2016年10月26日水曜日

卓廉士先生の『素問』標本病伝論(65)講義 その3

この方法がもっとも成功しているのは、先病後病を骨子としているところにある。「標本相移」とは、すなわち衛気の標本間での集散変化は、時間によっておこることである。「一を執る」は、「先病後病」という時間と関連する鍵となる情報をつかまえることである。これによって詳しく衛気の所在を観察し、「知其往来.要与之期」〔【現代語訳】気の往来の時期を理解してはじめて刺鍼の正確な時間を理解できるのです〕(『霊枢』九針十二原(01))、その環中を執って無窮に応じるのである。
〔『荘子』斉物論:「彼是莫得其偶,謂之道枢,枢始得其環中,以応無窮」。郭象 注:「夫是非反覆, 相尋無窮,故謂之環。環中,空矣;今以是非為環而得其中者,無是無非也。無是無非,故能応夫是非。是非無窮,故応亦無窮」。 環中は、なにもないリングの中心で、是非のない境地、超脱の境地〕

『素問』標本病伝論(65):「先病而後逆者.治其本.先逆而後病者.治其本.先寒而後生病者.治其本.先病而後生寒者.治其本.先熱而後生病者.治其本.先熱而後生中満者.治其標.先病而後泄者.治其本.先泄而後生他病者.治其本.必且調之.乃治其他病.先病而後生中満者.治其標.先中満而後煩心者.治其本.人有客気.有同気.小大不利.治其標.小大利.治其本.病発而有餘.本而標之.先治其本.後治其標.病発而不足.標而本之.先治其標.後治其本.謹察間甚.以意調之.間者并行.甚者独行.先小大不利而後生病者.治其本」〔【現代語訳】ある病を先に患っており、その後に気血が逆乱して不和となっているものに対しては、その本病を治療します。気血が逆乱して不和となったためにその後に病を患ったものに対しては、先ずその本を治療します。先に寒邪によって病を患い、その後に他の病変が起こった場合には、まずその本を治療しますし、先に病を患っておりその後に寒を生じた場合には、まずその本病を治療します。先に熱病を患っており、その後にその他の病変が生じた場合には、まず先にもとからある病を治療します。先に熱病を患い、その後に中満が生じた場合には、その中満という標病を先ず治療します。先にある病を患い、その後に下痢を生じた場合には、まずその本病を治療します。先に下痢を患い、その後にその他の病を生じた場合には、まず先の下痢を治療し、必ず下痢を治してからその他の病症の治療を行わなければなりません。先に病を患い、その後に中満を生じた場合には、まず中満という標病を治療しますが、先に中満症を患い、その後に煩心が起こった場合には先ずその本病を治療します。新邪を受けて病になる場合と、体内にもともとあった邪気によって病を生ずる場合とがあります。前者は客気といい、標に属するものであり、後者は固気といい、本に属するものです。また大小便が不通の場合には、まずその標病を治療します。大小便が通利している場合には、まずその本病を治療します。病が生じて有余である実証となっている場合には、これは邪気が盛んであるために生じたものですから、邪気が本となり、その他の病症が標となります。この場合にはまずその本を治療し、その後にその標を治療します。病が生じて不足である虚証となっている場合には、正気の虚弱が標であり、先病の邪気が本となります。この場合にはまずその標を治療し、その後にその本を治療します〕。

古代人が先病後病を標本刺法を掌握するための要点とあえてした背後には、大量の臨床例の支えがあったのにちがいない。これらの例の多くは『黄帝内経』にさがすことができるし、その中で衛気があらわす変化を見つけることができるとかんがえる。以下、上述した標本刺法を一つずつ取り出し、あわせてダッシュを用いて、『黄帝内経』が掲載する事例に説明をくわえる。

「先病而後逆者.治其本」――『霊枢』九針十二原(01):「五蔵之気.已絶於外.而用鍼者.反実其内.是謂逆厥.逆厥則必死.其死也躁.治之者.反取四末」〔【現代語訳】五蔵の病変により、正気が外に虚してしまったものを陽虚証といいますが、鍼を用いて内側にある陰経を補ってしまうと、陰はますます盛んになって陽気は内に衰え、四肢の冷えと萎えを引き起こします。これを逆厥と呼びます。逆厥もまた必ず死亡しますが、死ぬときは騒いで安定しないものです。これは医家が誤って四肢の末端の経穴を取って、陽気を尽きさせてしまったためにもたらされたものなのです/【現代語訳】は「反取四末」という誤治の結果と解する。以下、筆者卓廉士は、「反取四末」を誤治への対処法と解する〕。疾病の先後についていえば、先に臓腑の病があり、後に誤治によって内に気を実にさせると、手足が温かくならない「逆厥」証が発生する。重篤な場合は、虚陽が上にうかび、手足躁擾〔手足をばたつかせる〕の状態にさえなる。このようなときは、抜本的に治療方針をあらためて、「反して四末」にある本部の腧穴を「取って」鍼治する。四末〔四肢末端〕は陽気の本であり、衛気があつまるところであるので、陽気を恢復して逆厥を治療することができる。

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