2016年10月13日木曜日

卓廉士『営衛学説与針灸臨床』 第八章 営衛学説の角度から見る その1

卓廉士先生は、術数と衛気などに焦点をあてて『黄帝内経』を研究している学者ですが、今回は、その衛気へのこだわりを紹介したいとおもいます。

第一節 「循経感伝実験」についての再考

二十世紀五十年代、長浜善夫と丸山昌朗の二人は、鍼を刺すとかならず酸〔だるい〕・麻・脹・痛などの反応があらわれ、これらの反応がつねに一定の方向に放散する感覚を観察し、「放散方向が屡々古医書に所謂経絡の走向と殆ど一致すること」〔『經絡の研究』杏林書院35頁〕を発見した。これにつづいて国内の学者も陸続として系統的に感伝現象の観察と研究をおこない、おなじように人体に鍼灸を施術したときに、つねに古代人が「得気」と称した感覚、すなわち鍼下に生じる酸・脹・沈重、あるいは「経脈路線に沿って伝導」(李鼎『経絡学』)して気がめぐる感覚が出現することを発見した。これ以降、「循経感伝現象」は経絡研究の重要な内容となり、数十年来、国家はおおくの人力と財力を投入した。これが経絡の物的基礎を獲得し、経絡の実質を発見する有効な手段だと考えたからである。そのためこの現象をめぐって展開された実験は多数にのぼり枚挙にいとまがないし、これによってたくさんの経絡の実質についての見解と仮説が生まれた。

「循経感伝」の実験研究では、学者たちはつぎのようにみなかたく信じていたようである。鍼刺が生み出す「一定方向に放散する感覚」は「経脈の路線に沿う」と。この現象は非常に直接的に観察できて、さながら証明しなくともわかりきったものなので、「感伝」があらわしているのは経脈のはたらきであり、経気の反応であると考えた。こうして感伝をとおして経絡を発見することが普遍的な方法となった。

「循経感伝」が経気から来ることは、経絡実験に基礎をあたえたし、各種の仮説や想定のよりどころでもある。しかしながら、「循経感伝」は本当に中医の経絡現象をあらわしているのかどうか、いったいどれほど経絡のはたらきをあらわすことができるのか、感伝と古医書に書いてある経絡との間にはどのような関係があるのか。これらの一連の問題は、数十年来納得させるような論証をしめしていない。十分な証拠もなく古医書に書いてある経絡は鍼刺感伝の線路であると説明するのなら、「循経感伝実験」の結果は、きわめて大きな疑いをまねくであろう。

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