靖公治意 宣文觸諱 靖公は意を治し 宣文は諱に觸る (靖公・鄧宣文)
名醫録徐書記有室女病似勞累醫不差
聞靖公善醫求𧧂脉公曰此子二寸脉微
伏是因憂思之過氣積於胷腑中也故病
以膈氣而𠋩苦勞疾請示病實治之無差
誤徐公曰女子因睡中驚叫言有蛇入腹
中細詢之是夢見吞下蛇也因此漸成病
靖公曰有蛇在腹中須是轉下便差某有
斬蛇丹服之其蛇從大便中出仍須貧道
於側近守宿夜服其藥果有小蛇取下女
疾遂愈有好事者詢之靖公公密言此非
蛇病也其女因夢蛇憂之過感斯疾吾當
治意而不治病其蛇亦非自臟腑中出吾
本只與轉藥也
【訓み下し】093-1
『名醫錄』:徐書記に室女有り,勞累に似たるを病み,醫すれども差(い)えず。靖公の醫を善くするを聞き,脉を診るを求む。公曰わく,「此の子の二つの寸脉 微にして伏。是れ憂思の過に因り,氣 胸腑の中に積もるなり。故に病むに膈氣を以てし,而して復た勞疾に苦しむ。請う病の實を示せ,之を治して差誤すること無からん」。徐公曰わく,「女子 睡中に驚き叫ぶに因って,蛇有り腹中に入ると言う。細かに之を詢(と)うに,是れ夢に蛇を吞み下すを見るなり。此れに因って漸く病を成す」。靖公曰わく,「蛇 腹中に在る有れば,須(すべ)からく是れ轉下すれば,便ち差(い)ゆべし。某(それがし)に斬蛇丹有り,之を服せば,其の蛇 大便中從(よ)り出でん。仍(よ)って貧道の側近に於いて守宿するを須(もと)めて,夜 其の藥を服(の)ましめよ」。果して小蛇有り,下すを取り,女の疾(やまい) 遂に愈えり。好事の者有り,之を靖公に詢う。公 密(ひそ)かに言う,「此れ蛇の病に非ざるなり。其の女 蛇憂の過(わざわ)いを夢みるに因って,斯(こ)の疾に感ず。吾れ當に意を治すべくして病を治せず。其の蛇も亦た臟腑の中自り出づるに非ず。吾れ本より只だ轉藥を與うるのみなり」。
【注釋】093-1
○名醫録:008を参照。 ○書記:古代稱掌管書牘記錄的人。今通稱在機關團體中擔任文書抄寫諸事的人。 ○室女:未出嫁的女子。 ○勞累:因過度勞動而覺得疲倦。/勞:辛苦、疲累。/累:操勞、使疲勞。耗損、虧欠。疲勞。如:「勞累」、「疲累」。 ○醫:治療。如:「醫治」、「醫療」。/★AIおよび邵冠勇らは「病似勞,累醫不差」と句切る。 ○差:病癒。通「瘥」。 ○𧧂:「診」の異体字。 ○寸脉:寸脈是中醫脈診的核心部位,位於腕後橈動脈搏動處的寸口脈關前(腕端)區域,即橈骨莖突尺側緣至腕橫紋約一寸範圍內。中醫採用食指定位法,通過總按、單按等手法對比診察脈象的浮沈、強弱特徵。臨床實踐中,寸脈細弱提示氣血不足,浮滑可能與經絡閉塞相關,並與「陰搏陽別」等特殊脈象共同構成診斷依據。/脉:「脈」の異体字。 ○微:微弱。 ○伏:伏脈,脈學名詞。指一種脈象。脈來伏隱,重按推筋著骨始得。見於邪閉、厥證、痛極等病證。 ○憂思:憂慮;憂愁的思緒。 ○過:超出、超越。 ○胷:「胸」の異体字。 ○腑:中醫指人體內主飲食的消化、吸收、轉輸和排泄器官的總稱。如胃、膽、三焦、膀胱、大小腸等稱為「六腑」。/【胷府】『素問』金匱真言論(04):「西風生於秋,病在肺,俞在肩背」。王注:「肺處上焦,背爲胷府,肩背相次,故俞在焉」。【胸脯】身體前面頸下腹上的部分。 ○膈氣:病名。一名鬲氣。即噎膈。『聖濟總錄』卷六十:「人之胸膈,升降出入,無所滯礙,命曰平人。若寒溫失節,憂恚不時,飲食乖宜,思慮不已,則陰陽拒隔,胸脘痞塞,故名膈氣。」此病名,融會了噎膈病的主證和病機。 ○𠋩:「復」の異体字。 ○勞疾:癆病。中醫上指肺癆、結核病。 ○差誤:錯誤,差錯。 ○女子:女兒。處女。舊稱未出嫁或未曾有過性行為的女子。 ○驚叫:吃驚地喊叫。 ○細:深入的、詳盡的。周密。 ○詢:查問、徵求意見。 ○因此:因而、所以。 ○漸:慢慢的、逐步的。 ○須:應當。 ○轉下:bring down; carried down; carry over。/轉:運也。轉移,輾轉 [divert;transfer]。移動;遷徙 [move]。離去,離開 [leave]。 ○差:病愈。後作「瘥」[be recovered]。 ○某:我,自稱之詞。 ○仍:於是、因此。 ○須:等待。需要、需求。用。 ○貧道:僧道自稱的謙辭。漢魏、兩晉出家人的謙稱。意謂自己對佛道的修養仍少。 ○側近:左右;附近。 ○守宿:夜間值勤。 ○果:確實、的確。假若、若是。 ○好事者:喜歡管閒事、多事的人。/好事:愛興事端;喜歡多事。興造事端。 ○密:暗中。不宣露的。 ○過:通「禍」。災殃 [disaster;adversity]。 ○轉藥:即下藥。
識典古籍*******************************************************
名醫錄徐書記有室女,病似勞,累醫不差。聞靖公善醫,求診脉。公曰:此子二寸脉微伏,是因憂思之過,氣積於胸腑中也,故病以隔氣,而復苦勞疾。
【AI譯文】
『名医录』中的徐书记有个未出嫁的女儿,得了类似痨病(肺结核之类的病症)的疾病,多位医生医治都没有治愈。听说靖公擅长医术,就请他来给自己诊脉。公说:‘这个孩子的寸部二脉微弱而隐伏,这是因为忧愁思虑过度,气郁积在胸腑之中,所以得了膈气病,又被痨病所苦。’
【AI 1】『名医録』には次のように記されています。徐書記には未婚の娘がいたが、痨病(肺結核のような病気)を患い、何人もの医師が治療を試みたものの、治すことができなかった。そこで、彼は医術に優れた靖公の診察を求めた。靖公は脈を診て、「この娘の寸部の二脈は弱く隠れている。これは過度の憂慮と思索が原因であり、その気が胸部に滞って膈気病を引き起こし、さらに痨病の苦しみが加わった」と述べた。
【AI 2】『名医録』に登場する徐書記には、まだ嫁いでいない娘がいた。彼女は痨病(肺結核のような病)に似た病にかかり、何人もの医者が治療を試みたが、誰も治せなかった。靖公が医術に優れていると聞き、彼を招いて脈診をしてもらった。靖公はこう言った。「この子の寸部(二つの脈)が微弱で沈んでいる。これは憂いや思い悩みが過ぎて、気が胸や腹に滞っているからで、膈気(かくき)の病となり、さらに痨病を併発している。
請示病實,治之無差誤。
【AI譯文】
请求询问病症的实际情况,(这样)治疗就不会有差错失误。
【AI 1】病状の詳細を確認するよう求めれば、治療に誤りが生じることはない。
【AI 2】実際の病状を詳しく尋ねれば、治療の誤りも避けられるだろう。」
徐公曰:女子因睡中驚叫,言有蛇入腹中。
【AI譯文】
徐公说:“女子在睡梦中惊叫,说有蛇进入了她的腹中。”
【AI 1】徐書記は「娘は夢の中で蛇が腹に入ってくると叫び、それが病の始まりだった」と説明した。
【AI 2】すると徐書記は、「娘は眠っている間に悲鳴を上げ、『蛇が腹に入ってきた』と言っていた」と語った。
細詢之,是夢見吞下蛇也,因此漸成病。
【AI譯文】
仔细询问后,才知道是梦见吞下蛇,因此渐渐患上了疾病。
【AI 1】詳しく聞くと、娘は蛇を飲み込む夢を見たことで徐々に病に侵されていったのだった。
【AI 2】詳しく聞いてみると、夢の中で蛇を飲み込んだことが原因で、次第に病にかかっていったという。
靖公曰:有蛇在腹中,須是轉下便差。
【AI譯文】
靖公说:‘腹中有蛇,必须用泻下的方法将其泻出,病才会好。’
【AI 1】靖公は「腹の中に蛇がいるならば、瀉下の方法でそれを排出すれば病は治る」と言い、
【AI 2】靖公は言った。「腹に蛇がいるなら、瀉下(しゃげ=下剤などで体外に排出)しなければ治らない。
某有斬蛇丹服之,其蛇從大便中出,仍須貧道於側近守宿,夜服其藥,果有小蛇取下,女疾遂愈。
【AI譯文】
我有一枚斩蛇丹,服下后,蛇就会从大便中排出,还需要我在旁边守夜,夜里服下丹药,果然有小蛇被排了出来,女子的病就痊愈了。
【AI 1】斬蛇丹という薬を持っていた。夜にそれを服用すると、確かに排便とともに小さな蛇が出てきた。すると娘の病はすっかり回復した。
【AI 2】私は『斬蛇丹』という薬を持っている。これを服用すれば、蛇は排泄物と共に出てくる。ただし、私は夜通し付き添う必要がある。」夜、女が薬を飲むと、本当に小さな蛇が排泄された。そして彼女の病はすっかり治った。
有好事者詢之靖公,公密言:此非蛇病也,其女因夢蛇憂之,過感斯疾,吾當治意而不治病,其蛇亦非自臟腑中出,吾本只與轉藥也。
【AI譯文】
有好事的人询问靖公(这件事),靖公私下说:这不是蛇(导致的)病症,那个女子因为梦到蛇而忧虑这件事,过度伤感才得了这个病,我应当治疗(她的)思想而不是病症,那条蛇也不是从脏腑当中出来的,我本来只是给(她)用药来改变(想法)。
【AI 1】ある人が靖公にこの話の真偽を尋ねると、彼はこう語った。「これは本当に蛇による病気ではない。この娘は夢で蛇を見たことを気に病み、過度に悩んだ結果、病に罹ったのだ。私は病ではなく、彼女の思い込みを治療したにすぎない。蛇は体内から出たのではなく、私は薬で彼女の認識を変えただけなのだ」と。
【AI 2】この件に興味を持った者が靖公に尋ねると、彼は密かにこう語った。「あれは実際に蛇がいたわけではない。彼女は夢で蛇を飲んだことに強い不安と恐れを感じ、それが心の病となり、体の病に変わったのだ。私は病気ではなく、彼女の心を治療した。あの“蛇”も臓腑から出たのではない。ただ薬を使って彼女の思い込みを変えただけなのだ。」
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