2025年10月8日水曜日

『歷代名醫蒙求』095-2

    名醫録 仁廟時公主患召小方脉醫官  

    李用成診脉奏曰夾驚傷寒也 仁廟大

    駭再三宣諭用心下藥用成再奏曰只今

    下藥但公主鼻端額角微有汗少時便安

    其用成只以常服食藥加圓服之公主少

    時略動一行即便惺惺靣 仁廟言無事

    上喜之批旨赴朝廷與轉章服外特賜宣

    補禁中神醫也時有識者議曰若果是夾

    驚傷寒豈轉下而卒能安也既轉而安正

    是傷飲食也大抵冷食傷胃亦令人頭痛

    而壯熱用成之妄言何動 聖情僥幸恩

    賜也噫今之醫又故與前賢不同矣食官

    家之禄職居禁廷凢醫貴近尚設機巧而  

    罔昧一人何况治民俗者哉    

    

  【訓み下し】095-2

    『名醫錄』:仁廟の時,公主 患い,小方脉の醫官 李用成を召して脉を診しむ。奏して曰わく,「夾驚傷寒なり」。仁廟大いに駭(おどろ)き,再三宣諭して,心を用いて藥を下さしむ。用成 再び奏して曰わく,「只だ今 藥を下す/下す藥/のみ。但だ公主の鼻端・額角 微(わず)かに汗有り,少時に便ち安(やす)んぜん。其れ用成 只だ常服の食藥を以て圓に加え,之を服(の)ましむ」。公主 少時にして略(や)や動ずること一行,即(たちま)ち便ち惺惺たり。仁廟に面(まみ)えて事無しと言う。上 之を喜び,旨を批して朝廷に赴(おもむ)かしめ,與えて章服を轉ずる外(ほか),特に宣を賜って禁中の神醫に補せしむるなり。時に識者有り,議して曰わく,「若し果たして是れ夾驚傷寒ならば,豈に轉じて下して卒(にわ)かに能く安んぜんや。既に轉じて安んずるは,正に是れ飲食に傷(やぶ)るるなり。大抵冷食して胃を傷れば,亦た人をして頭痛して壯熱たらしむ。用成の妄言,何ぞ聖情を動かして,恩賜を僥幸とせんや。噫(ああ),今の醫も又た故(もと)より前賢と同じからず。官家の祿を食(は)み,職(もっぱ)ら禁廷に居らんとす。凡そ貴近を醫(い)やし,尚(な)お機巧を設けて一人を罔昧せば,何ぞ況んや民俗を治する者をや」。

    

  【注釋】095-2

 ○名醫録:008を参照。 ○仁廟:指宋仁宗。 ○公主:天子或國王的女兒。帝王、諸侯之女的稱號。 ○小方脉:古代醫學分科之一。幼科的別稱,專治小兒疾病,相當於現在的小兒科。唐代已有少小科,宋代開始,兒科稱為小方脈。宋以後,元、明、清太醫院中均設有小方脈科。 ○醫官:古代掌管醫藥政令的官吏。掌管醫務的官。對醫生的尊稱。 ○李用成:宋代醫生。里貫欠詳,醫術頗高,嘗任小方脈醫官,並治仁宗公主之夾驚傷寒症,經調治而愈。仁宗賜以禁中神醫之稱。 ○診脉:謂手按病人腕部脈搏以察病情。/中醫上指醫生用手指按在病人手腕上的動脈,依脈搏的變化來診斷病情。/脉:「脈」の異体字。 ○奏:古代臣下向皇帝上書或進言。 ○夾驚傷寒:宋・劉昉『幼幼新書』病證形候第八:「肺者,諸臟之上蓋也,亦主氣。大腸是肺之腑,受外風,大腸受驚,故如此,即是夾驚傷寒耳」。夾驚傷寒第十一:「『保生論』:小兒傷寒並夾驚候:其脈浮洪傷寒者,小兒內停冷乳、包嚼之食,外傷冷風於腠戶。令兒面色黃,兩頰紅色,鼻塞氣喘,身上寒毛起,鼻流清涕,咳嗽噴嚏,煩躁吐食,頻多下泄,小便如粉,皆是傷寒候」。 ○大駭:吃驚、害怕。 ○再三:屢次,一次又一次。 ○宣諭:宣布命令;曉諭。宣示皇帝的旨意,使人曉諭。 ○用心:使用心力;專心。費心;留意。盡心。 ○下藥:用藥。調配藥劑。/下瀉藥。 ○少時:片刻、不多時。不久;一會兒。 ○便:即、就。 ○安:平靜、恬適。如:「安寧」/邵冠勇らおよびAIは,ここまでを李用成の言とする。 ○圓:丸薬。 ○少時:不久;一會兒。片刻、不多時。 ○略動一行:下瀉藥であれば,一度便通があったことの婉曲表現であろう。/AIは「からだを少しうごかす」と解す。 ○即便:立即。 ○惺惺:清醒貌。(意識が)回復する。はっきりする。 ○靣:「面」の異体字。見、相見。 ○無事:沒有變故。 ○上:皇帝。 ○批:上級回覆下級且有所評論的公文。 ○旨:帝王、長上的命令。 ○赴:往,去。前往、投向、奔向。 ○朝廷:君主視事聽政的地方。 ○與:給予。如:「贈與」、「授與」。 ○轉:變換、改變。遷調官職。 ○章服:一種古代禮服。上有圖案,用以區別等級。繡有日月、星辰等圖案的古代禮服。每圖為一章,天子十二章,群臣按品級以九、七、五、三章遞降。/『宋會要輯稿』/職官/職官六一/以官回授/孝宗/淳熙十三年:「乞將該遇慶典所得理當三年磨勘回授父逵,改轉章服」。 ○宣:以君王的命令傳召臣下。 ○補:填入空缺的職位、名次等。 ○禁中:禁令所及範圍之內。舊稱天子居住的地方。指帝王所居宮內。 ○識者:有見識的人。 ○議:評論是非。 ○若果:如果。 ○轉:移動。/逐漸、更加。うたた。反而、反倒。かえって。 ○下:AIは上文では「下藥」を「用藥」と解したが,ここでは「くだす」「下瀉」と解している。 ○卒:倉猝、突然。 ○大抵:大概。大都,表示總括一般的情況。 ○冷食:生冷的食物。不加熱的食物或指食物不加熱。 ○壯熱:高熱;高燒。 ○妄言:謬說。指謊言,假話。胡說;隨便說說。隨便胡說或指荒唐無稽的話。 ○聖:君主的。 ○情:心理上發於自然的意念,或因外界事物刺激所引發的心理狀態。 ○僥幸:希望獲得意外的成功或免去災禍的心理。意外獲得成功或免除災害。猶幸運。企求非分。 ○恩賜:朝廷的賞賜。施恩賞賜。 ○噫:心不平所發的聲音。 ○故:仍舊、依然。/AIは訳さず。 ○前賢:前代的賢人或名人。 ○食:嚐到、承受。供給俸祿。 ○官家:皇帝。公家;官府。 ○禄:「祿」の異体字。俸給、官俸。/【食祿】享受俸祿。 ○職:惟、只,常用於句首。 ○禁廷:禁庭。猶宮庭。 ○凢:「凡」の異体字。 ○醫:治療。 ○貴近:居於顯要地位且親近君主的人。顯貴的近臣。 ○尚:猶、還。 ○機巧:機謀詭詐。詭詐。 ○罔昧:蒙蔽(隱瞞欺騙)。蒙昧(昏昧不懂事)。 ○一人:古稱天子為一人。 ○何况:比較或更進一層推論。用反問的語氣表達更進一層的意思。/况:「況」の異体字。 ○民俗:民眾的生活、生產、風尚習俗等情況。人民的風俗習慣。人民百姓的風俗習慣與傳統,包含建築風格、日用器物形式等物質文化,以及民間故事、俚語、宗教儀式等非物質文化。

    

識典古籍*******************************************************

名醫錄:仁廟時,公主患,召小方脉醫官李用成診脉,奏曰:夾驚傷寒也。

    【AI譯文】

『名医录』记载:宋仁宗时期,公主患病,(朝廷)召来小儿科医官李用成诊脉,(李用成)上奏说:(公主患的是)夹惊伤寒。

    【AI 1】『名医録』には次のように記されています。宋仁宗の時代、ある公主が病にかかり、朝廷は小児科医官の李用成を召して診脈させた。李用成は「公主の病は夹惊伤寒(驚きと寒邪が交わった病)」と奏上した。

    【AI 2】『名医録』にはこう記されている。宋の仁宗の時代、あるとき皇女(公主)が病にかかり、朝廷は小児科の医官である李用成を召し、脈診させた。李用成は奏上して言った。「(公主の病は)驚きが加わった傷寒(驚きを伴う寒熱の病)です。」

仁廟大駭,再三宣諭用心下藥。

    【AI譯文】

仁宗皇帝非常惊讶,再三下令让他用心下药。

    【AI 1】仁宗はこの診断に驚き、慎重に薬を用いるよう繰り返し命じた。

    【AI 2】仁宗皇帝は非常に驚き、何度も命じて「心して薬を与えるように」と指示した。

用成□奏曰:只今下藥,但公主鼻端額角微有汗,少時便安。

    【AI譯文】

李用成上奏说:“现在只要给公主喂下药,公主的鼻端额角微微出汗,很快就能痊愈。”

    【AI 1】李用成は「今、公主に薬を服用させれば、鼻の先や額の角に軽く汗をかき、すぐに快方へ向かうでしょう」と上奏した。

    【AI 2】李用成はさらに奏上して、「いま薬を服用させれば、公主の鼻の先や額のあたりにうっすら汗がにじみ、すぐに回復するでしょう」と述べた。

其用成只以常服食藥加圓服之,公主少時略動,一行,即便惺惺,面仁廟言無事。

    【AI譯文】

他使用的方法是用平常服用的药物加上药丸服用,公主服用后不久身体稍微动了一下,动了一下,就清醒了,公主面向仁庙说没有事了。

    【AI 1】彼は通常の薬に加えて薬丸を使用し、公主が服用すると、間もなくわずかに体を動かし、すぐに意識を回復した。そして仁廟に向かい、「もう大丈夫です」と述べた。

    【AI 2】彼は通常の服用薬に加え、丸薬も合わせて投薬した。公主は服用後しばらくして、身体を少し動かしたかと思うと、そのまま意識を取り戻し、仁宗皇帝に向かって「もう大丈夫です」と述べた。

上喜之,批旨赴朝廷,與轉章服外,特賜宣補,禁中神醫也。

    【AI譯文】

皇帝很高兴,批示旨意让他到朝廷,除了转任章服外,还特别恩赐他宣补,他是宫中的神医。

    【AI 1】皇帝は非常に喜び、李用成に朝廷へ出仕するよう命じた。彼を章服へ転任させるだけでなく、特別に宣補を賜り、「宮中の神医」と称えた。

    【AI 2】皇帝は非常に喜び、李用成に朝廷に出仕するよう命じた。彼は衣冠を改める任(章服の転任)に加え、特別に「宣補(せんほ)」の恩典(地位の昇進)を賜った。宮中では「神医(しんい)」とまで称えられた。

時有識者議曰:若果是夾驚傷寒,豈轉下而卒能安也?

    【AI譯文】

当时有懂行的人议论说:“如果真的是夹惊伤寒,怎么可能一用泻下法就好了呢?”

    【AI 1】しかし、当時の医術に通じた者たちは疑問を抱いた。「もし本当に夹惊伤寒ならば、どうして瀉下法(排泄を促す治療)だけで治るのか?」と議論された。

    【AI 2】しかし当時の医に通じた者たちはこう噂していた。「本当に『驚きを伴う傷寒』だったとすれば、どうしてたった一度の瀉下(しゃげ=下す)で治るはずがあろうか? 

旣轉而安,正是傷飲食也。

    【AI譯文】

不久病情转而稳定,这正是饮食不当所伤(导致生病)的。

    【AI 1】まもなく公主の病状は安定し、それは実は飲食の不摂生によるものだった。

    【AI 2】その後、病状が安定したのは、単に飲食の不摂生が原因だったからだ。

大抵冷食傷胃,亦令人頭痛而壯熱。

    【AI譯文】

大概是因为冷食伤了胃,也会使人头痛、发热。

    【AI 1】冷たい食べ物が胃を傷め、それが頭痛や発熱の原因になったと考えられた。

    【AI 2】冷たいものを食べて胃を痛めれば、頭痛や発熱は当然起こる。」

用成之妄言,何動聖情,僥倖恩賜也。

    【AI譯文】

李用成的胡言乱语,怎么能惊动圣上的情绪,让他侥幸获得恩赐呢?

    【AI 1】李用成の適当な診断が皇帝を惑わせ、思いがけず恩賞を得たのだろう。

    【AI 2】「李用成のいい加減な診断が、どうして聖上(皇帝)の心を揺さぶり、あのような恩賞を得るに至ったのか。

噫!

    【AI譯文】

唉!

    【AI 1】嘆かわしいことに、

    【AI 2】ああ、

今之醫又故與前賢不同矣。

    【AI譯文】

现在的医生又和前代的名医不一样了。

    【AI 1】今の医者は昔の名医とは異なってしまった。

    【AI 2】今の医者は昔の名医たちとはまったく違う。

食官家之祿,職居禁廷,凡醫貴近,尚設機巧而罔昧一人,何况治民俗者哉?

    【AI譯文】

享用国家的俸禄,在宫廷任职,凡是医治地位尊贵的人,尚且会有各种心思和技巧,也不会欺瞒一个人,何况治理百姓呢?

    【AI 1】国家の俸禄を享受し、宮廷に仕える医者たちは、身分の高い人々に対しては細心の注意を払うが、民を診る際はどうなのだろうか、と人々は憂慮した。

    【AI 2】国家の俸禄を受け、宮廷に仕える身でありながら、身分ある者を診るときですらさまざまな打算や手練手管を用いている。たった一人の患者すら誠実に診ないとしたら、まして民を治療するなど到底できるものではない。」

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