28-1經穴再改鈔
京都大学医学図書館富士川文庫所蔵『經穴再改鈔』(ケ-20)
オリエント出版社『臨床鍼灸古典全書』巻28所収
一オモテ
經穴再改鈔序
粤自黄帝傳鍼石之道而後世流布處不及藥飼之
者不因鍼灸而爭救其危急矧人身不明經脉又烏
知榮衞之所統此内經靈樞之所由作經脉十二以
應經水孫絡三百六十有五以應周天之度氣血稱是
以應周期之日必明兪穴審闓闔因以虚實以補寫
此經脉本輸之旨尤當究心率取夫空穴經隧所統
繫視夫邪之所中爲隂爲陽而灸刺之驅去其所
一ウラ
苦經脉十二任督脉行腹背者二隧穴之周於身者六百
五十有七攷其陰陽之所以徃來椎其骨空之所以駐會
經穴作圖然後世鍼灸之道微經絡爲之不明經絡
不明則不知邪所在尚今工者經絡不講而其鍼灸之
不知通達所唯鍼之道盲人按摩取之業而逢疾則
按探施妄治灸法又次之而詐灸行之者人蔑而經穴
不知主治處手足腹背按應手處不拘灸穴大略而
竝點付壯數施猥家傳之妙灸或御夢想之灸抔云
二オモテ
惑人皆不知爲害鍼術麤之類一家之秘書穿求鍼灸
術何流皮流秘書計心自慢爲有貌庸工曾而不盡
經之旨經水經別經筋絡脉等之意不閲之穴處踈而
只酒宴遊藝遊所氣移撰貴賤華衣服或俳諧茶
人容異形好以辯舌人軟言鍼術妄療族多經絡明
妙手術施辛苦病處則立得驗不拘流義善惡目
前顯妙術則此不爲良醫哉 予師之鍼術專而施
治功則醫之神秘盡古之聖人契乎至靈循其故則
二ウラ
其道立欲先生之護教原流之鍼道繼者浚其源盡
師之道則其流長可愼絲是經穴即其人以取穴
法穴法流義之骨度作圖再改之
旹
寛保四龍集甲子歳立春吉日
〔印形白字「◆/霄」、黒字「◆」〕
【訓み下し】
原則として訓点にしたがう。
一オモテ
經穴再改鈔序
粤(ここ)に黄帝、鍼石の道を傳えたまいし自り、後世に流布する處、藥飼の及ばざる
者、鍼灸に因らずして、爭(いかで)か其の危急を救わん。矧んや人身にして經脉を明らめずんば、又た烏(なん)ぞ
榮衞の統(す)ぶる所を知らんや。此れ内經靈樞の由りて作る所、經脉十二、以て
經水に應じ、孫絡三百六十有五、以て周天の度に應ず。氣血、是れに稱(かな)いて
以て周期の日に應ず。必ず兪穴を明らめ闓闔を審らかにし、因りて虚實を以て、以て補寫す。
此れ經脉本輸の旨、尤も當に心を究むべし。率(おおむ)ね夫(か)の空穴經隧、統べ繫がる所を取り、
夫(か)の邪の中(あ)たる所、陰爲(た)る、陽爲るを視て、之を灸刺す。其の苦しむ所を驅り去る。
一ウラ
經脉十二任督脉、腹背を行く者二つ。隧穴の身を周(めぐ)る者、六百
五十有七。其の陰陽の往來する所以(ゆえん)を攷え、其の骨空の駐會する所以を椎(推)して、
經穴、圖を作す。然るに後世鍼灸の道微にして、經絡之が爲に明らかならず。經絡
明らかならざるときは、則ち邪の所在を知らず。尚今の工たる者、經絡不講にして、其の鍼灸の
通達する所を知らず。唯だ鍼の道は盲人按摩取りの業にして、疾に逢うときは、則ち
按じ探り、妄りに治を施す。灸法も又た之に次ぎて灸行の者と詐り、人を蔑(ないがし)ろにして、經穴、
主治する處を知らず。手足腹背を按じて、手に應ずる處を灸穴には拘(こだわ)らず、大略にして
竝びて點を付け、壯數猥(みだ)りに施す。家傳の妙灸、或いは御夢想の灸抔(など)と云い、
二オモテ
人を惑わし、皆な害爲(た)ることを知らず。鍼術麤の類(たぐい)、一家の秘書を穿ち求め鍼灸の
術、何流皮流と秘書計(ばか)り心自慢に爲有貌の庸工曾て經の旨を盡さず。
經水、經別、經筋、絡脉等の意、之を閲(けみ)せず、穴處踈(おろそ)かにして
只だ酒宴、遊藝、遊所に氣を移し、貴賤を撰(えら)み、衣服を華(かざ)り、或いは俳諧、茶
人の容(かた)ち異形を好み、辯舌を以て人を軟言し、鍼術妄りに療する族(やから)多し。經絡を明らめ、
妙手の術を辛く苦しむ病の處に施すときは、則ち立ちどころに驗を得る。流義の善惡に拘らず、目
前に妙術を顯(あらわ)すときは、則ち此れ良醫爲(た)らずや。予、師の鍼術專らにして
治功を施すときは、則ち醫の神秘盡く古の聖人、至靈に契(あ)う。其の故に循(したが)うときは、則ち
二ウラ
其の道立つ。先生の教えを護り、原流の鍼道を繼がんと欲する者は、其の源を浚し、
師の道を盡すときは、則ち其の流れに長ず。愼む可し。是に絲(よ)りて經穴即ち其の人を以て穴を取るの法、穴法、流義の骨度、圖を作し、之を再改す。
旹は
寛保四、龍集は甲子の歳、立春吉日
【注釋】
○稱:相応する。 ○闓闔:開閉。 ○隂:「陰」の異体字。
一ウラ
○攷:「考」の異体字。 ○徃:「往」の異体字。 ○椎:「推」の誤字であろう。 ○微:衰微。おとろえる。 ○御夢想之灸:御夢想灸(すりばちやいと)。福井県鯖江市長泉寺町 中道院・元三大師堂。御夢想灸は、護摩炉(ごまがま)を頭にかぶらせて灸をすえる加持祈祷で、護摩炉の形がすりばちに似ていることから「すりばちやいと」と呼ばれ、多くの参詣者を集めている。昔、この地に悪病が流行したときに、元三慈恵大師によって行われたのがはじまりと伝えられる。 ○抔:「など」。日本語の用法。
二オモテ
○麤:「粗」の異体字。 ○皮流:未詳。「かわの流れ」とかけている? ○爲有貌:おそらく「したりがお」と訓むのであろう。 ○曾:かつて。打ち消しをともない、「今までに一度も・全くない」。 ○經水經別經筋絡脉:『霊枢』等を参照。 ○踈:「疎」の異体字。 ○軟言:穏やかな物言いをする。
二ウラ
○道立:『禮記』中庸「修身則道立」。 ○原流:源流。 ○浚:浚渫。川底を深く掘って流れをよくする。 ○絲:原文は「糸偏に系」。「繇」と解しておく。 ○旹:「時」の異体字。 ○寛保四:一七四四年。 ○龍集:歳次。「龍」は歳星(木星)。「集」はやどり。 ○立春:二月四日か五日。なお二月二十一日から延享元年。
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