二十一ウラ(672頁)
(28)鍼灸補瀉論
灸法不問虛實寒熱悉令灸之其亦有補瀉之功
虛者灸之使火氣以助元陽也實者灸之使實邪
隨火氣而發散也寒者灸之使其氣復温也熱者
灸之引欝熱之氣外發火就燥之義也其針刺雖
有補瀉法恐但有瀉而無補焉經謂瀉者迎而奪
之以針迎其經脉之來氣而出之固可以瀉實也
謂補者隨而濟之以針隨其經脉之去氣而留之
未必能補虛也不然内經何以曰無刺熇熇熱無
二十二オモテ(673頁)
刺渾渾脉無刺漉漉汗無刺大勞人無刺大飢人
無刺大渴人無刺新飽人無刺大驚人又曰形氣
不足病氣不足此陰陽皆不足也不可刺凢虛損
危病久病俱不可刺針刺之重竭其氣老者絕滅
壯者不復矣若此等語皆有瀉無補之謂也學者
玩之或問曰吾子前論者語於補瀉詳也今有瀉
無補其言似矛盾針有實補然吾子何曰無補乎
經曰邪之所湊其氣必虛是即開决凝滯而以扶
正氣爲補也對曰然汝內經慇懃之論未曉乎予
二十二ウラ(674頁)
試語汝調養五藏虛脫者以五味今針可有五味
也若無則何曰滋補乎且夫元氣虛資以甘藥然
則補中益氣六君子腎氣丸湯等與滋補之劑同
日而不可語今針之補者髣髴之補也猶曰平胃
散敗毒散等之補除去邪氣則正氣實之意也吾
子致思乎
【訓み下し】
鍼灸補瀉論
灸法 虛實・寒熱を問わず。悉く之を灸せしむ。其れ亦た補瀉の功有り。虛する者は之を灸し,火氣をして以て元陽を助けせしむ。實する者は之を灸し,實邪をして火氣に隨って發散せしむ。寒する者は之を灸し,其の氣をして復た温ためせしむ。熱する者は之を灸し,鬱熱の氣を引き,外(ほか)に發す。火は燥(かわ)けるに就くの義なり。其の針刺(さ)して,補瀉の法有りと雖も,恐らくは但だ瀉有って補無し。經(きょう)に瀉を謂う者は,迎えて之を奪う,針を以て其の經脈の來氣を迎えて之を出だす。固(まこと)に以て實を瀉す可し。補を謂う者は,隨って之を濟(すく)う。針を以て其の經脈の去氣に隨って之を留(とど)め,未だ必ず能く虛を補わず。然らずんば,『内經(だいきょう)』何を以てか曰わん,「熇熇の熱を刺すこと無かれ,
二十二オモテ
渾渾の脈を刺すこと無かれ,漉漉の汗を刺すこと無かれ,大勞の人を刺すこと無かれ,大飢の人を刺すこと無かれ,大渴の人を刺すこと無かれ,新たに飽く人を刺すこと無かれ,大驚の人を刺すこと無かれ」。又た曰わく,「形氣不足,病氣不足,此れ陰陽 皆な不足なり。刺す可からず。凡そ虛損,危病・久病,俱に刺す可からず。針刺の重き,其の氣を竭(つ)くし,老者は絕滅し,壯者は復(かえ)らず」。此れ等の語の若きは,皆な瀉有って補無きの謂(いい)なり。學者 之を玩(もてあそ)ぶ。或ひと問うて曰わく,「吾子 前の論には,補瀉を語ること詳(つまび)らかなり。今ま瀉有って補無し。其の言(こと)矛盾(ぼうじゆん)に似たり。針に實に補有り。然るに吾子何(なん)ぞ補無しと曰わんや。經(きょう)に曰わく,〈邪の湊まる所,其の氣必ず虛す〉。是れ即ち凝滯を開決して,正氣(しょうき)を扶くるを以て補と爲す」。對(こた)えて曰わく,「然り。汝『內經』慇懃の論,未だ曉(さと)らずや。予(よ)
二十二ウラ
試み汝に語らん。五藏虛脫の者を調養するに,五味を以てす。今ま針に五味有る可しや。若し無き則(とき)は,何ぞ滋補と曰わんや。且つ夫れ元氣虛するときは,資(と)るに甘き藥を以てし,然る則は補中益氣・六君子・腎氣丸湯等の滋補の劑と日を同じくすと語る可からず。今ま針の補は,髣髴の補なり。猶お平胃散・敗毒散等の補と曰わんがごとし。邪氣を除き去れば,則ち正氣 實するの意(こころ)なり。吾子 思いを致せ」。
【注釋】
★「助けせしむ」→「助けしむ」。「温ためせしむ」→「温ためしむ」。
○經謂瀉者迎而奪之:『靈樞經』小鍼解:「迎而奪之者,寫也;追而濟之者,補也」。訓:「經(きょう)に瀉を謂う者は……」ではなく,「經に瀉と謂う者は……」または,「經に,瀉(と)は/なる者は/迎えて之を奪うを謂う」とよむのがよいか。 ○謂補者隨而濟之:「補と謂う者は……」または「補(と)は/なる者は/隨って之を濟うを謂う」とよむのがよいか。
二十二オモテ
○針刺之重竭其氣:「針刺の重き 其の氣を竭くし」ではなく,「之を針刺して,重ねて其の氣を竭くせば」とよむのがよいか。 ○玩:研習。「ならう」とも訓ず。 ○或問曰:以下,著者の創作か。
○然:答辭。『難経』の答えの最初にある「然」の意。 ○慇懃:[industrious]辛勤。情意懇切、周到。憂え痛むさま。慇勤。
二十二ウラ
★「今ま針に五味有る可しや」:「可」の添え仮名は「シ」。「ン」であれば「今ま針に五味有る可けんや」。
○同日而不可語:一般的な漢語では「不可同日而語」。差別很大,不能相提並論。 ○致思:用心思考。
◉虞摶(1438~1517)『醫學正傳』(1515年)或問:「針法有補瀉迎隨之理,固可以平虛實之證。其灸法不問虛實寒熱,悉令灸之,其亦有補瀉之功乎?曰:虛者灸之,使火氣以助元陽也;實者灸之,使實邪隨火氣而發散也;寒者灸之,使其氣之復溫也;熱者灸之,引鬱熱之氣外發,火就燥之義也。其針刺雖有補瀉之法,予恐但有瀉而無補焉。經謂瀉者迎而奪之,以針迎其經脈之來氣而出之,固可以瀉實矣;謂補者隨而濟之,以針隨其經脈之去氣而留之,未必能補虛也。不然,『內經』何以曰:無刺熇熇之熱,無刺渾渾之脈,無刺漉漉之汗;無刺大勞人,無刺大飢人,無刺大渴人,無刺新飽人,無刺大驚人。又曰:形氣不足,病氣不足,此陰陽皆不足也,不可刺;刺之,重竭其氣,老者絕滅,壯者不復矣。若此等語,皆有瀉無補之謂也,學者不可不知」。
◉李梴(1575序刊)『醫學入門』鍼灸・灸法:「或問:針有補瀉迎隨之理,固可以平虛實之証,其灸法不問虛實寒熱,悉令灸之,其亦有補瀉之功乎?丹溪凡灸有補瀉,若補,火艾滅至肉;瀉,火不要至肉,便掃除之,用口吹風主散。曰:虛者灸之,使火氣以助元陽也;實者灸之,使實邪隨火氣而發散也;寒者灸之,使其氣之復溫也;熱者灸之,引鬱熱之氣外發,火就燥之義也。其針刺雖有補瀉之法,予恐但有瀉而無補焉。經謂:瀉者迎而奪之。以針迎其脈之來氣而出之,固可以瀉實也。謂補者隨而濟之,以針隨其經脈之去氣而留之,未必能補虛也。不然,『內經』何以曰無刺熇熇之熱,無刺渾渾之脈,無刺漉漉之汗,無刺大勞人,無刺大飢人,無刺大渴人,無刺新飽人,無刺大驚人?又曰:形氣不足,病氣不足,此陰陽皆不足也。不可刺。〔割注:凡虛損,危病,久病,俱不宜針。〕刺之重竭其氣,老者絕滅,壯者不復矣。若此等語,皆有瀉無補之謂也,學人玩之」。
◉『素問』瘧論:「經言無刺熇熇之熱,無刺渾渾之脈,無刺漉漉之汗」。
◉『素問』刺禁論:「無刺大醉,令人氣亂。無刺大怒,令人氣逆。無刺大勞人,無刺新飽人,無刺大饑人,無刺大渴人,無刺大驚人」。
◉『靈樞』根結:「黃帝曰:形氣之逆順奈何?歧伯曰:形氣不足,病氣有餘,是邪勝也,急寫之;形氣有餘,病氣不足,急補之;形氣不足,病氣不足,此陰陽氣俱不足也,不可刺之,刺之則重不足。重不足則陰陽俱竭,血氣皆盡,五藏空虛,筋骨髓枯,老者絕滅,壯者不復矣。形氣有餘,病氣有餘,此謂陰陽俱有餘也。急寫其邪,調其虛實。故曰:有餘者寫之,不足者補之,此之謂也。
○補中益氣:補中益氣湯(補養之劑)。總結:補中昇陽。主治:脾胃氣虛,少氣懶言,四肢無力,睏倦少食,飲食乏味,不耐勞累,動則氣短;或氣虛發熱,氣高而喘,身熱而煩,渴喜熱飲,其脈洪大,按之無力,皮膚不任風寒,而生寒熱頭痛;或氣虛下陷,久瀉脫肛。現用於子宮下垂;胃下垂或其它內臟下垂者」。
○六君子:六君子湯。【功用】益氣健脾,燥濕化痰。【主治】脾胃氣虛兼痰濕證。食少便溏,胸脘痞悶,嘔逆等。
○腎氣丸:【功用】溫補腎氣。【主治】腎氣不足,腰酸腳軟,肢體畏寒,少腹拘急,小便不利或頻數,舌質淡胖,尺脈沉細;及痰飲喘咳,水腫腳氣,消渴,久泄。現用於糖尿病、甲狀腺功能低下、慢性腎炎、腎上腺皮質功能減退及支氣管哮喘等屬於腎氣不足者。
○平胃散:功效:燥濕健脾,消脹散滿。/適應症:脾土不運,濕濁困中,胸腹脹滿,口淡不渴,不思飲食,或有噁心嘔吐,大便溏瀉,睏倦嗜睡,舌不紅,苔厚膩。
○敗毒散:【功用】 散寒祛濕,益氣解表。主治:氣虛,外感風寒濕表證。憎寒壯熱,頭項強痛,肢體酸痛,無汗,鼻塞聲重,咳嗽有痰,嘔噦寒熱,胸膈痞滿,舌淡苔白,脈浮而按之無力。
鍼灸溯洄集卷上〔おわり〕
0 件のコメント:
コメントを投稿