2016年10月11日火曜日

李建民「作為方法的中醫出土文物」から その1

扁鵲學派の特徴は、黃龍祥先生の説によれば、いわゆる「独」診の脈法である。第一に、単一の部位およびその他の脈を診るところを診察して比較する。第二に、脈象は単一(たとえば大・小)で、基本の複合した脈象であることが強調される。第三に、脈形と同時に人体部位である皮膚の寒熱の変化を診察する。黃氏は扁鵲の脈法を標本診法と名づけた。つまり人体の上下に相関する部位および浮絡・皮膚・脈動を診察する診法でもある。この特徴によれば、今本《黃帝內經》には黃氏が扁鵲学派としたテキストには、たとえばつぎのようなものがある。《素問》の〈大奇論〉、〈刺瘧〉、〈金匱真言論〉、〈五藏生成篇〉、〈移精變氣論篇〉、〈湯液醪醴論〉、〈脈要精微論〉、〈玉機真臟論〉、〈三部九候論〉、〈厥論〉、〈陰陽別論〉、〈五臟別論〉、〈經脈別論〉、〈玉版論要〉。《素問》の〈著至教論〉、〈示從容論〉、〈疏五過論〉、〈徵四失論〉、〈陰陽類論〉、〈方盛衰論〉、〈解精微論〉も含まれる。《靈樞》の〈五色〉、〈脹論〉、〈五十營〉、〈根結〉、〈癲狂〉、〈寒熱病〉、〈論疾診尺〉等も含まれる。《靈樞》を代表する名だたる篇の〈經脈〉、〈禁服〉、〈玉版〉などでさえも扁鵲学派の一部の断片をとどめている。これらの三十篇あまりの黃帝《內經》の内容が、扁鵲医学の一種の複写といえる。黃龍祥の考証は扁鵲学派を活性化させた。しかし、黃龍祥も「一つの脈法からいろいろな要素を抽出できるし、容易に古い方法から新しい方法を類推することができる」という。なにが扁鵲の古法であり、なにがその変化したものなのか?テキストは重複していて、要素も似ていれば、それらはすべて扁鵲学派なのか?失われた歴史の世界について、われわれは往々にして史料を補う(filling in)心理がある。歴史の空白は注意深く補うべきである。どのような歴史的事柄は無理に補うことができないのか?范行準(1906-1998)は扁鵲の技術は呪禁であって、脈診ではないと考えた。「おもうに、扁鵲が長桑君が授かったのは、禁方と上薬であり、いわゆる禁方とは禁呪の術である」【《范行準醫學論文集》】。前漢の各種の脈診は扁鵲の名に仮託したものである。莫枚士(1837-1907)は、「扁鵲脈法,具載《脈經》,果以診脈為名,豈其言皆虛節耶?」【《研經言》】という。つまり、扁鵲は診脈で名をなしたのではないという。《脈經》の扁鵲脈法も単なる虚文にすぎないのか?《素問.徵四失論》には、当時の医学の風潮を批判して、「受師不卒,妄作雜術,謬言為道,更名自功」(龍伯堅の翻訳:「師匠についてもその修行をおえずに、自分でいいかげんに治療方法をでっち上げ、それを正しい医道として病人をあざむき、功績を立てようとする」【《黃帝內經集解素問》】)という。上述した扁鵲のテキストにはこのような自ら功とする情況はないのか?

《內經》から大量の扁鵲学派の佚文を集めて出したとしても、論者【周海平、申洪硯,《黃帝內經書名與成書年代考証》】が指摘しているように、「『扁鵲』という称号は具体的な医学の学派を指すべきものではない。《左傳》および《史記.扁鵲倉公列傳》の記載にもとづけば、二つの医学学派にはたしかに指し示す内容がある。一つは秦国の医学学派であり、もう一つは後漢時の公乗陽慶と淳于意の医学学派である」。 この二つの東土と西土の医学流派【李零,《蘭台萬卷:讀漢書.藝文志》】は、みな「黃帝と扁鵲の脈書を伝えている」。早期の医学文献の篇巻は確定してなかったり、重複があったりする。淳于意は、みずからその師である公孫光から「方の《化陰陽》及び傳語の法を受く」と述べている。その内容は「陰陽」脈法と口説の書におよぶ。

黃氏の考証方法は、主に異なる医書あるいは文献にある似た文句(phrase)を対比させることである。例を挙げれば、《鹽鐵論.大論》に「聖人從事于未然,故亂原無由生」とあり、《靈樞.玉版》に類似の文、「聖人自治于未有形也;愚者遭其已成也」がある。両者はいずれも「聖人」に言及している。前者は扁鵲の言葉を引いている〔この前文に「扁鵲攻於腠理、絶邪氣、故癰疽不得成形」とある〕。このためこのような医書の似たような文句の由来は扁鵲の遺文から来た可能性がある。聖人とは一人の名医を特に指すのではない。朱維錚(1936-2012。〈歷史觀念史:國病與身病───司馬遷與扁鵲傳奇〉,收入《朱維錚史學史論集》)の考えでは、司馬遷が扁鵲を書いたのは、医術にすぐれていて不幸に遭遇したからであり、その中に引かれている聖人は「在位中の漢の武帝を指す」。《史記》にある文は上述した二つの文に似ている。〔『史記』扁鵲傳:「使聖人預知微、能使良醫得蚤從事、則疾可已、身可活也」。〕このような例は実に多く、似ている文句は時に価値がない(null)。

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