2010年12月1日水曜日

12-1 骨度正穴考図

12-1骨度正穴考図
     武田科学振興財団杏雨書屋所蔵『骨度正穴考図』(杏5203)
     オリエント出版社『臨床鍼灸古典全書』12所収

骨度正穴考圖序
夫人以天地之氣生以四時之法成故
有形則不離隂陽也然因有隂陽多少
而有性善性不善是故為善性為不善
性各非其性不能為焉今骨度正穴考
圖之成亦非其性不能為焉吾友岡田
子成者武蕨驛人也家無儋石之儲衣
服適寒温不交世俗古人為師詩書為
  一ウラ
友性好考索遂成經穴一家言以復于
上古之舊也夫天地之大氣者春夏出
于地上也人身應於背背實而腹虚也
是故腹及手足裏易傷於温暑也秋冬
入于地下也人身應於腹腹實而背虚
也是故背及手足表易傷於涼寒也又
從大氣而徃來者風與水也風為氣温
也應春而物生始也水為血寒也應冬
  二オモテ
而物成終是故風水不行則天地不和
而萬物變異焉氣血不行則藏府不和
而疾病自成矣醫法於天地以及於人
也其法在調和隂陽也天地之道天地
之命天地之性人亦應之天地之道者
五運六氣變化生殺之謂也天地之命
者一隂一陽奇偶相配分於道之謂也
天地之性者隂陽之本始萬物之生資
  二ウラ
隂陽形於一無為而物生成之謂也蓋
人之性以多陽性為善也以多隂性為
惡也以隂陽和平性為聖也子成曰人
之性天然者以隂陽之氣和不和性有
善惡也非偏善偏惡者矣徴余叙其所
作之意余不敏輙書性之説以冠卷首
經穴分寸之屬則不暇悉論也
時文化十年癸酉之人日秋元玄仙序


  【書き下し】
骨度正穴考圖序
夫れ人は天地の氣を以て生れ、四時を法を以て成る。故に
形有り。則ち隂陽を離れざるなり。然して隂陽多少有るに因り、
而して性の善なると性の不善なる有り。是の故に善性と為り、不善
性と為る。各々其に性に非ずんば、為す能わず。今ま骨度正穴考
圖の成る。亦た其の性に非ずんば、為す能わず。吾が友岡田
子成は、武蕨驛の人なり。家に儋石の儲え無く、衣
服は寒温に適い、世俗と交わらず、古人を師と為し、詩書を
  一ウラ
友と為す。性、考索を好み、遂に經穴一家言を成し、以て
上古の舊に復するなり。夫れ天地の大氣、春夏は
地上に出づるなり。人身は背に應ず。背實して腹虚するなり。
是の故に腹及び手足の裏は、温暑に傷(やぶ)られ易きなり。秋冬は
地下に入るなり。人身は腹に應ず。腹實して背虚する
なり。是の故に背及び手足の表は、涼寒に傷(やぶ)られ易きなり。又た
大氣に從いて徃來する者は、風と水なり。風は氣為(た)り、温
なり、春に應じて物生じ始まるなり。水は血氣為(た)り、寒なり、冬に應じて
  二オモテ
物成り終わる。是の故に風水行(めぐ)らざれば、則ち天地和せず、
而して萬物變異す。氣血行(めぐ)らざれば、則ち藏府和せず、
而して疾病自ら成る。醫は天地に法(のつと)り、以て人に及ぶ
なり。其の法は隂陽を調和するに在るなり。天地の道、天地
の命、天地の性、人も亦た之に應ず。天地の道は、
五運六氣、變化生殺の謂なり。天地の命
は、一隂一陽、奇偶相配、道に分かるるの謂なり。
天地の性は、隂陽の本始、萬物の生資、
  二ウラ
隂陽、一に形し、為すこと無くして物生成するの謂なり。蓋し
人の性、陽多きを以て、性は善と為すなり。隂多きを以て、性は
惡と為すなり。隂陽和平を以て、性は聖と為すなり。子成曰く、人
の性、天然なる者は、隂陽の氣和と不和を以て、性に
善惡有るなり。偏善偏惡の者に非ざるなり。余に徴(もと)めて其の
作る所の意を叙べしむ。余、不敏、輙ち性の説を書し、以て卷首に冠す。
經穴分寸の屬は、則ち悉く論ずるに暇あらざるなり。
時は文化十年癸酉の人日、秋元玄仙序

  【注釋】
○人以天地之氣生以四時之法成:『素問』宝命全形論(25)「人以天地之氣生、四時之法成」。 ○隂:「陰」の異体字。 ○有性善性不善:『孟子』告子上「或曰、有性善、有性不善」。 ○岡田子成:岡田静安(1770~1848)。実名は靜黙(きよしず)。字は子成。号は華陽、松響園、慮得齋。『骨度正穴考聞書』巻下末を参照。 ○武蕨驛:武蔵国足立郡蕨宿。いま、埼玉県蕨市。中山道、日本橋の次の宿。 ○家無儋石之儲:家の中に余分な食料も全くない。生活が困窮していることの形容。/儋石:儋は一石の穀物をいれられる容器。そのため「儋石」という。ひとりの人が擔えるだけの粟米ともいう。少量の糧食。 ○衣服適寒温:衣服に金をかけて贅沢をしない、の意か。 ○詩書:『詩経』と『書経』。またひろく『経書』をいう。ここでは、詩を含めた書籍全般か。
  一ウラ
○考索:考査研究。 ○徃:「往」の異体字。 
  二オモテ
○生資:資生。『易』坤「至哉坤元、萬物資生」。孔穎達疏「萬物資生者、言萬物資地而生」。生み、助ける。
  二ウラ
○文化十年癸酉:西暦一八一三年。 ○人日:旧暦正月七日。 ○秋元玄仙:


骨度正穴考圖序
骨度者靈七卷六臣伯高所撰人長七
尺五寸縱横有骨分限毎各部有長短
是謂同身之寸唐孫思邈甄權除舊圖
作新選於是明堂圖變仰背側人不完
今本長字為辯自同身寸為半作圖平
體正面以合骨度名編正穴者筋骨間
經合井滎腧原營衞氣所循環正邪氣
  一ウラ  10
所聚焉鍼寒肉宜内温灸温肌宜外寒
毒藥攻内不痊鍼灸可以十全近來圖
鑑亦變撰次古今諸賢據骨度篇正焉
以淂正穴名編滑氏發揮圖選屈伸體
俛仰面垂手廣足斜肩其寫誤不堪看
毎淂生業寸間積日精思染翰使佳譽
寫愚按得其人欲傳焉文化壬申大寒
岡田靜黙自撰

  【書き下し】
骨度正穴考圖序
骨度とは、靈の七卷、六臣伯高が撰する所。人の長(た)け七
尺五寸、縱横に骨の分限有り、各部毎に長短有り、
是を同身の寸と謂う。唐の孫思邈、甄權、舊圖を除いて
新選を作る。是(ここ)に於いて明堂圖變じ、仰背側人完からず。
今ま長字に本づき辯を為し、自らの同身寸を半と為し、圖を作るに平
體正面、骨度に合するを以て編に名づく。正穴とは、筋骨の間、
經合井滎腧原、營衞の氣の循環する所、正邪氣の
  一ウラ  10
聚る所なり。鍼は肉を寒(ひや)し、内の温に宜し。灸は肌を温めて外の寒に宜し。
毒藥、内を攻めて痊えずんば、鍼灸、以て十全す可し。近來圖
鑑亦た變じ、古今の諸賢を撰次す。骨度篇に據りて正す。
正穴を得るを以て編に名づく。滑氏が發揮の圖選、體を屈伸し、
面を俛仰す。手を垂れ足を廣げ肩を斜めにす。其の寫誤、看るに堪えず。
生業の寸間を得る毎に積日精思して翰(ふで)を染む。佳譽をして
愚按を寫さしめ、其の人を得て傳えんと欲す。文化壬申大寒、
岡田靜黙自ら撰す。

  【注釋】
○骨度者靈七卷六臣伯高所撰:二十四卷本『靈樞』卷七、骨度第十四:「黄帝問于伯高曰……」。六臣は、岐伯、雷公、鬼臾區、伯高、少兪、少師をいうか。 ○唐孫思邈甄權除舊圖作新選:唐 孫思邈『備急千金要方』卷第二十九(鍼灸上)明堂三人圖第一:「舊明堂圖年代久遠、傳寫錯悞、不足指南、今一依甄權等新撰爲定云耳」。 ○今本長字為辯自同身寸為半作圖:詳しくは卷之上、「同身之寸解」を参照。 ○經合井滎腧原:五腧(五行)穴と原穴(陰経では、兪穴〔本書の記載では「腧穴」〕と一致する)。『霊枢』九針十二原(01)などを参照。 
  一ウラ  10
○近來:近ごろ。 ○淂:「得」の異体字。 ○滑氏發揮:元 滑壽『十四經發揮』。図は、東亜医学協会の電脳資料庫を参照。http://aeam.umin.ac.jp/acupoints/keiketuzuhan/keiketuzuhan.htm ○積日:連日。 ○精思:子細に考える。 ○染翰:筆写する。 ○佳譽:岡田静黙のむすめ。 ○文化壬申:一八一二年。 ○大寒:二十四節気のひとつ。旧暦一月二十日か二十一日。

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