2010年12月18日土曜日

15-5 経験要穴

15-5経験要穴
     京都大学医学図書館富士川文庫所蔵『経験要穴』(ケ・41)
     オリエント出版社『臨床鍼灸古典全書』15所収

經驗要穴序
夫數百窬穴皆自有主治焉雖古人實
不欺然自非經驗者則未可以傳諸人
而已予祖父濳心於此而熟習有年則
於灸法尤有得也以為療沈痾救暴患
  一ウラ
莫善於灸療焉試諸疾者應如景響其
請治者常數十百人祖父所傳無慮
百有餘穴皆日〃所試而確乎有徵者
耳祖父嘗有言曰窬穴數多豈盡灸
之所常徵驗者則一百餘穴臨機應
  二オモテ
變由此求之則庶幾足以療救是予所
約取者也祖父没二十年于茲經歷愈
久施濟益驗於此始知古人實不欺而
祖父之言亦不誣因挙其一百餘穴而
記其取之法及其主治於其下而為一
  二ウラ
小冊題曰經驗要穴命諸剞劂氏以周
于同志有幸以取之則為仁術之一助
云爾于時寛政辛亥秋九月九日
    東都高田玄達玄令父撰
     〔印形白字「玄/達」、黒字「玄/令」〕


  【訓み下し】
經驗要穴序
夫(そ)れ數百の窬穴、皆な自ら主治有り。古人實(まこと)に
欺かずと雖も、然れども自ら經驗非ざる者は、則ち未だ以て諸(これ)を人に傳う可からざる
のみ。予が祖父、心を此に濳め、而して熟習すること年有り、則ち
灸法に於いて、尤も得有り。以為(おもえ)らく、沈痾を療し暴患を救うに、
  一ウラ
灸療より善きは莫し、と。諸(これ)を疾に試みれば、應は景響の如し。其の
治を請う者は、常に數十百人。祖父の傳うる所、無慮
百有餘穴。皆な日々試る所にして、確乎として徴有る者
のみ。祖父嘗て言有り。曰く、窬穴數多、豈に盡く之を灸せんや。
常に驗を徴する所の者は、則ち一百餘穴、機に臨んで
  二オモテ
變に應ず。此れに由り之を求むれば、則ち庶幾(ほとん)ど以て療救するに足らん。是れ予が
約取する所の者なり、と。祖父没して茲に二十年。經歷すること愈々
久しく、施濟すること益々驗あり。此に於いて始めて古人の實に欺かず、而して
祖父の言も亦た誣(し)いざるを知る。因りて其の一百餘穴を擧げて、而して
其の之を取る法、及び其の主治を其の下に記し、而して一
  二ウラ
小冊と為す。題して曰く、經驗要穴と。諸(これ)を剞劂氏に命じ、以て
同志に周(あまね)くす。幸い有り以て之を取らば、則ち仁術之の助為(た)る
云爾(のみ)。時に寛政辛亥秋九月九日
    東都高田玄達玄令父撰
     〔印形白字「玄/達」、黒字「玄/令」〕


  【注釋】
○窬:「腧・兪」の異体字。 ○濳心:専心する。心静かに一つのことに専念する。 ○熟習:深く理解する。熟練する。 ○有年:多年。 ○有得:心得あり。理解するところがある。 ○沈痾:沉疴。長患い。 ○暴患:急病。
  一ウラ
○景響:影響。影が形にしたがい、響きが声にしたがうように、あることが起こると、即座にそれにともなって変化や動きが生まれる。 ○無慮:おおよそ。大略。 ○徵驗:効果を呈する。/徴:あらわす。/驗:しるし。効果。 ○臨機應變:その時にのぞみ、成り行きの変化に応じて、適切な処置をほどこす。
  二オモテ
○約取:その要領を取る。 ○于茲:于兹。今にいたるまで。 ○經歴:経過する。 ○施濟:救済する。 
  二ウラ
○剞劂氏:彫刻師。出版者。 ○周:いきわたらせる。 ○有幸:幸運にも。 ○仁術:仁政を行うすべ。医術。 ○寛政辛亥:寛政三年(1791)。 ○東都:江戸。 ○高田玄達玄令:『經穴指掌』跋などによれば、平氏。字は玄令。号は鷹起か。本姓は井上。阿部漏齋とも称した。 ○父:男子に対する尊称、美称。

0 件のコメント:

コメントを投稿