2024年2月11日日曜日

鍼灸溯洄集 17 (13)手法補瀉

   卷上・八ウラ(644頁)

(13)手法補瀉

經曰凢補瀉非必呼吸出入而在乎手指也 ○

  九オモテ(645頁)

動者如氣不行將針伸提而已 ○ 退者爲補瀉

欲出針時先針少退然後留針方可出之 ○ 進

者凢不得氣男外女内者及春夏秋冬各有進退

之理 ○ 盤者凢如針腹部於穴内輕盤揺而已

○揺者凢瀉時欲出針必須動揺而後出 ○ 彈

者凢補時用大指甲輕彈針便氣疾行也瀉不可

用 ○ 撚者以手指撚針也務要記夫左右左爲

外右爲内 ○ 循者凢下針於部分經絡之處用

手上下循之使氣血徃來 ○ 捫者凢補者出鍼

  九ウラ(646頁)

時用手捫閉其穴 ○ 攝者下針時得氣澁滯隨

經絡上用大指甲上下切其氣血自得通行也

○按者以手按針無得進退如按切之狀 ○ 爪

者凢下鍼用手指作力置針有準也 ○ 切者凢

欲下鍼必先用大指甲左右於穴切之令氣血宣

散然後下針是不使不傷於榮衛也 ○ 


  【訓み下し】

   手法補瀉

經(きょう)に曰わく,凡そ補瀉は必ず呼吸出入(じゅつにゅう)に非ず。而(しこう)して手指に在り。 ○動は,氣の行(ゆか)かざるが如く,針を將(も)って伸提するのみ。 ○退は,補瀉を爲す。針を出ださんと欲して,時先ず針少し退け,然うして後(の)ち針を留め,方(まさ)に之を出だす可し。 ○進は,凡そ氣を得ず,男は外(ほか),女は内,及び春夏秋冬各々進退の理有り。 ○盤は,凡そ腹部に針するが如く,穴の内に於いて輕く盤搖するのみ。 ○搖は,凡そ瀉する時,針を出ださんと欲し,必ず動搖して後(のち)に出だす須(べ)し。 ○彈は,凡そ補う時,大指の甲を用いて,輕く針を彈き,氣をして疾(と)く行(ゆ)かしむ。瀉には用ゆ可からず。 ○撚は,手指を以て針を撚り,務めて夫(か)の左右を記すことを要す。左を外(ほか)と爲し,右を内と爲す。 ○循は,凡そ針を部分經絡の處に下すに,手を用い上下 之に循(したご)う。氣血をして往來せしむ。 ○捫は,凡そ補う者は鍼を出だす時,手を用い,其の穴を捫(も)み閉づ。 ○攝は,針を下す時,氣澁滯を得,經絡に隨って上(かみ) 大指の甲を用ゆ。上下 其の氣血を切にし,自(みずか)ら通行を得。 ○按は,手を以て針を按(お)し,得て進退無し。按切の狀(かたち)の如し。 ○爪は凡そ鍼を下し,手指を用い力を作(な)し,針を置くに準有り。 ○切は,凡そ鍼を下さんと欲し,必ず先ず大指の甲を用ゆ。左右に穴に於いて之を切し,氣血をして宣散せしむ。然して後(の)ち針を下して,是れ榮衛を傷(やぶ)らざらしめず。 ○ 


  【注釋】

 ○經曰凢補瀉非必呼吸出入而在乎手指也:『鍼經指南』真言補瀉手法・手指補瀉:「經云∶凡補瀉,非必呼吸出內,而在乎手指何謂也。故動、搖、進、退、搓、盤、彈、捻、循、捫、攝、按、爪、切者是也。今略備於後」。 ○動者如氣不行將針伸提而已:『鍼經指南』:「動∶動者,如氣不行,將針伸提而已」。 ○:以下,『鍼灸聚英』には○があるが,『鍼經指南』にはなく,箇条書きになっている。 ○退者爲補瀉欲出針時先針少退然後留針方可出之 :『鍼經指南』:「退∶退者,為補瀉欲出針時,各先退針一豆許,然後却留針,方可出之,此為退也」。『鍼灸聚英』十四法:「退者,為補瀉欲出針時,各先退針一豆許,然後却留針,方可出之」。 ○進者凢不得氣男外女内者及春夏秋冬各有進退之理:『鍼經指南』:「進∶進者,凡不得氣,男外女內者,及春夏秋冬各有進退之理,此之為進也」。『鍼經指南』と『鍼灸聚英』十四法には,退と進の間に「搓」あり。 ○盤者凢如針腹部於穴内輕盤揺而已:『鍼經指南』:「盤∶盤者,為如針腹部,于穴內輕盤搖而已,為盤之也」。『鍼灸聚英』十四法:「盤者,為如針腹部,于穴內輕盤搖而已」。 ○揺者凢瀉時欲出針必須動揺而後出:『鍼經指南』:「搖∶搖者,凡瀉時,欲出針,必須動搖而出者是也」。『鍼灸聚英』:「搖者,凡瀉時,欲出針,必須動搖而後出」。 ○便:「使」字の誤り。 ○氣疾行也瀉不可用:『鍼經指南』:「彈∶彈者,凡補時,可用大指甲輕彈針,使氣疾行也。如瀉,不可用也」。『鍼灸聚英』に末尾の「也」字なし。 ○撚者以手指撚針也務要記夫左右左爲外右爲内:『鍼經指南』:「撚∶撚者,以手撚針也。務要識乎左右也,左為外,右為內,慎記耳」。『鍼灸聚英』:「撚者,以手撚針也。務要記夫左右,左為外,右為內」。『聚英』にしたがっているが,難解。 ○循者凢下針於部分經絡之處用手上下循之使氣血徃來:『鍼經指南』:「循∶循者,凡下針於屬部分經絡之處,用手上下循之,使氣血往來而已是也。經云∶推之則行,引之則止」。『鍼灸聚英』:「循者,凡下針於 部分經絡之處,用手上下循之,使氣血往來而已是也。經云∶推之則行,引之則止」。 ○捫者凢補者出鍼時用手捫閉其穴 :『鍼經指南』:「捫∶捫者,凡補時,用手捫閉其穴,是也」。『鍼灸聚英』:「捫者,凡補者出鍼時,用手捫閉其穴也」。 ○攝者下針時得氣澁滯隨經絡上用大指甲上下切其氣血自得通行也:『鍼經指南』:「攝∶攝者,下針如氣澁滯,隨經絡上,用大指甲上下切其氣血,自得通行也」。『鍼灸聚英』:「攝者,下針時氣澁滯,隨經絡上,用大指甲上下切其氣血,自得通行也」。『溯洄集』と同じ。「經絡の上に隨って」と読むべきか。 ○按者以手按針無得進退如按切之狀:『鍼經指南』:「按∶按者,以手捻針無得進退,如按切之狀,是也」。『鍼灸聚英』:『溯洄集』と同じ。 ○爪者凢下鍼用手指作力置針有準也:『鍼經指南』:「爪∶爪者,凡下針用手指作力置針,有準也」。『鍼灸聚英』:『溯洄集』と同じ。 ○切者凢欲下鍼必先用大指甲左右於穴切之令氣血宣散然後下針是不使不傷於榮衛也:『鍼經指南』:「切∶切者,凡欲下針,必先用大指甲左右于穴切之,令氣血宣散,然後下針,是不傷榮衛故也」。『鍼灸聚英』:『溯洄集』と同じ。

 ○大浦慈觀先生【意訳】

http://tokyosikai.life.coocan.jp/3D/3-sugiyama.htm

一般社団法人法人 東京都はり灸マッサージ師会 平成17年度、三療大学における講義:我々の臨床を豊かにする『杉山真伝流』の価値について 4.杉山真伝流の基本手技と十ハ(ママ)術 (3)「下鍼十四法」の日本的消化 より

・押手の栂(ママ)指の爪で穴所を按じたり、四方を爪で押し切るようにしたりして、気血を散じた上で、鍼を刺入する。(=爪法・切法による下鍼の法)

 ・鍼体を揺らしながら、ゆっくりと鍼を退け、抜鍼する。(=揺法、退法による出鍼の法)

 ・鍼を生き生きと動かし、男は左・女は右に転じながら鍼を目的の部位まで進め、得気を促す。(動法、進法による催鍼の法)

 ・刺鍼した経絡の上下を、刺手の四指で撫で摩って気を循らせたり、栂指で按じて流れを摂(たす)けたりして、気の行りを促す。(循法、摂法による行気の法)

 ・刺入した鍼を左または右に回転させて瑳って病を去り、鍼柄を弾いて虚した部位に気を集め補う。(搓法、弾法)

 ・腹部には円盤のように刺入した鍼を廻旋させて、気を集める。(盤法)

 ・抜鍼したら、すぐに鍼跡を按圧して、気の泄れるのを防ぐ。(椚法)

 ・刺入した鍼を、少しばかり重く沈めて、気を内に込める。(按法=補)

 ・刺入した鍼を、少しばかり軽く浮かして、気を引き出す。(提法=瀉)

 ・この十四法こそ、鍼刺の要点を備えた方法である。


  九ウラ(646頁)

散然後下針是不使不傷於榮衛也 ○ 補者隨

經脉推而内之左手閉針口徐出針而疾按之虗

羸氣弱癢麻者補之 ○ 瀉者經脉動而伸之左

手開針口疾出針而徐按之豐肥堅硬疼痛瀉之


  【訓み下し】

○補は,經脈に隨って推して之を内(い)れ,左の手にて針口を閉づ。徐(そろそろ)針を出だして疾(と)く之を按す。虛羸・氣弱・癢麻は,之を補う。○瀉は經脈 動かして之を伸べ,左の手にて針口を開き,疾く針を出だして徐(そろそろ)之を按す。豐肥・堅硬・疼痛は,之を瀉す。


  【注釋】

 ○徐出針:原文には「徐」に「トク」と添え仮名があるが,下文の添え仮名にしたがって改めた。 ○羸氣弱癢麻者補之:『鍼經指南』真言補瀉手法・補法に同文あり。 ○徐:添え仮名「ソロヽ」。「そろそろ」か。 ○豐肥堅硬疼痛瀉之:『鍼經指南』真言補瀉手法・瀉法に同文あり。 

 ◉『濟生拔萃方』鍼經摘英集・補瀉および『鍼灸聚英』補瀉:「濟生拔萃云……補者隨經脈推而內之,左手閉針孔,徐出針而疾按之。瀉者,迎經脈動而伸之,左手開針孔,疾出針而徐按之。虛羸氣弱癢麻者補之;豐肥堅硬疼痛者瀉之」。


  十オモテ(647頁)

○調經論曰瀉實者氣盛乃内針針與氣俱内以

開其門如其户利針與氣俱出精氣不傷邪氣乃

下針口不閉以其邪揺大其道如利是謂大瀉補

虗者持針勿捨置以定其意候呼内針氣出針入

針空四塞精無從去方實而疾出針氣入針出熱

不得還閉塞其門邪氣散精氣乃得存曰補


  【訓み下し】

○調經論に曰わく,實を瀉する者は,氣盛んにして乃ち針を内(い)れ,針と氣と俱に内れ,以て其の門を開く。其の户を利するが如く,針と氣と俱に出だす。精氣 傷れず,邪氣 乃ち下る。針口閉じて,以て其の邪 搖(うご)き,其の道を大いにすること,利するが如く,是れ大瀉と謂う。虛を補う者は,針を持って捨て置く勿かれ。以て其の意を定(しず)めて,呼を候い針を内れ,氣出でて針入れ,針空 四(よも)に塞がり,精 去るに從うこと無し。方(まさ)に實して疾(と)く針を出だす。氣入り針出でて,熱 還(かえ)ることを得ず,其の門を閉塞して,邪氣 散じて,精氣 乃ち存することを得(う),補と曰う。


  【注釋】

○調經論曰瀉實者氣盛乃内針針與氣俱内以開其門如其户利針與氣俱出精氣不傷邪氣乃下針口不閉以其邪揺大其道如利是謂大瀉:『素問』調經論(62):「帝曰:血氣以并,病形以成,陰陽相傾,補寫柰何?歧伯曰:寫實者氣盛乃内鍼,鍼與氣俱内,以開其門,如利其戸,鍼與氣俱出,精氣不傷,邪氣乃下,外門不閉,以出其疾,揺大其道,如利其路,是謂大寫,必切而出,大氣乃屈」。 ○補虗者持針勿捨置以定其意候呼内針氣出針入針空四塞精無從去方實而疾出針氣入針出熱不得還閉塞其門邪氣散精氣乃得存曰補:『素問』調經論(62):「帝曰:補虚柰何?歧伯曰:持鍼勿置,以定其意,候呼内鍼,氣出鍼入,鍼空四塞,精無從去,方實而疾出鍼,氣入鍼出,熱不得還,閉塞其門,邪氣布散,精氣乃得存,動氣候時,近氣不失,遠氣乃來,是謂追之」。


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