2024年2月7日水曜日

鍼灸溯洄集 13 (9)行針總論 

    五ウラ(638頁)

(9)行針緫論    

行針之士要辨浮沉脉明虗實針別淺深經脉絡

脉之別巨刺繆刺之分經絡閉塞須用砭針踈導

  六オモテ(639頁)

藏府寒温必明淺深補瀉經氣之正自有常數漏

水百刻五十度周經絡流注各應其時先脉訣病

次穴蠲痾左手搯穴右手置針刺榮無傷衛刺衛

無傷榮氣悍則針小而入淺氣濇則針大入深氣

滑出疾氣澁出遲深則欲留淺則欲疾候其氣至

必辨於針徐而疾者實實而遲者虗虗則實之滿

則泄之欝久則除之邪勝則虗之刺虗者須其實

刺實者須其虗經氣已至謹守其法勿失根結論

曰刺布衣者深以欲留刺大人者淺以徐之此皆

  六ウラ(640頁)

因氣慓悍滑利也


  【訓み下し】

   行針總論

行針の士,要は浮沉の脉を辨(わきま)え,虛實の針を明らめ,淺深を別かつ。經脉・絡脉の別,巨刺・繆刺の分,經絡閉塞には,砭針を用い,藏府寒温(うん)を疏導す須(べ)し。必ず淺深補瀉を明らめ,經氣の正,自(おのずか)ら常の數有り。漏水百刻,五十度周,經絡流注,各々其の時に應ず。脈を先にし病を訣し,穴を次にし,痾を蠲(のぞ)き,左の手にて穴を搯(と)り,右の手にて針を置き,榮を刺し衛を傷ること無し。衛を刺して榮を傷ること無し。氣悍なる則(とき)は針小(いち)そうして入れること淺し。氣濇(しぶ)る則は針大にして入れること深し。氣滑らかなれば,出だすこと疾(と)し。氣澁れば出だすこと遲し。深き則は留めんと欲し,淺き則は疾(と)からんと欲す。其の氣の至るを候い,必ず針を辨(わきま)え,徐(しず)かにして疾(と)き者は實,實にして遲き者は虛。虛なる則は之を實し,滿つる則は之を泄らす。鬱久なる則(とき)は之を除く。邪勝つ則は之を虛にし,虛を刺す者は,其の實を須(ま)つ。實を刺す者は,其の虛を須つ。經氣已に至り,謹しみて其の法を守って失うこと勿かれ。根結論に曰わく,「布(ほ)衣(い)を刺す者は,深く以て留めんと欲し,大人を刺す者は,淺くして以て之を徐(しず)かにし,此れ皆な氣の慓悍滑利に因る」。


  【注釋】

 ○常數:『素問』血氣形志:「夫人之常數,太陽常多血少氣,少陽常少血多氣,陽明常多氣多血,少陰常少血多氣,厥陰常多血少氣,太陰常多氣少血,此天之常數」。『靈樞』五音五味:「夫人之常數,太陽常多血少氣,少陽常多氣少血,陽明常多血多氣,厥陰常多氣少血,少陰常多血少氣,太陰常多血少氣,此天之常數也」。逆順肥瘦:「黃帝曰:刺常人奈何?歧伯曰:視其白黑,各為調之,其端正敦厚者,其血氣和調,刺此者,無失常數也」。 ○漏水百刻:『難經』一難:人一日一夜,凡一萬三千五百息,脈行五十度,周於身。漏水下百刻,榮衛行陽二十五度,行陰亦二十五度,為一周也,故五十度復會於手太陰。 ○流注:指人身氣血,流動不息,灌注五臟六腑,四肢百骸。流注指人身氣血流動不息,向各處灌注的意思。流:流動;注:注入。如《黃帝內經素問·五常政大論篇》云:「……其政謐,其令流注,其動漂泄沃湧,……」。 ○左手:竇漢卿『鍼經指南』真言補瀉手法:左手搯穴,右手置針於穴上……。 ○搯:探取。同「掏」。 ○刺榮無傷衛刺衛無傷榮:『難經』七十一難:經言刺榮無傷衛,刺衛無傷榮,何謂也?然:鍼陽者,臥鍼而刺之;刺陰者,先以左手攝按所鍼榮俞之處,氣散乃內針。是謂刺榮無傷衛,刺衛無傷榮也。 ○氣悍則:『靈樞』根結(05):氣滑即出疾,其氣澀則出遲,氣悍則鍼小而入淺,氣澀則鍼大而入深,深則欲留,淺則欲疾。以此觀之,刺布衣者,深以留之,刺大人者,微以徐之,此皆因氣慓悍滑利也。 ○徐而疾者實:『靈樞』九鍼十二原:凡用鍼者,虛則實之,滿則泄之,宛陳則除之,邪勝則虛之。大要曰:徐而疾則實,疾而徐則虛。/これに対する解釈については,『素問』針解(54),『霊枢』小針解(03)に見える。 ○欝:「鬱」の異体字。『霊枢』は「鬱久」を「宛陳」に作る。 ○刺虗者須其實:『素問』寶命全形論(25):刺虛者須其實,刺實者須其虛,經氣已至,慎守勿失。 ○根結論曰:上の引用を参照。 ○布衣:布制的衣服。借指平民。古代平民不能衣錦繡,故稱。


  六ウラ(行針總論つづき)(640頁)

       愚按貧賤者氣血濇故深而留

待氣來冨貴氣血滑利故淺而疾之夫人有天人

地三才上焦中焦下焦是也亦刺在三才下針刺

入皮肉撒手停針十息號曰天才少時再進針刺

入肉內停針十息號曰人才少時再進針至筋骨

之間停針十息號曰地才此爲極處天輕淺地重

深天鍼深則殺人最有口授手法妄難施可慎今

吾試者象毫長一寸六分大如𨤲且貟且銳以金

作之故曰毫針最㣲而七星可應衆穴主持本形

  七オモテ (641頁)

金也有蠲邪扶正之道短長水也有决疑開滯之

機定刺象木或邪或正口藏比火進陽補羸循機

捫而可塞以象土實應五行而可知然是一寸六

分包含妙理雖細擬於毫髪同貫多歧可平五藏

之寒熱能調六腑之虗實拘攣閉塞遺八邪而去

矣今亦長一寸六分爲三稜名砭鍼除痼疾刺取

血也 ○


  【訓み下し】

  六ウラ(行針總論つづき)

愚按ずるに,貧賤には氣血濇(しぶ)る。故(かるがゆえ)に深(ふこ)うして留(とど)む。氣の來たるを待つ。富貴には氣血滑利になる故に,淺(あそ)うして之を疾(と)くす。夫(そ)れ人に天人地の三才有り。上焦・中焦・下焦,是れなり。亦た刺にも三才在り。針を下して刺して,皮肉に入れ,手を撒(ひろ)げて針を停むること十息,號(な)づけて天才と曰う。少時(しばらく)して再び針を進め,刺して肉內に入れ,針を停むること十息,號づけて人才と曰う。少時(しばらく)して再び針を進め,筋骨の間に至って,針を停むること十息,號づけて地才と曰う。此れを極處と爲す。天は輕(かろ)く淺し。地は重く深し。天に鍼深き則(とき)は人を殺すなり。最も口授(くじゅ)有り。手法妄りに施し難し。慎しむ可し。今ま吾が試むる者は,毫に象(かたど)り,長さ一寸六分,大きさ𨤲の如し。且つ員(まる)く且つ銳(するど)に,金を以て之を作る。故(かるがゆえ)に曰わく,毫針は最も微にして七星 應ず可し。衆穴の主持,本形は金(かね)なり。邪を蠲(のぞ)き正(しょう)を扶くるの道 有り。短長は水(みず)なり。決疑〔=凝〕開滯の機有り。定刺するは木(き)に象る。或いは邪,或いは正(しょう),口に藏(ふく)むは火(ひ)に比す。陽を進め羸を補う。循機 捫して塞ぐ可し。以て土に象る。實に五行に應ずること,知んぬ可し。然れども是れ一寸六分,妙理を包(か)ね含む。細きこと毫髪に擬(なぞろ)うと雖も,同じく多岐を貫く。五藏の寒熱を平らげ,能く六腑の虛實を調う可し。拘攣閉塞,八邪を遺(つく)〔遣〕して去る。今ま亦た長きこと一寸六分にして,三稜を爲す。砭鍼と名づけて,痼疾を除き,刺して血を取る ○


  【注釋】

 ○冨:「富」の異体字。 ○三才:天、地、人。《易經.說卦》:「立天之道曰陰與陽,立地之道曰柔與剛,立人之道曰仁與義,兼三才而兩之,故易六畫而成。」晉.潘岳〈西征賦〉:「寥廓惚恍,化一氣而甄三才,此三才者,天地人道。」也稱為「三極」。 ○撒手:鬆手(手をゆるめる)、放開。放手。/撒:サツ サチ サン まく。放開、散放。散布、分散。 ○停針十息號曰天才:徐鳳『鍼灸大全』梓岐風谷飛經走氣撮要金針賦:「且夫下針之法,先須爪按,重而切之,次令咳嗽一聲,隨咳下針。凡補者呼氣,初針刺至皮內,乃曰天才;少停進針,刺至肉內,是曰人才;又停進針,刺至筋骨之間,名曰地才,此為極處,就當補之」。李梴『醫學入門』卷1(また卷4の本あり):「爪而下之」注:「針入皮內,撒手停針十息,號曰天才。少時再進針刺入肉內,停針十息,號曰地才。此為極處」。 ○毫:細而尖的毛。 ○𨤲:「釐・厘」の異体字。度量衡計算單位。舊制中,公制一釐等於千分之一公尺的長度(1厘は千分の一尺)。/あるいは「氂」の誤字か?馬尾。長毛。/「大如𨤲」:六厘? ○貟:「員」の異体字。圓形。通「圓・円」。 ○毫針最㣲:『針經指南』標幽賦:觀夫九針之法,毫針最微,七星上應,眾穴主持。本形金也,有蠲邪扶正之道;短長水也,有決凝開滯之機。定刺象木,或斜或正;口藏比火,進陽補羸。循機捫塞以象土,實應五行而可知。然是三寸六分,包含妙理,雖細楨於毫髮,同貫多岐。可平五臟之寒熱,能調六腑之虛實。拘攣閉塞,遣八邪而去矣;寒熱痹痛,開四關而已之。 ○七星:北斗星,包括天樞、天璇、天璣、天權、天衡、開陽、搖光七星。/『霊枢』九針論(78):黃帝曰:「余聞九鍼於夫子,眾多博大矣,余猶不能寤,敢問九鍼焉生,何因而有名?」歧伯曰:「九鍼者,天地之大數也,始於一而終於九。故曰:一以法天,二以法地,三以法人,四以法時,五以法音,六以法律,七以法星,八以法風,九以法野。」

 『素問』針解(54):帝曰:「余聞九鍼,上應天地四時陰陽,願聞其方,令可傳於後世以為常也。」歧伯曰:「夫一天二地三人四時五音六律七星八風九野,身形亦應之,鍼各有所宜,故曰九鍼。人皮應天,人肉應地,人脈應人,人筋應時,人聲應音,人陰陽合氣應律,人齒面目應星,人出入氣應風,人九竅三百六十五絡應野。故一鍼皮,二鍼肉,三鍼脈,四鍼筋,五鍼骨,六鍼調陰陽,七鍼益精,八鍼除風,九鍼通九竅,除三百六十五節氣,此之謂各有所主也。」 ○主持:主導、管理。 ○本形:原來的形狀。 ○蠲:除去,免除。 ○决疑:ケツギヤウ。音および下文「開滯(とどこおりをひらく)」からすると,「決凝(こりをさる/こわす/さくる〔自序(鍼灸遡洄集書題)の訓〕)」。/决:「決」の異体字。 ○定:『鍼灸大全』標幽賦作「寔」。『鍼經指南』作「定」。 ○擬:『鍼灸大全』『鍼灸聚英』標幽賦作「楨」。『扁鵲神應鍼灸玉龍經』『鍼方六集』作「擬」。 ○遺:標幽賦作「遣」。遣:釋放、放走。放逐、貶謫。 

 ◉『鍼灸大全』標幽賦ならびに注。(王国瑞『扁鵲神應鍼灸玉龍經』,呉崑『鍼方六集』,『鍼灸大成』に標幽賦の注あり。)

觀夫九針之法,毫針最微,七星可應,衆穴主持。

  昔黃帝制九針者,上應天地,下應陰陽四時。九針之名,各不同形。一曰鑱針以應天,長一寸六分,頭尖末銳,去瀉陽氣。二曰員針以應地,長一寸六分,針如卵形,楷磨分肉間,不得傷肌肉,以瀉分氣。三曰鍉針,以應人,長三寸半,鋒如黍粟之銳,主脈如陷,以致其氣。四曰鋒針,以應四時,長一寸六分,刃三隅,以發痼疾。五曰鈹針,以應五音,長四寸,廣二分半,末如劍鋒,以取大膿。六曰員利針,以應六律,長一寸六分六厘,且員銳,中身微大,以取暴氣。七曰毫針,以應七星,長三寸六分,尖如蚊虻喙,靜以徐往,微以久留之而癢,以取痛痹。八曰長針,以應八風,長七寸,鋒利身薄,可以取遠痹。九曰大針,以應九野,長四寸,其鋒微員,尖如挺,以瀉機關之水。九針畢矣。此言九針之妙,毫針最精,能應七星,又為三百六十穴之主持也。

本形金也,有蠲邪扶正之道。

  本形,言針也,針本出於金。古人以砭石,今人以針代之。蠲,除也。邪氣盛,針能除之。扶,輔也。正氣衰,針能輔也。

短長水也,有決凝開滯之機。

  此言針有長短,猶水之長短。人之氣血凝滯而不通,猶水之凝滯而不通也。水之不通,決之使流於湖海。氣血不通,針之使周於經脈,故言針應水也。

定〔一作「寔」〕刺象木,或斜或正。

  此言木有斜正,而用針亦有或斜或正之不同,刺陽經者,必斜臥其針,毋傷其衛;刺陰分者,必正立其針,毋傷其榮。故言針應木也。

口藏比火,進陽補羸。

  口藏,以針含於口也。氣之溫,如火之溫也。羸,瘦也。凡欲下針之時,必效方(仿)真人,口溫針煖,使榮衛相接。進己之陽氣,補彼之瘦弱。故言針應火也。

循機捫而可塞以象土。

  循者,用手上下循之,使氣血往來也。機捫者,針畢以手捫閉其穴,如用土填塞之義。故言針應土也。

實應五行而可知。〔一作「方知是應五行而不虛」。〕

  五行者,金水木火土也。此結上文,針能應五行之理〔可知矣〕。

然是一寸六分,包含妙理。

  言針雖但長一寸六分,能巧運神機之妙,中含水火,陰陽之理,最玄妙也。〔一作「回倒陰陽,其理最玄妙也」。〕

雖細楨於毫髮,同貫多岐。

  楨,針之幹也。岐,氣血往來之路也。言針之幹,雖如毫髮之微小,能貫通諸經血氣之道路也。

可平五臟之寒熱,能調六腑之虛實。

  平,治也;調,理也。言針能調治臟腑之疾。有寒則洩〔一作「溫」〕之,有熱則清之。虛則補之,實則瀉之。

拘攣閉塞,遣八邪而去矣。

  拘攣者,筋脈之拘束也。閉塞者,氣血不通也。八邪者,所以候八風之虛邪也。言疾有攣閉者,必驅散八風之邪也。

寒熱痛痹,開四關而已之。

  寒者,身作顫而發寒也。熱者,身作潮而發熱也。痛,疼痛也。痹,麻木也。四關者,五臟有六腑,六腑有十二原,十二原出於四關,太冲・合谷,是也。


  七オモテ(行針總論つづき)(641頁)

血也 ○或問曰吾子言於理然今世間達道之

士或應病其効晩而反庸醫之効速何乎我疑在

此如何對曰然汝不見於官能篇乎帝曰爪苦手

  七ウラ(642頁)

毒爲事善傷者可使按積抑痺各得能方乃可行

手毒者可使試按亀置龜於器下而按其上五十

日而死矣手甘者復生如故也如此則得其人能

令行之其効速矣吾子何疑乎


  【訓み下し】

○或ひと問うて曰わく,「吾子が言(こと),理に於いて然り。今ま世間達道の士,或いは病に應じて其の効晩(おそ)うして,反(かえ)って庸醫の効 速やかなるは何(なん)ぞや。我れ疑い此(ここ)に在り。如何(いかん)」。對(こた)えて曰わく,「然り。汝 官能篇を見ずや。帝の曰わく『爪(つめ)苦(にが)く手毒あるは,善く傷ることを事とするを爲す者,積を按し痺を抑さしむ可し。各々能を得て,方(まさ)に乃ち行なう可し。手に毒ある者は,試みに龜を按さしむ可し。龜を器下に置き,其の上を按す。五十日にして死す。手甘き者は,復た生くること故(もと)の如し』。此くの如くなれば,則ち其の人を得て,能く之を行なわしむれば,其の効 速やかなり。吾子 何ぞ疑わんや」。


  【注釋】

 ○吾子:對對方的敬愛之稱。一般用於男子之間。/子,為男子的美稱。故稱人吾子,有相親或敬愛之意。 ○達道:通達其道。猶得道。博通各種學問。 ○庸醫:技術低劣的醫生。 ○官能篇:『靈樞』官能(73):黃帝曰:明目者,可使視色;聰耳者,可使聽音;捷疾辭語者,可使傳論;語徐而安靜,手巧而心審諦者,可使行鍼艾,理血氣而調諸逆順,察陰陽而兼諸方。緩節柔筋而心和調者,可使導引行氣;疾毒言語輕人者,可使唾癰呪病;爪苦手毒,為事善傷者,可使按積抑痺。各得其能,方乃可行,其名乃彰。不得其人,其功不成,其師無名。故曰:得其人乃言,非其人勿傳,此之謂也。手毒者,可使試按龜,置龜於器下,而按其上,五十日而死矣,手甘者,復生如故也。 

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