銀匠下責 都料取鈎 銀匠は責を下し 都料は鉤を取る (銀匠・莫都料)
名醫録張成忠漢上人有女年七八歳因
將母金責子一隻剔齒含在口中不覺嚥
下入胷膈上不下疼痛數日醫工難治父
母憂惶更無措手忽有打銀匠來見云某
能治得明日方見効用藥某自俻來張成
忠云果救得小女奉贈二百千銀匠家少
時將到黒藥一包抄三錢許用米飲調令
女子服當夜便可疼天明上後看黒藥褁
金責子下來父母喜而召銀匠與二百千
相謝遂問銀匠覓此方匠者笑曰此方用
錢不多只能救急曰廼羊鋌搗爲末且後
有名醫詳曰羊鋌炭能鍜五金見炭更腹
中眞火發金遂軟而下也
【訓み下し】099-1
『名醫錄』:張成忠,漢の上(ほとり)の人。女(むすめ)有り,年七八歲,母の金責子一隻を將(も)って齒を剔(こそ)ぐに因って,含んで口中に在り。覺えず嚥下し,胸膈の上に入って下らず,疼痛すること數日なり。醫工 治し難し。父母 憂惶し,更に手を措くこと無し。忽ち打銀匠有り,來たって見て云う,「某(それがし) 能く治し得,明日方(まさ)に效を見ん。用藥 某自ら備えて來たる」。張成忠云う,「果して小女を救い得ば,二百千を奉贈す」。銀匠家 少時に將に到らんとす。黑藥一包,抄(すく)うこと三錢許(ばか)り,米飲を用いて調え,女子をして服(の)ましむ。當夜 便して疼(いた)む可し。天明上後,黑藥の金責子を裹んで下し來たるを看る。父母喜んで銀匠を召し,二百千を與えて相い謝す。遂に銀匠に問いて此の方を覓(もと)む。匠者笑って曰わく,「此の方 錢を用いること多からず。只だ能く救急するのみ」。曰わく,「廼ち羊鋌擣(つ)いて末と爲す」。且(しばら)くして後に名醫有って詳らかに曰わく,「羊鋌炭 能く五金を鍛(きた)う。炭を見れば,更に腹中の真火 金を發し,遂に軟らいで下るなり」。
【注釋】099-1
○名醫録:008-1を参照。 ○漢:河川名。大陸地區長江最長的支流。漢水。 ○上:邊側,旁邊。 ○歳:「歲」の異体字。 ○金責子:『醫說』作「金䥊子」。䥊:俗同錆。精也。/未詳。金属製のかんざし(簪)のような装飾品か。『本草綱目』羊の引用文では,金陵本および四庫本は「金饋子」に,ネットデータ中醫笈成 » 典籍 は「金鐀子」に,商務印書館活字本は「金鐶子」に作る。 ○隻:量詞:計算物體件數的單位。 ○剔齒:【剔牙】用尖細之物將牙齒縫隙中殘留的東西挑出。/剔:從縫隙中往外挑。 ○不覺:沒有發覺;沒有感覺。想不到;無意之間。不禁;不由得。 ○嚥下:吞下。 ○胷:「胸」の異体字。 ○膈:分隔動物體腔的膜狀組織。例如分隔胸腔與腹腔的膜狀肌肉,稱為「膈膜」、「橫膈膜」。 ○醫工:原為官名,指官醫。後泛指一般醫生。 ○憂惶:亦作「憂皇」。憂愁惶恐。 ○更:再、復。竟然、終於。 ○措手:著手處理、應付。【莫措手足】沒有主意,不知如何是好。考えがなくて、どうしたらいいか分からない。 ○忽:突然。 ○打銀匠:指專門從事銀飾品制作的手工藝人。 ○某:我,自稱之詞。 ○明日:次日。 ○方:才、始。正、適。將。 ○見効:發生效力。/効:「效」の異体字。 ○用藥:下藥,使用藥物。 ○俻:「備」の異体字。 ○果:假若、若是。確實、的確。 ○奉贈:贈送的敬辭。 ○二百千:AIによる解説:古典的な物語や契約文書などでは、「千文」「百千(=10万)」といった単位がよく登場します。これは、かつて中国で使われていた「銅銭(銅貨)」の単位に由来しており、「千文=1貫」などとされていました。よって、「二百千」は「二百貫」=20万文という金額を意味し、当時としてはかなり高額な報酬です。/貫:量詞。古代計算錢幣的單位。一千錢為一貫。 ○少時:片刻、不多時。 ○黒:「黑」の異体字。 ○抄:以匙或手拿取東西。 ○錢:量詞。計算重量的單位。 ○許:表示約略估計的數量。 ○米飲:米湯。 ○調:混合、配合。 ○服:吃、進食。『禮記』曲禮下:「醫不三世,不服其藥。」 ○當夜:即夜、那天夜晚。當天晚上。 ○便:排泄屎、尿。/『醫說』卷七・奇疾・誤吞金䥊:「來早大便取下」。 ○天明:天亮。 ○褁:「裹」の異体字。包羅、囊括。 ○謝:表示感激、酬答。 ○覓:尋求、尋找。 ○用錢:花錢。使用錢幣。 ○廼:「乃」の異体字。 ○羊鋌:即羊脛骨。『醫說』卷七・奇疾・誤吞金䥊:「乃羊脛炭一物為末爾」。/至於為什麼把羊脛骨稱鋌?或謂典出『左傳』文公十七年的「鋌而走險」。疾走稱鋌,故而脛骨又稱鋌。雖然這個解釋總難滿意,但嫌它不滿意而另找一個,又不可得。 ○搗:「擣」の異体字。舂、撞擊。 ○末:碎屑。 ○且:暫時。尚、還。 ○鍜:「鍛」の異体字。把金屬放在火裡燒,然後用錘子打。/將金屬放入火中燒紅,再用鐵錘搥打。/『說文解字』:「小冶也」。按,熔鑄金爲冶,以金入火焠而椎之爲小冶。 ○五金:五種金屬。金、銀、銅、鐵、錫(或鉛)。亦泛指各種金屬。亦泛指各種金屬製品。 ○更:愈甚、越發。再、復。改換、改變。 ○眞:「真」の異体字。
○『醫說』卷七・奇疾・誤吞金䥊:「張成忠,漢上人,有女七八歲,因將母金䥊子一隻剔齒,含在口中,不覺嚥下,胸膈疼不可忍,憂惶無措。忽銀匠來見,某有藥可療。歸取藥至。米飲抄三錢,令服,來早大便取下。後問之,乃羊脛炭一物為末爾。(『名醫錄』羊脛炭 亦治誤吞錢,妙)」
・明・李時珍『本草綱目』羊:「誤吞銅錢:羊脛骨燒灰,以煮稀粥食,神效。(『談野翁方』)」。
・清・莫枚士『研經言』第四卷・羊脛骨考:「宋・朱端章『衛生家寶・產科備要方』卷七追命散方,治婦人血症,方中有羊脛炭,云即炭中圓細緊實如羊脛骨者,取三四寸,卻作十餘段,別以著灰同燒通紅,淬入醇酒中,如此七遍,烘乾為末半兩。案『綱目』炭火、羊脛骨下,皆不載此方。獨『蘇沈良方』小兒吞鐵方,剝新炭皮為末,調粥服,炭屑裹鐵而下云云,與『談野翁方』誤吞銅鐵,以羊脛骨燒灰,煮稀粥食,神效云云正合。而『綱目』卷五十二,採談方乃入羊部,不云即炭。他書亦未有言羊脛骨如朱說者,則訛以傳訛久矣。」
識典古籍*******************************************************
名醫錄:張成忠,漢上人,有女年七八歲,因將母金責子一隻,剔齒含在口中,不覺嚥下入胸膈上不下,疼痛數日,醫工難治,父母憂惶,更無措手。
【AI譯文】
『名医录』记载:张成忠,是汉上(地区的人),他有个七八岁的女儿,因为把玩母亲的金钗,把它含在嘴里剔牙,不小心咽了下去,卡在胸膈之间不上不下,疼痛了好几天,医生难以治疗,父母忧愁惊慌,更是不知如何是好。
【AI 1】『名医録』には次のように記されています。漢上出身の張成忠には七、八歳の娘がいた。ある日、娘は母親の金のかんざしを遊びながら口にくわえて歯を掃除していたところ、不注意で飲み込んでしまい、それが胸に引っかかってしまった。上にも下にも動かず、数日間激しい痛みに苦しみ、医者も治療できなかった。両親は途方に暮れ、不安に陥った。
【AI 2】『名医録』にはこう記されている。張成忠(ちょうせいちゅう)は漢上(かんじょう/今の湖北省西部あたり)の人であった。彼の7~8歳になる娘が、母親の金のかんざしで遊んでいるうちに、それを口にくわえて歯の間を掃除していたところ、誤って飲み込んでしまった。それが胸と横隔膜の間に引っかかり、上にも下にも動かず、数日間も激しく痛んだ。医者でも治療できず、両親は心配と恐れでどうしてよいか分からなかった。
忽有打銀匠來見云:某能治得,明日方見效,用藥某自備來。
【AI譯文】
忽然有个打银匠前来求见,说道:‘我能治好,明天才能见到效果,用药我自己会带过来。’
【AI 1】すると、突然、一人の銀細工師が訪れ、「私が治せます。明日には効果が現れるでしょう。薬は私が持ってきます」と言った。
【AI 2】そんなとき、ひとりの銀細工師がやって来て面会を求め、「私が治せます。効果が出るのは明日ですが、薬はこちらで用意します」と言った。
張成忠云:果救得小女,奉贈二百千。
【AI譯文】
张成忠说:“如果能救我的女儿,我愿意奉上二百贯钱。”
【AI 1】張成忠は「娘を救ってくれるなら、二百貫を差し上げます」と答えた。
【AI 2】張成忠は、「もし娘の命を救ってくれたら、二百貫(=二十万文)の金を差し上げます」と言った。
銀匠家少時將到黑藥一包,抄三錢許,用米飲調,令女子服,當夜便可疼。
【AI譯文】
银匠家少年拿来一包黑药,取大约三钱,用米汤调和,让女子服下,当天夜里就会疼痛。
【AI 1】翌日、銀細工師の弟子が黒い薬を持ってきた。約三銭の分量を米の煮汁で溶かし、娘に飲ませた。その夜、娘は痛みに襲われたが、
【AI 2】銀細工師の家の若者が、一包みの黒い薬を持って来た。そこから約三銭(せん)分を取り、米のとぎ汁で混ぜて娘に飲ませると、その夜には激しい痛みが現れた。
天明上後,看黑藥褁金責子下來。
【AI譯文】
天亮以后,查看黑药包裹着的金骰子拿下来。
【AI 1】翌朝になると、薬の作用で金のかんざしが排出された。
【AI 2】翌朝、排出された薬の包みの中に、問題の金のかんざしが包まれて出てきた。
父母喜而召銀匠與二百千相謝。
【AI譯文】
他的父母非常高兴,就叫来银匠,给了他两百千钱作为酬谢。
【AI 1】両親は歓喜し、銀細工師を呼び、報酬として二百千銭を渡した。
【AI 2】両親は大変喜び、銀細工師を呼んで二百千(にじゅっせん=二万文)の金を謝礼として渡した。
遂問銀匠覓此方。
【AI譯文】
于是向银匠寻找这个药方。
【AI 1】そこで、張成忠は銀細工師にその薬の処方を尋ねた。
【AI 2】張成忠はこの薬の処方を尋ねると、
匠者笑曰:此方用錢不多,只能救急。
【AI譯文】
工匠笑着说:“这个药方花费不多,只能救急。”
【AI 1】工匠は笑いながら答えた。「これは簡単な処方であり、緊急の対処にすぎません。」
【AI 2】工匠は笑ってこう言った。「この薬は金もそれほどかからず、急場をしのぐだけのものです。」
曰:乃羊鋌搗爲末。
【AI譯文】
他说:‘用公羊的阴茎捣成末。’
【AI 1】そして説明した。「公羊の陰茎を粉末にしたものを使います。」
【AI 2】彼が言うには、「これは公羊の陰茎を粉にしたものです」と。
且後有名醫詳曰:羊鋌炭,能鍜五金,見炭更腹中真火發,金遂軟而下也。
【AI譯文】
并且后来有一位名医详细地说:‘羊铤炭,能够熔炼五金,见到羊铤炭后,肚子里的真火发作,五金就变软流下来了。’
【AI 1】さらに、後日、名医がこの治療について詳しく述べた。「羊の骨炭(羊铤炭)は金属を溶かす力がある。羊骨炭を服用すると、体内の熱が活性化し、金属が柔らかくなり流れ出るのだ」と。
【AI 2】後にある名医がこの件を詳しく解説してこう言った。「羊の陰茎を炭にしたもの(羊铤炭)は五金(金属類)を溶かす作用があり、これを体に入れると腹中の“真火”が反応し、金属が柔らかくなって体外に排出されるのです。」
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