2016年10月17日月曜日

卓廉士『営衛学説与針灸臨床』 第八章 営衛学説の角度から見る その4 おわり

『黄帝内経』の記載によれば、衛気は「熏膚……沢毛」〔【現代語訳】皮膚に染み込み、……毛髪を潤し〕(『霊枢』決気(30))して、霧露のように体表にくまなくひろがり、経腧は「衛気之所留止」〔【現代語訳】衛気が行って留まる場所〕(『素問』五蔵生成)である。このため、皮膚表面の浅層と腧穴の中の深層は、どちらも「得気」を誘発することができる。数十年におよぶ経絡研究に関する資料を検索してわかったことは、多数の実験が示している「循経感伝」の特徴はみな衛気の特性と非常に一致するということである。ここにひとつ注目すべき現象がある。以下、李鼎主編『経絡学』(上海科学技術出版社、1999年、136頁)第七章「経絡之現代研究」にある、「循経感伝現象のおもな特徴」を項目ごとにとりだし、ダッシュのうしろに衛気の特徴で説明をくわえる。

(1)「循経感伝の路線。一般的にいえば、四肢では感伝線は古代の経絡線とほぼ一致する。胸腹部ではあまり一致しない。頭部では大部分一致しない」。――衛気は脈外をめぐり、四肢を本となし、胸腹頭面を標となす。気は本に集まり、経に分かれることははっきりしていて、標へは分散していき、融合にむかう。分散していく気は遠くなればなるほど経にわかれてますます曖昧模糊となる。実験の証明:古代人の衛気標本に関する理論には自身の物的基礎があった。

(2)「循経感伝の感覚性質。鍼刺では一般に酸・麻・脹・ひきつり・冷熱などの感伝が生じる」。――衛気は慓悍滑利であり、「一旦鍼灸の刺戟をうけると、迅速に体表にむかい、腧穴あるいは病所へ向かって動き集まる」(卓廉士「鍼刺『審察衛気』論」、中国針灸、2010年、30巻第9期)。酸・脹・気のめぐり・冷熱などの感覚はみな衛気の特性のあらわれである。

(3)「循経感伝の方向。双方向の伝導を呈する。身体(四肢末端をのぞく)上のいかなる穴に刺戟をあたえても、一般にその穴から二つの相反する方向に感伝が発生する」。――衛気は脈外にあり、また「浮気之不循経者」〔【現代語訳】浮いて外にある気は経脈の中を巡らず〕(『霊枢』衛気(52))なので、鍼刺の伝導方向は、経脈の気の流れる方向と一致してもしなくともよい。

(4)「循経感伝の幅。太いものもあり、細いものもある。四肢では細いものがおおく、約0.2~2.0cmの間である。多くの反応は琴弦状か電線状である。体幹に入ったあとは、10cm以上の幅に達することがある」。衛気の本は四肢にあり、経脈線路に沿って縦方向に分布し、「胸腹に散ずる」。胸腹部ではかなり分散するので、感伝は四肢では狭く、胸腹部では広い。

(5)「循経感伝の速度。感伝は速度は一定ではなく、停滞点があり、止まってはまた動く。このような停滞点の多くは穴があるところである」。――経気はリズムが一様で、気がめぐる速度は同じであり、「環周不休」であって、停滞しない。衛気には動静があり、動くときは、日中に陽を二十五度行き、夜間に陰を二十五度行く。静かなときは、腧穴の中にとどまったり、本部の中に集まっている。これは「感伝」が経気に由来するのではなく、衛気に由来することをうまく説明している。

(6)「循経感伝の逆流性。おおくの情況下では、刺戟が停止したあと、感伝はすぐには消えず、鍼刺穴の方向へ逆流し、その穴に達したのちに消失する」。――このような「鍼已出気独行」〔【現代語訳】ある人は鍼を抜いた後に反応が現れる〕(『霊枢』行針(67))という後遺感覚も衛気の反映とすべきである。衛気は鍼刺の刺戟をうけて、鍼を抜いたあともまだ刺戟をうけた状態にある。

(7)「循経感伝の病所へ向かう性質。病理状態では、感伝が四肢にあらわれたのち、体幹に入り、病所にむかう性質がある。すなわちいわゆる『気は病所に至る』である。たとえば心臓病の患者では、異なる経脈に感伝があらわれたのち、みな心臓に向かって集中する現象がある」。――「刺之要、気至而有効」〔【現代語訳】これは刺鍼の重要なポイントです。鍼をした時は、気を得て初めて効果が現れるのです〕(『霊枢』九針十二原(01))、「気至る」とは、衛気が「得気」したのちの病所に向かうはたらきであり、その気は誘導されて病所に達することができる。

このほか、近年かなり多くの「循経感伝阻滞実験」が広範囲におこなわれ、「機械による圧迫・局部冷凍による温度低下・生理食塩水やノボカインの局部注射により、いずれも感伝が阻滞させることができる」ことが発見された。――経気は動脈の搏動として表現され、左右相応じ、九候に変化はなく、その循環流注は圧迫・冷凍などの要素では妨害あるいは停止できない。衛気は「浮気」であり、脈外をめぐり、体表にゆきわたるので、上述の要素で阻滞を受ける。

衛気は鍼刺により「得気」して、古代人に認識された系統であり、防御・抗邪・止痛・病所組織の修復・病因の除去など、多くの機能が一体となって集められたものであり、「抜刺〔とげを抜く〕」「雪汚〔汚れをすすぐ〕」「解結〔むすぼれを解く〕」「決閉〔閉塞を通じさせる〕」(『霊枢』九針十二原(01))の方式をとおして疾病を治療する。しかし衛気は「慓悍滑利」であり、経脈との関係はつかず離れずであり、体表に散らばっていたり、腧穴に集まったり、四肢の本に集まったり、胸腹頭面、五官の竅の標に散在したり、脈と並行することもできるが、つねに経脈の道にしたがいもしない。これからわかるように、「循経感伝実験」の結果は、衛気の作用と特性をまぎれもなく説明していて、鍼刺感伝が衛気に由来し、経気に由来するのではないことを実証している。

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