24-3名家灸選三編
京都大学医学図書館富士川文庫所蔵『名家灸選三編』(メ・5)
オリエント出版社『臨床鍼灸古典全書』24所収
(序一)
一オモテ
名家灸選三編叙
夫淘砂淂者再三不
淘則碎金遺漏而流
矣入山求材者再三
一ウラ
不入則不能得良材也
曩日予輯名家之灸
法僅一小冊子雖探得
諸家之秘笈俗傳之奇
二オモテ
輸恃九牛の一毛耳丹
州平子謹善此舉博
蒐懇索而遂作續編
得濟其美焉尓來得
二ウラ
良掇奇者甚多遂亦
作三編固由子謹平
素勤而不已之誠意
所致也是猶淘砂入
三オモテ
山者得金與材乎予
深感其勤而不已之
誠意因又爲序
文化十年秋七月
三ウラ
長門守和氣惟亨誌
〔印形白字「維」「亨」?〕
【訓み下し】
一オモテ
名家灸選三編叙
夫れ砂を淘(よな)ぎて得る者は、再三
淘がざれば、則ち碎金遺漏して流る。
山に入りて材を求むる者は、再三
一ウラ
入らざれば、則ち良材を得ること能わざるなり。
曩日、予は名家の灸
法、僅かに一小冊子を輯(あつ)む。探りて
諸家の秘笈、俗傳の奇
二オモテ
輸を得ると雖も、九牛の一毛を恃(たの)むのみ。丹
州の平子謹は此の舉を善くす。博く
蒐(あつ)め懇(ねんご)ろに索(もと)め、而して遂に續編を作り、
其の美を濟(な)すを得たり。爾來、
二ウラ
良を得て、奇を掇(ひろ)う者(こと)甚だ多し。遂に亦た
三編を作る。固(もと)より子謹が平
素勤めて已まざるの誠意の
致す所に由るなり。是れ猶お砂を淘(よな)ぎ
三オモテ
山に入る者は、金と材とを得るがごときか。予は
深く其の勤めて已まざるの
誠意に感じて、因りて又た序を爲す。
文化十年、秋七月
三ウラ
長門の守、和氣惟亨誌(しる)す
【注釋】
一オモテ
○淘砂:水で洗って砂金を選り分ける。 ○碎金:砂金。
一ウラ
○曩日:さきごろ。 ○笈:書箱。
二オモテ
○九牛之一毛:多くの牛の一本の毛。多くの中の極少部分のたとえ。 ○丹州:丹波。京都北部。 ○平子謹:平井庸信(ひらいつねのぶ)。字は子謹。『續名家灸選』の撰者。 ○懇:真心あるさま。 ○濟其美:『春秋左氏傳』文公十八年:「世濟其美、不隕其名」。先人のすぐれた事業を継承して、発展させる。 ○爾來:そのときから。
二ウラ
○掇:ひろう。えらびとる。
三オモテ
○文化十年:一八一二年。
三ウラ
○長門守和氣惟亨:わけこれゆき。尾張藩医浅井南溟(あざいなんめい)の門人となり、没後その養子となる。浅井南皐(あざいなんこう)。越後守。〔『日本漢方典籍辞典』〕/『養生録』(文化九年自序)にも「長門守」とある。
序二、判読に自信なき文字、多数。こころみに一案をしめす。
【訓み下し】【注釋】は保留する。著者名は記されていないが、『續名家灸選』に序をつけている馬杉主一であろう。
(序二)
四オモテ
名家灸選三編在何初編
所遺二編所隱助其不据且
見之也編之者誰貫身枝
四ウラ
於醫而嘗學於京巍〃然
一◆手也斯校焉斯跋
焉在誰其惠生也凡無之
灸病者受讀舊則此編之
五オモテ
益其大矣哉而弁言以塞
其請在誰前不川釣者
而今千歳山樵也其秊
月時在何文化十秊癸
五ウラ
酉中秋也
(印形黒字「馬」、白字「主一」)
跋
一オモテ
跋
夫藕皮散血起自庖人牽牛
逐水近出野老如阿是灸法
奇輸妙穴亦是草野所試而
或已見於書篇或尚秘諸家
一ウラ
先生博蒐普求纉南皐先生
之緒有灸法之選復書肆頻
懇三編之選而先生不果予
甞見出奇得妙有不載初續
二編者因請曰先生何不公
二オモテ
之乎將吝之乎曰豈敢吝之
乎毉方之傳也甞之己而後
施於人施於人有驗而後爲
以可傳矣頃採精良者有三
編之選嗚呼灸選之續出也
二ウラ
奇輸試驗散見方書者則省
搜閲禁秘諸家者得博施予
不堪欣然爲之跋云文化歳次
癸酉夏五月
門人 丹州松本光美拜
〔印形黒字「子/濟」、白字「光/美」〕
【訓み下し】
跋
夫れ藕(はす)の皮の血を散ずるは、庖人自り起こる。牽牛の
水を逐するは、近ごろ野老に出づ。阿是灸法の
奇輸妙穴の如きも、亦た是れ草野の試す所にして
或いは已に書篇に見え、或いは尚お諸家に秘(かく)さる。
一ウラ
先生博く蒐(あつ)め普(あまね)く求め、南皐先生
の緒を纘(つ)ぎて灸法の選有り。復た書肆頻りに
三編の選を懇(もと)む。而(しか)るに先生果(はた)さず。予、
甞(かつ)て奇を出だし妙を得て、初續の
二編に載せざる者有るを見る。因りて請いて曰く、先生何ぞ之を公(おおやけ)にせざるや、
二オモテ
將(は)た之を吝(おし)むや、と。曰く、豈に敢えて之を吝まんや。
醫方の傳あるや、之を己に甞(こころ)み、而(しか)る後に
人に施す。人に施して驗有らば、而(しか)る後に
以て傳う可きと爲す、と。頃おい精良なる者を採りて、三
編の選有り。嗚呼、灸選の續出(い)づるなり。
二ウラ
奇輸試驗の方書に散見する者は、則ち
省く。搜して禁秘を諸家に閲する者、得れば博く施す。予
欣然として之が跋を爲すに堪えずと云う。文化歳次は
癸酉、夏五月
門人 丹州松本光美拜す
【注釋】
○藕皮散血:『証類本草』藕實「陶隱居云、……宋帝時、太官作血䘓[原注:音勘]、庖人削藕皮誤落血中、遂皆散不凝、醫乃用藕療血多効也」〔䘓=血+臽〕。散血を主る。 ○庖人:料理人。 ○牽牛:けんごし。『証類本草』「牽牛子、……療脚滿水腫。……陶隱居云、……此藥始出田野人」。 ○野老:田野に住む老人。また「田夫野老」の略。農夫。 ○阿是:『千金要方』巻二十九鍼灸・灸例第六:「呉蜀多行灸法、有阿是之法、言人有病痛、即令捏其上、若裏當其處、不問孔穴、即得便快成痛處即云阿是、灸刺皆驗、故曰阿是穴也」。 ○奇輸妙穴:効果の著しい穴。 ○草野:民間。田野。
一ウラ
○先生:平井庸信。 ○纘:うけつぐ。 ○南皐先生:浅井南皐(1760~1826)。和氣惟亨。『名家灸選』の撰者。平井庸信の師。 ○灸法之選:『續名家灸選』。 ○書肆:書籍出版兼販売業者。
二オモテ
○頃:ちかごろ。
二ウラ
○搜閲:搜索して査閲する。 ○欣然:よろこぶさま。 ○文化歳次癸酉:文化十(一八一三)年。 ○丹州:丹波。現在の京都府中部と兵庫県北東部の一部、および大阪府の一部にあたる地域。 ○松本光美:
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