李醫何功 飲子有福 李醫に何の功かあらん 飲子に福有り (李醫・王生・賣飲子者)
夷堅志李醫者忘其名撫州人醫道大行
崇仁縣有冨民病詣郡邀李治之約病愈
當以錢五百貫爲謝李拯療旬日不少差
乃謁病者之子求去諭以別呼醫且曰臨
川他醫不可用獨王生可耳時王李名相
甲乙皆良醫也病者家亦以李乆留不効
喜其辝李㱕未半道逢王醫李以曲折告
王曰兄猶不能治吾伎出兄下逺甚今往
無益不如俱歸李曰不然吾得其脉甚精
處藥甚當然主人疾不愈者自度運窮不
當得謝錢尓故告辝公但一往吾所用藥
今尚有之以與公只以此治之必愈王素
敬重李如其戒既具病悉用李藥微易湯
使三日有瘳冨家以五百緍謝遣之王不
敢獨擅今進其半李力辝曰吾不應得此
故主人病不愈今之所以愈公力也吾何
功公治疾而吾受謝必不可王不能強
【訓み下し】077-1
『夷堅志』:李醫なる者,其の名を忘る,撫州の人なり。醫道 大いに行なわる。崇仁縣に富民の病む有り,郡に詣(いた)って,李を邀(むか)えて之を治せしむ。病愈ゆれば,當に錢五百貫を以て謝と爲すべきことを約す。李 拯(すく)い療すること旬日,少しも差(い)えず。乃ち病者の子に謁(つ)げて,去ることを求め,以て別に醫を呼ばんことを諭(さと)す。且つ曰わく,「臨川の他醫は用ゆ可からず,獨り王生のみ可なるのみ」。時に王と李の名相い甲乙し,皆な良醫なり。病者の家も亦た李を以て久しく留めて効あらざれば,其の辭(ことば)を喜ぶ。李 歸ること未だ半(なか)ばならずして,道に王醫に逢う。李 曲折を以て告ぐ。王曰わく,「兄すら猶お治すること能わざるがごとし。吾が伎(わざ)の兄の下に出づること遠く甚だし。今ま往くも益無し,俱に歸るに如(し)かず」。李曰わく,「然らず。吾れ其の脉を得ること甚だ精しく,藥を處すること甚だ當たる。然れども主人の疾(やまい)の愈えざる者は,自ら度(はか)るに運窮(きわ)まり,當に謝錢を得べからざるのみ。故に辭するを告ぐ。公 但だ一たび往きて,吾が用いる所の藥,今ま尚お之れ有り,以て公に與う。只だ此れを以て之を治せば,必ず愈えん」。王 素(もと)より李を敬い重んずれば,其の戒の如くす。既に病を具〔『夷堅志』「具」作「見」〕,悉く李の藥を用い,微かに湯を易え,三日を使って〔『夷堅志』「使」作「閲」(閲(へ)て)〕瘳(い)ゆる有り。富家 五百緡の謝を以て之に遣(つか)わす。王 敢えて獨り擅(ほしいまま)にせず,今ま其の半ばを進(たてまつ)る。李力(つと)めて辭(こと)わって曰わく,「吾れ應(まさ)に此れを得べからず。故は主人の病愈えざればなり。今の愈ゆる所以は,公の力なり。吾れに何の功あらん。公 疾を治し,而るに吾れ謝を受くるは,必ず可ならず」。王 強いること能わず。
【注釋】077-1
○夷堅志:044を参照。 ○撫州:隋於臨川郡置。時總管楊武通奉使安撫。因以撫爲州名。尋廢。唐復置。改曰臨川郡。尋復曰撫州。宋曰撫州臨川郡。元爲撫州路。明曰撫州府。清因之。民國廢。故治卽今江西臨川縣。 ○醫道:醫術。治病的本領。如:「醫道高明」。 ○大行:廣為推行;普遍流行。/行:實施、實行。 ○崇仁縣:隋幷新建、巴山、西寧三縣置。明清皆屬江西撫州府。今屬江西豫章道。明呉與弼爲崇仁人。傳其學者稱崇仁學派。 ○冨民:富裕之民。/冨:「富」の異体字。 ○詣:到、前往。 ○邀:招請、約請。 ○約:協議、預先說定。 ○貫:量詞。古代計算錢幣的單位。一千錢為一貫。 ○拯:援救、救助。 ○療:醫治。如:「治療」、「診療」。 ○旬日:十天。亦指較短的時日。 ○不少:毫無。 ○差:病癒。通「瘥」。 ○謁:稟告、說明。 ○諭:告知、曉喻。表明。 ○呼:招、喚。 ○臨川:臨川郡。三國呉置。治臨汝。在今江西臨川縣西。南齊徙治南城。卽今南城縣治。陳復還故治。隋唐均置撫州於此。宋亦爲撫州臨川郡。 ○時:當時,這時,那時 [then;at that time]。 ○名:聲譽。如:「盛名」、「令名」。 ○相:彼此,強調雙方比較後的差異。 ○甲乙:評定優劣。比並;相屬。引申為稱譽,贊揚。 ○良醫:醫術精湛的醫生。醫道高明的醫生。 ○病者:有病的人;衰弱的人。 ○乆:「久」の異体字。 ○不効:不成功、不見成效。沒有效果。 ○辝:「辭・辞」の異体字。告知。同「詞」。 ○㱕:「歸・帰」の異体字。 ○半道:半路,中途。 ○曲折:事物的隱情。委曲,詳細情況。 ○兄:用以尊稱同輩中比自己年紀大的男性。朋友間相互的敬稱。 ○伎:技藝、才能。通「技」。 ○逺:「遠」の異体字。 ○不如:比不上。及ばない,かなわない。 ○俱:偕、同、一起。 ○不然:否定對方所說的話。 ○甚:很,極。 ○精:細致,精密。精通 [proficient]。 ○處:安頓、安排。辦理。 ○當:適合、相稱。 ○自度:自我揣量、忖度。 ○運:氣數、命中註定的遭遇。如:「命運」、「好運」。 ○窮:終極、盡頭。 ○謝錢:酬謝的禮金。 ○尓:「爾」の異体字。而已,罷了(亦作「耳」)。 ○告辝:告別,辭行。 ○一往:一行,指奔走一次。 ○素:平日的。 ○敬重:恭敬尊重。 ○戒:警告、勸導。 ○具:『夷堅志』作「見」。 ○微:稍、略。少。 ○易:改變。 ○湯:藥材加水煎熬成的汁液。如:「湯劑」、「湯藥」。 ○使:『夷堅志』作「閲」。經歷。 ○瘳:病癒。 ○冨家:富裕之家,有錢人家。 ○緍:「緡」の異体字。成串的錢。 ○謝:表示感激、酬答。酬謝 [thank sb. with a gift]。 ○遣:發送;打發 [send;dismiss]。之王不敢 ○獨擅:獨自據有;獨攬,獨自壟斷。 ○進:呈獻、奉上。 ○力: 盡力,竭力。 ○辝:推卻、不接受。 ○應得:猶應當;應該。 ○故:原因、根由。因此、所以。 ○力:能力 [ability;capability]。 ○何功:【何功之有】哪裡有什麼功勞、效用呢。反問語氣,表示沒有什麼功勞。 ○強:迫使、使用強力。
○『夷堅甲志』卷第九・王李二醫:李醫者,忘其名,撫州人。醫道大行,十年間,致家貲巨萬。崇仁縣富民病,邀李治之,約以錢五百萬為謝。李□療旬日,不少差,乃求去,使別呼醫,且曰:他醫不宜用,獨王生可耳。時王李名相甲乙,皆良醫也。病者家亦以李久留不效,許其辭。李留數藥而去。歸未半,道逢王醫。王詢李所往,告之故。王曰:兄猶不能治,吾伎出兄下遠甚。今往無益,不如俱歸。李曰:不然。吾得其脈甚精,處藥甚當。然不能成功者,自度運窮,不當得謝錢耳,故告辭。君但一往,吾所用藥,悉與君。以此治之,必愈。王素敬李,如其戒。既見病者,盡用李藥,微易湯,使次第以進。閱三日有瘳。富家大喜,如約謝遣之。王歸郡,盛具享李生。曰:崇仁之役,某略無功,皆兄之教。謝錢不敢獨擅,今進其半為兄壽。李力辭〔一作「詞」〕,曰:吾不應得此,故主人病不愈。今之所以愈,君力也。吾何功?君治疾而吾受謝,必不可。王不能強。他日以餉遺為名,致物幾千緡,李始受之。二醫本出庸人,而服義重取予如此,士大夫或有所不若也。今相去數十年,臨川人猶喜道其事。
識典古籍*******************************************************
夷堅志:李醫者,忘其名,撫州人,醫道大行。崇仁縣有富民病,詣郡邀李治之,約病愈,當以錢五百貫爲謝。
【AI譯文】
『夷坚志』记载:有个姓李的医生,忘记了他的名字,是抚州人,医术高明。崇仁县有一个富人病了,到郡城请李医生为他治病,约定病好以后,用五百贯钱作为酬谢。
【AI 1】『夷堅志』によると、ある姓李の医者(名は不詳)が抚州の出身で、優れた医術を持っていた。崇仁県のある富豪が病にかかり、郡城へ赴いて李医者を招き、治療が成功した暁には五百貫の謝礼を支払うと約束した。
【AI 2】『夷坚志』によると、李姓の医者がいたが、名前は忘れられてしまっている。その医者は抚州(ふしゅう)出身で、医術が非常に優れていた。崇仁県に住む裕福な人が病気になり、李医師を郡城に呼んで治療を頼んだ。病気が治った後、500貫の報酬を支払うことを約束した。
李拯療旬日,不少差,乃謁病者之子求去,諭以别呼醫,且曰:臨川他醫不可用,獨王生可耳。
【AI譯文】★以下,AI2は「拯」を李の名と誤解して訳している。
李拯给病人治疗了十天,没有一点好转,于是拜见病人的儿子请求离开,告诉(他)另外去请医生,并且说:‘临川的其他医生不可用,只有王生可以。’
【AI 1】しかし、李医者が十日間治療を施しても症状は改善しなかった。そこで彼は病人の息子に別れを告げ、他の医者を頼るよう勧めた。そして「臨川の他の医者では治せない。唯一、王生だけが適任だ」と伝えた。
【AI 2】李拯(りちょう)は病人を10日間治療したが、まったく回復の兆しが見られなかった。そのため、病人の息子に会って、離れることを願い出て、他の医者を呼ぶように言った。そして、「臨川の他の医者は使えません。王生(おうせい)だけが適しています。」と言った。
時王、李名相甲乙,皆良醫也。
【AI譯文】
当时王、李两位名医并称,都是医术高超的人。
【AI 1】当時、王生と李医者は並び称される名医であった。
【AI 2】その当時、王生と李拯は名医として並び称されており、どちらも非常に優れた医術を持っていた。
病者家亦以李久留不效,喜其辭李。
【AI譯文】
病人的家属也因为李某长时间治病却没有效果,(于是)对他辞别感到高兴。
【AI 1】病人の家族は長期間治療を受けても回復しないため、李医者の申し出に安堵した。
【AI 2】病人の家族は、李拯が長期間治療しても効果がなかったため、彼が去ることを喜んだ。
歸未半道逢王醫,李以曲折告王曰:兄猶不能治,吾伎出兄下遠甚,令往無益,不如俱歸。
【AI譯文】
回来走到半路遇到王医生,李生把事情的经过告诉王医生说:‘兄长您尚且不能医治,我的医术比兄长差得远,现在前去也没有益处,不如一起回去。’
【AI 1】李医者は帰途の途中で王医者に出会い、これまでの経緯を説明した。「兄上ですら治療できなかったのですから、私の医術ではなおさら無理でしょう。行っても無駄なので、一緒に帰りましょう」と提案した。
【AI 2】李拯は帰路の途中で王生に出会い、事情を話し、「兄上でさえ治療できなかったのだから、私の技術は兄上には遠く及ばず、今行っても効果はありません。むしろ一緒に帰った方がよいのではないでしょうか。」と言った。
李曰:不然,吾得其脉甚精,處藥甚當。
【AI譯文】
李生说:‘不是这样的,我把他的脉象看得非常精准,开的药也非常恰当。’
【AI 1】しかし李医者は続けて、「違います。私は病人の脈を正確に診断し、処方した薬も適切でした。
【AI 2】李拯は続けて言った:「そうではありません。私は彼の脈を非常に正確に診ており、出した薬も非常に適切でした。
然主人疾不愈者,自度運窮,不當得謝錢尔,故告辭。
【AI譯文】
然而主人的病没有痊愈的原因,是我自己揣度命运困窘,不应当得到酬谢的钱财罢了,所以前来告辞。
【AI 1】にもかかわらず病が治らなかったのは、私が金銭を受け取るべき運命でなかったためです。それゆえ、病人の回復を見届けずに去ることにしました。
【AI 2】しかし、主人の病気が治らなかったのは、私自身の運命が困窮していて、報酬を受け取るべきではなかったからです。ですから、今ここで辞退するのです。」
公但一往,吾所用藥今尚有之,以與公,只以此治之,必愈。
【AI譯文】
您只管去一趟,我所使用的药现在还有,我把药给您,您就用这个来治疗,必定痊愈。
【AI 1】今も薬は残っていますので、あなたがこの薬を使えば必ず治るでしょう」と言った。
【AI 2】「あなたはそのまま一度行ってください。私が使った薬はまだ残っていますので、その薬をお渡しします。それを使って治療すれば、必ず回復します。」
王素敬重李,如其戒。
【AI譯文】
王素一向敬重李,按照他的告诫做了。
【AI 1】王医者は李医者を深く敬っていたため、その助言に従い、
【AI 2】王生はもともと李拯を敬愛しており、彼の助言に従って行動した。
旣具病,悉用李藥,微易湯,使三日有瘳。
【AI譯文】
已经查明病症后,全都使用李医生的药,稍微改变了药剂,使病人三天就有了好转。
【AI 1】診断を行った。そして李医者の処方を用い、わずかに調合を変えて治療した結果、病人は三日後に回復した。
【AI 2】王生は病状を確認し、李医師の薬を使用したが、薬の成分を少し変更した。すると、わずか三日で病人の状態が改善した。
富家以五百緍謝遣之,王不敢獨擅,今進其半。
【AI譯文】
富户人家用五百缗钱酬谢打发他,王生不敢独自占有,现在进献其中的一半。
【AI 1】富豪は約束通り五百缗の謝礼を王医者に贈ったが、王医者はこれを独り占めするのを恐れ、その半分を李医者に渡そうとした。
【AI 2】富豪の家は500貫で報酬を支払おうとしたが、王生は一人でそれを受け取ることはできず、その半分を李拯に進呈した。
李力辭曰:吾不應得此,故主人病不愈。
【AI譯文】
李力推辞说:‘我不应该得到这笔钱,所以主人生病不能痊愈。’
【AI 1】しかし、李医者は固く拒み、「私はこの金銭を得るべきではなかった。そのため、病人の病は治らなかったのです。
【AI 2】李拯はそれを強く辞退し、「私はこのお金を受け取るべきではありません。ですので、主人の病気が治らなかったのは私の責任です。
今之所以愈,公力也,吾何功。
【AI譯文】
现在能够痊愈,是您的功劳,我有什么功劳呢?
【AI 1】今、病が癒えたのはあなたの功績であり、私は何の手柄もありません。
【AI 2】今、病気が治ったのは全てあなたの功績です。私には何の功績もありません。
公治疾而吾受謝,必不可。
【AI譯文】
您给他治疗疾病,而我却接受了谢礼,这是绝对不行的。
【AI 1】あなたが治療したのに、私が謝礼を受けるなど、決して許されません」と述べた。
【AI 2】あなたが治療をしたのですから、私は謝礼を受け取るべきではありません。」と言った。
王不能強。
【AI譯文】
王无法使他改变主意。
【AI 1】王医者はどうしても彼の考えを変えることができなかったという。
【AI 2】しかし、王生は李拯の考えを変えさせることができなかった。
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