2011年2月3日木曜日

25-5 引經次第

25-5引經次第
      東京大学附属図書館所蔵V/2137
      オリエント出版社『臨床鍼灸古典全書』25巻所収

 変体かなは、現行のものにかえて表記する。繰り返し記号は、文字にあらためた。読点をつけた。一部、判読に疑念あり。

  一オモテ  119頁
  題言
孔穴の説ハ、針灸の用たりといへとも、素
明素熟するにあらされハ、修事の
際、施用の宜を得へからす、余家高
祖策菴府君より以來、經絡發揮を
説き、偶人に點畫して、此學を講習
せらる、世〃の祖考ますます發明する
處あつて、予祖圖南府君、伯父南溟
府君にいたつて、其精正をつくせり、
  一ウラ  120頁
或ハ偶人をもつて其左右をワかち、左方
ハ專ら發揮の説をもつて點畫し、
右方ハ内經以下の書について發揮
にことにして、可取用者を点せり、大
なるものにハ、十四の大脉を畫し、小な
る者ハ、左右をワかち、右に骨度、左に
奇經八脉を畫せらる、或ハ至要抄
を講して、其是非詳畧を正し、活
人を裸にし、直下に量度按捫して
  二オモテ  121頁
其實を驗せしむ、余幼年罔極の哀に
あふて、面命の訓を承る事をへす、幸
に遺書によつて、家説の槩を知こと((る?))
を得たり、孔穴の學にいたつても、當時
弟子の私説をかり、内經・發揮の標注
によりて、遺意の粗をうかヽふ事を
得たり、寛政八年秋の頃、信州の何
某かもとめによつて、至要抄を講
習す、こヽにおひて偶人に点する
  二ウラ  122頁
の方より、活人に取の法にいたり、家傳
の定説を擇ミあつめて、此一小冊を
なし、一時浩言の徒に授く、初進の
士、この冊をもつて標注と至要抄と
に對照推究せは、孔穴の學、其大槩
を得て、將來の首塗となるへし、夫孔
穴の學ハ内經以上の業にして、◆◆
中の一事に属す、しかるに經に明文
なく、世に異説多けれハ、自求の力
  三オモテ  123頁
をもつて深く經旨をきはめ、皮肉
の分、筋骨の言、滎兪の道、尺寸
の度に明らかなるにあらされハ、
其精詳を致す事あらわす、
今日、此篇を授くるの輩、かならす
此一小冊にとヽまれりとする事
なかれ
 仲冬十五日  正封書
  三ウラ  124頁
此冊、草稿を用ひすして、一七日間に
写し終りぬ、されハ次第錯乱
文義模糊して、解了しかたきもの
おほかるへし、他日閑を得て、點
檢増損一過せハよからん


  【注釋】
  一オモテ
 ○策菴:浅井周伯。名は正純、号は策庵、通称は周伯・周璞。寛永二十年(一六四三)、京都に生まれ、味岡三伯に就いて医学を修めた。近松門左衛門の弟で医学著作家として広く知られた岡本一抱らとともに、その門下の四傑と呼ばれる。寳永二年(一七〇五)没、享年六十三歳、著書には『切紙之辨』、『腹舌之候』、『病機撮要註解』、『霊樞辨鈔』(いずれも写本)などがあり、また元末の葛可久の『十薬神書』を校訂していて、写字台文庫にも収められている。(龍谷大学・古典籍デジタルアーカイブ研究センター) ○偶人:銅人形のようなものか。 ○府君:子孫が先祖に対するときの敬称。 ○經絡發揮:滑壽『十四經絡發揮』。 ○祖考:先祖。 ○圖南:名は政直(まさなお)、字は惟寅(これとら)(維寅とも)、通称頼母(たのも)。/尾張藩医浅井家二代。幼名冬至郎、藤五郎、のちに周北、頼母、諱ははじめ政道、のちに惟寅。図南、幹亭、篤敬斎と号す。父は東軒(通称周廸、諱正仲)、母は三谷氏。浅井家は、近江国浅井郡の出身、京都医家の名門で、傷寒論を重視する古方派に属する漢方医家。父東軒は享保十年十二月、六代藩主継友の招聘に応じて、藩医として四百石の高禄をもって京都より名古屋に迎えられた。この時、図南もこれに従うことを父より命ぜられたが従わず、京都において医学徒の養成に尽くした。(ネット掃苔帳) ○南溟:尾張浅井第三代。名正路[まさみち]。/姓は和気、名は正路、字は由卿、幼名を藤太といひ、後周碩と称す。号は朴山、又南溟、圖南の長子にして、母は平松氏、享保十九年十一月十八日生る。正路、医を以て天朝に仕へ、正六位上・内舎人に至る、是より先、祖父東軒、父圖南、倶に尾張侯の医官となる。之を以て正路亦安永九年三月九日、官を辞して、尾張侯宗睦に仕へ、父の職禄を継ぎ、名を周碩と賜ふ。周碩、脉法に通じ、診脉の祖と称せらる。其尾張に来りしより、医薬大に行はれ、弟子日に進む。未だ幾ならずして、天明元年十月十三日を以て没す、享年四十八。著す所、詣家経験方、内證珍法、方訳脉論等十数巻あり。男正時京都に留りて天朝に仕ふ、因て姪正封を以て祀を奉ぜしむ。徳乗院朴山日冬居士。(ネット掃苔帳)
  一ウラ
○至要抄:岡本一抱(1654~1716)かその門派の著と推定される経脈・経穴学書。全2巻。元禄十二(1699)年刊。『十四経発揮(じゅうしけいはっき)』に準拠した針灸学の入門書。和文。同十六(1703)年刊の続編全3巻もある。(『日本漢方典籍辞典』)
  二オモテ
 ○罔極の哀:窮まりないかなしみ。父母を失ったかなしみ。 ○面命:面命耳提。ひとに対して懇切丁寧に教え戒めるたとえ。 ○標注:注釈。批注。例:『宋史』卷二○三・藝文志二:「三劉漢書標注六卷」。浅井家の著作に「標注」がつくものあり。例:浅井正贇『難経標注』、浅井正封『浅井家標注小刻傷寒論』。 ○遺意:前人の残した意見、意味。 ○寛政八年:一七九六年。
  二ウラ
 ○浩言:正大剛直の言。 ○推究:推論研究。 ○首塗:首途とおなじ。出発(点)。門出。 ○◆◆:この二字読めず。一字目は「平」か? 二字目はおそらく「習」であろう。
  三オモテ
 ○正封:浅井正封(あさいまさよし)(貞庵)[ていあん]。尾張浅井第四代。


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