2010年12月2日木曜日

12-2 骨度正穴聞書

12-2骨度正穴聞書
     武田科学振興財団杏雨書屋所蔵『骨度正穴聞書』
     オリエント出版社『臨床鍼灸古典全書』12所収

骨度正穴聞書題辭
夫欲善鍼灸者、先審經絡流注、而
後可及孔穴主對、學鍼而不灸、
學灸而不鍼、以非良醫也、湯藥攻
其内、鍼灸攻其外、鍼灸之効、臨時
救難、過湯藥半也、然年代久遠、傳
  一ウラ
寫錯誤、不可不正焉、佳譽者、子成
之女也、有遺草一卷、請欲上梓、子
成、授余曰、滑伯仁搜採黄岐之經、
著十四經發揮、指南經穴也、從此
以來、聚英入門、及岡本一抱子、村上
親方等書益出、各爲一家言也。雖然、
  二オモテ
本文與圖説不合者、過其半也。今
據經絡骨度、折衷諸家、以經穴之
書備矣、欲使女佳譽續此業也、幸
有志于鍼灸也。居几下寫圖解、在
膝前聞口傳、聞而不忘、書而不殘、
雖俗辭解、至辯識正説、則是正
  二ウラ
穴老明鑑、帳中重寶也、後世
一人、讀此遺草、而有辨正其是
非者、則佳譽大幸、善哉此言也、
余不敏、無可加一辭者、因所聞書
之、以冠卷首云、文化乙亥仲秋、
     佐藤元澤題 〔印形白字「榮/貞」〕


  【書き下し】
骨度正穴聞書題辭
夫(そ)れ鍼灸を善くせんと欲する者は、先づ經絡流注を審かにして、而して
後に孔穴主對に及ぶ可し。鍼を學びて灸せず、
灸を學びて鍼せざるは、以て良醫に非ず。湯藥、
其の内を攻め、鍼灸、其の外を攻む。鍼灸の効、時に臨んで
難を救うこと、湯藥の半ばに過ぐ。然れども年代久遠にして、傳
  一ウラ
冩の錯誤、正さずんばある可からず。佳譽は、子成
の女(むすめ)なり。遺草一卷有り。請いて梓に上(のぼ)さんと欲す。子
成、余に授けて曰く、滑伯仁、黄岐の經を搜採し、
十四經發揮を著し、經穴を指南す。此れ從り
以來(このかた)、聚英・入門、及び岡本一抱子、村上
親方等が書、益々出でて、各々一家言を爲す。然りと雖も、
  二オモテ
本文と圖説と、合わざる者、其の半ばを過ぐ。今
經絡骨度に據りて、諸家を折衷して、以て經穴の
書備りぬ。女佳譽をして此の業を續かしめんと欲す。幸いに
鍼灸に志有り。几下に居りて圖解を寫し、
膝前に在りて、口傳を聞く。聞きて忘れず、書きて殘さず。
俗辭解と雖も、正説を辯識するに至っては、則ち是れ正
  二ウラ
穴、老の明鑑、帳中の重寶なり。後世
一人、此の遺草を讀みて、而して其の是非を辨正する者有れば、
則ち佳譽の大幸、と。善なるかな、此の言。
余不敏。一辭を加う可き者無し。因りて聞く所、
之を書し、以て卷首に冠すと云う。文化乙亥の仲秋、
     佐藤元澤題す

  【注釋】
○孔穴主對:『備急千金要方』巻三十・孔穴主對法「凡云孔穴主對者、穴名在上、病狀在下、或一病有數十穴、或數病共一穴皆臨時斟酌作法用之。」 ○攻:おさめる。治療する。
○佳譽:岡田佳譽。岡田静安の女(むすめ)。 ○子成:岡田静安。俗名は静安、実名は静黙、字は子成。号は華陽。武蔵国蕨のひと。1770~1848。『骨度正穴考(図)』『経脈骨度解』『孔穴主対』などの撰者。 ○遺草:遺著。死後の残された草稿。○欲上梓:出版したい。 ○滑伯仁:元・滑寿。伯仁は字。攖寧生と号す。『十四経発揮』を撰す。
黄岐之經:黄帝岐伯の経典。すなわち『黄帝内経』(『素問』『霊枢』)。 ○聚英:明・高武撰『鍼灸聚英』。 ○入門:明・李梴撰『医学入門』。 ○岡本一抱:名は伊恒(これつね)、通称は為竹。福井のひと。近松門左衛門の実弟。1654~1716。『十四経絡発揮和解』『鍼灸阿是要穴』の撰者。「子」は尊敬。 ○村上親方:村上宗占。名は親方(ちかまさ)、字が宗占、号は一得子(いっとくし)。生没年不詳。土浦藩医員。『兪穴弁解』『骨度正誤図説』『十四経発揮経絡兪穴骨度之図』『銅人形引経訣』の撰者。 ○續:つぐ。継続する。 ○几下:机の下。 ○書而不殘:書き漏らしがない。 ○文化乙亥:文化十二(1815)年。 ○佐藤元澤:未詳。岡田静安『難経韻語図解』の後序も草す。
  参考文献:小曽戸洋『日本漢方典籍辞典』大修館書店、1999年。
 解読翻字に際し、北里研究所附属東洋医学総合研究所医史学研究部の天野陽介先生に添削していただきました。ここに特に記し、鳴謝します。


  以下、加点する。
  卷下
  四五オモテ
家翁者、明和庚寅歳五月十三日寅日寅時ニ生
ル、故ニ寅吉ト云也、業成テ元糠、號ハ華陽、園ハ
松響トハ、藤東海先生、字ハ德明ト云者アリ、家
翁之山中宰相ノ分量ニ據テ、張仲景之分量頗
ル得ヲ以テ、陶隱居ニアヤカル樣ニトテ名付
  四五ウラ
也、藥方分量考上梓スルニ至テ、元糠ハ惡カル
可トテ、俗名ヲ靜安、實名ハ靜黙、字ハ子成、慮得
齋ト、半井成美君人公ヨリ成美之成字ヲ戴キ、
改名ヲ爲ス、志願足レリト云リ、故ニ骨度正穴
考、經脉骨度解、孔穴主對、岡田静黙著松響園灸
治録、慮得齋方成ハ、同人之著述也、

骨度正穴考聞書卷之下終

0 件のコメント:

コメントを投稿