍似有
所獲更欲著一書定刺則奈質之朽何代耕之
暇時勞毛公累年成篇通計三卷題曰鍼法辨惑
  一ウラ
篇中臆斷居半非敢獻諸大邦聊使門人小子知有
所守已矣
明和旃蒙作噩仲秋之望
河内 藤秀孟郡子識

  【訓み下し】
自敍
素問・靈樞、刺の大法存す。而して其の書は周の季(すえ)に成る。
誰が手に出づるかを知らず。是(ここ)を以て玉石分かたず、朱紫相い混じり、未だ必ずしも
取舎無きことあらざるなり。後世、法を此に取るに、附會牽合して、至らざる所無し。數千年間、人を誤らすの弊、嘆ずるに勝(た)う可けんや。余は鍼刺を業とすること三十餘
年、古法を斟酌して、間ま新意を加え、諸(これ)を己に試み、諸を人に施し、稍や
獲る所有るに似たり。更に一書を著さんと欲す。刺を定むれば、則ち質の朽ちること奈何(いかん)せん。代耕の
暇時、毛公を勞すること累年、篇を成すこと、通計三卷、題して、鍼法辨惑と曰う。
  一ウラ
篇中の臆斷、半ばに居る。敢えて諸(これ)を大邦に獻ずるに非ず、聊か門人小子をして知り、守る所有らしむるのみ。
明和旃蒙作噩、仲秋の望
河内 藤秀孟郡子識(しる)す


  【注釋】
○敍:藏書シールが貼られているため、旁は不明。いずれにせよ、「敍・叙・敘」のいずれか。 ○大法:基本法則。重要な基本となるきまり。 ○季:「時代」とも考えられるが、王朝名が前にあるので「末期」の意であろう。 ○玉石不分:玉と石が混在している。良いものと悪いものが分かれていないことの比喩。 ○朱紫相混:古くは朱を正色(青・黄・朱〔赤〕・白・黒)といい、それ以外を間色といい、これを優劣・善悪・正邪などを対比する比喩に用いた。『論語』陽貨「子曰、惡紫之奪朱也」。 ○取舎:取捨。 ○取法:模範とする。ならう。 ○附會牽合:牽強付会。 ○可勝嘆哉:「勝」は、忍ぶ、もちこたえる。あるいは、否定形ではないが、「勝(あ)げて嘆ず可けんや」と読むか。 ○斟酌:可否を考えて取捨を決める。 ○新意:新たな意味合い、創意。 ○質之朽:「朽質」は、劣った資質。謙遜語。 ○代耕:仕官。農業以外の職業。 ○勞:こきつかう。 ○毛公:未詳。筆のことか? ○累年:多年。
  一ウラ
○臆斷:自分の臆測による主観的判断。 ○居半:半分をしめる。 ○大邦:大国。唐土(もろこし)のことか。 ○門人:弟子。 ○小子:年少者。若輩。後進。 ○明和旃蒙作噩:明和二年(一七六五)。旃蒙:乙。作噩:酉。 ○仲秋:陰暦八月。 ○望:十五日。 ○河内:現在の大阪府の東部。 ○藤秀孟郡子:京都大学医学図書館富士川文庫目録には「加藤秀孟」とある。『国書総目録』はこの説とともに、大阪出版書籍目録等により「藤井郡子」説を載せる。
本書の画像は、下記を参照。
http://1gen.jp/kosyo/084/mokuji.htm

1 件のコメント:

  1. あるいは:
    聊か門人小子をして守る(べき)所有るを知らしむるのみ。(……知らしめて已むなり。)
    〔最初に素霊といえども玉石混交といい、最後には、そうは言っても守るべきことは有るという。〕

    重箱の隅をつつくのは、こんなときでも見ている人はいるよ、ということ、です。

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