2019年8月27日火曜日

『医宗金鑑』巻八十六 刺灸心法要訣の奇穴

『医宗金鑑』巻八十六 刺灸心法要訣


乾隆7[1742]
巻1-90 / 呉謙 [ほか]奉勅纂修

資料:早稲田大学図書館 古典籍総合データベース
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ya09/ya09_00595/ya09_00595_0062/ya09_00595_0062.html

○灸難産穴歌
横逆難産灸奇穴、
婦人右脚小指尖、
炷如小麦灸三壮、
下火立産効通仙、

【注】
 婦人横産、子手先出、諸符薬不効者、灸此、
 其穴在右脚小指爪甲外側尖上、即至陰穴也、
 灸三壮、艾炷如小麦、下火立産、

 ◎灸難産穴図
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○鍼子戸穴歌
子戸能刺衣不下、
更治子死在腹中、
穴在関元右二寸、
下鍼一寸立時生、

【注】
 胞衣不出、子死腹中、宜刺子戸穴、鍼入一寸、
 其穴在任脈経之関元穴傍右二寸、

 ◎鍼子戸穴図
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○灸遺精穴歌
精宮十四椎之下、
各開三寸是其郷、
左右二穴灸七壮、
夜夢遺精効非常、

【注】
 遺精灸精宮穴、其穴在脊之十四椎下、
 左右傍開各三寸、灸七壮、

 ◎灸遺精穴図
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○灸癆虫穴歌
鬼眼一穴灸癆虫、
墨点病人腰眼中、
択用癸亥亥時灸、
勿令人知法最霊、

【注】
 労瘵日久不癒、互相伝染、因内有労虫、宜灸鬼眼穴、
 穴在腰間両旁、正身直立、有微隠処、用墨点記、
 合面而臥、以小艾炷灸七壮、或九壮十一壮、
 多寡量人、虫即吐瀉而出、急取焼毀遠棄、可免復伝、
 択癸亥日夜半、六神皆聚、亥時灸之、勿使病人預知、
 恐尸神有覚也、

 ◎灸癆虫穴図
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○灸痞根穴歌
十二椎下痞根穴、
各開三寸零五分、
二穴左右灸七壮、
難消痞塊可除根、

【注】
 痞塊灸痞根穴、其穴在脊之十二椎下、旁開三寸半、
 痞塊多在左則灸左、在右則灸右、如左右倶有、
 左右倶灸之、

 ◎灸痞根穴図
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○灸肘尖穴歌
肘尖端処是奇穴、
男女瘰癧堪灸也、
左患灸右右灸左、
並灸風池効更捷、

【注】
 肘尖奇穴灸瘰癧、左患灸右、右患灸左、
 如初起時、男先灸左、女先灸右、兼灸風池穴尤効、
 風池穴在脳後顳顬穴後、髪際陥中、

 ◎灸肘尖穴図
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○灸鬼哭穴歌
中悪振噤鬼魅病、
急灸鬼哭神可定、
両手大指相並縛、
穴在四処之騎縫、

【注】
 鬼哭穴、灸鬼魅狐惑、恍惚振噤等証、
 取穴、将両手大指相並縛定、
 用艾炷於両甲角反甲後肉四処騎縫、
 著火灸之、則患者哀告我自去為効、

 ◎灸鬼哭穴図
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○灸中悪穴歌
尸疰客忤中悪病、
乳後三寸量準行、
男左女右艾火灸、
邪祟駆除神自寧、

【注】
 灸尸疰、客忤、中悪等証、
 其穴在乳後三寸、男左女右灸之、

 ◎灸中悪穴図
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○灸疝気穴歌
疝気偏墜灸為先、
量口両角折三尖、
一尖向上対臍中、
両尖下垂是穴辺、

【注】
 灸疝痛偏墜奇穴法、用稈心一条、
 量患人口両角為則、折為三段如△字様、
 以一角安臍中心、両角安臍下両傍、尖尽処是穴、
 左患灸右、右患灸左、左右倶患、左右倶灸、
 艾炷如粟米大、灸四壮、

 ◎灸疝気穴図
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○灸翻胃穴歌
翻胃上下灸奇穴、
上在乳下一寸也、
下在内踝之下取、
三指稍斜向前者、

【注】
 灸翻胃奇穴、上穴在両乳下一寸、
 下穴在内踝下用手三指稍斜向前排之、
 即是穴也、

 ◎灸翻胃穴図
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○灸腸風穴歌
腸風諸痔灸最良、
十四椎下奇穴郷、
各開一寸宜多灸、
年深久痔効非常、

【注】
 灸腸風諸痔奇穴、
 其穴在脊十四椎下、傍各開一寸、
 年深者、灸之最効、

 ◎灸腸風穴図
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○灸暴絶穴歌
鬼魘暴絶最傷人、
急灸鬼眼可回春、
穴在両足大指内、
去甲韭葉鬼難存、

【注】
 凡一切鬼魘暴絶、当灸奇穴、
 在足両大指内、去爪甲如韭葉許、名鬼眼穴、
 灸之則鬼邪自去、而病可癒也、

 ◎灸暴絶穴図
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○灸鬼眼穴歌
腫満上下灸奇穴、
上即鬼哭不用縛、
下取両足第二指、
指尖向後寸半符、

【注】
 灸腫満奇穴、上穴即両手大指縫、鬼哭穴也、
 下穴在両足第二指指尖向後一寸五分、即是也、

 ◎灸鬼眼穴図
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○灸贅疣穴歌
贅疣諸痣灸奇穴、
更灸紫白二癜風、
手之左右中指節、
屈節尖上宛宛中、

【注】
 灸癜風及贅疣諸痣奇穴、
 其穴在左右手中指節宛宛中、俗名拳尖是也、

 ◎灸贅疣穴図
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○灸瘰癧穴歌
瘰癧隔蒜灸法宜、
先従後発核灸起、
灸至初発母核止、
多着艾火効無匹、

【注】
 瘰癧隔蒜灸法、用独蒜片先従後発核上灸起、
 至初発母核而止、多灸自効、

 ◎灸瘰癧穴図
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○灸腋気歌
腋気除根剃腋毛、
再将定粉水調膏、
塗搽患処七日後、
視有黒孔用艾焼、

【注】
 凡腋気先用快刀剃去腋毛浄、乃用好定粉水調搽患処、
 六七日後、看腋下有一点黒者、必有孔如鍼大、
 或如簪尖、即気竅也、
 用艾炷如米大者灸之、三四壮愈、永不再発、

 ◎灸腋気図
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○灸瘋犬咬傷歌
瘋犬咬傷先須吮、
吮尽悪血不生風、
次於咬処灸百壮、
常食炙韭不須驚、

【注】
 瘋犬咬傷之処、急急用大嘴砂酒壷一個、内盛乾焼酒、
 燙極熱、去酒以酒壷嘴向咬処、如抜火缶様、
 吸尽悪血為度、擊破自落、
 上用艾炷灸之、永不再発、
 炙韭、炒韭菜也、


○灸蛇蠍蜈蚣蜘蛛咬傷歌
蛇蠍蜈蚣蜘蛛傷、
即時疼痛最難当、
急以傷処隔蒜灸、
五六十壮効非常、

【注】
 凡蛇、蠍、蜈蚣、蜘蛛咬傷、痛急勢危者、
 急用艾火於傷処灸之、抜散毒気即安、
 或用独蒜片隔蒜灸之、二三壮換一片、
 毒甚者、灸五六十壮、

2019年8月25日日曜日

『奇効良方』(董宿、1471年)の奇穴

『奇効良方 巻之五十五 鍼灸門(附論)

 董宿 1471年

〔奇穴〕

○内迎香 二穴、在鼻孔中、治目熱暴痛、用芦管子搐出悪血、効、
○鼻準 一穴、在鼻柱尖上、是穴専治鼻上生酒酢風、宜用三稜鍼出血、立効、
○耳尖 二穴、在耳尖上、巻耳取之、尖上、是穴治眼生翳膜、宜灸七壮、不宜灸多、
○聚泉 一穴、在舌上、当舌中、吐舌出直者、有縫陥中、是穴治哮喘咳嗽、及久嗽不癒、若灸則不過七壮、灸法用生薑薄切一片搭於舌上穴中、然後灸之、如熱嗽、用雄黄末少許、和於艾炷中灸之、如冷嗽、用款冬花為末、和於艾炷中灸之、灸畢、以茶清連生薑細嚼嚥下、又治舌胎舌強、亦可治用小鍼出血、穴在舌上、当舌中、吐舌出有直縫陥中是穴也、
○左金津右玉液 二穴、在舌下両傍紫脈上、是穴捲舌取之、治重舌腫痛喉閉、用白湯煮三稜鍼出血、
○海泉 一穴、在舌下中央脈上、是穴治消渇、用三稜鍼出血、
○魚腰 二穴、在眉中間、是穴治眼生垂簾翳膜、鍼入一分、沿皮向両傍是也、
○太陽 二穴、在眉後陥中、太陽紫脈上、是穴治眼紅腫及頭、宜用三稜鍼出血、出血之法、用帛一条、緊纏其項、紫脈即見、刺見血立愈、又法以手緊扭其領、令紫脈見、却於紫脈上刺見血、立愈、
○大骨空 二穴、在手大指中節上、屈指当骨尖陥中、是穴治目久痛、及生翳膜内障、可灸七壮、
○中魁 二穴、在中指第二節骨尖、屈指得之、治五噎反胃吐食、可灸七壮、宜瀉之、
○八邪 八穴、在手五指岐骨間、左右手各四穴、
 其一大都 二穴、在手大指次指虎口、赤白肉際、握拳取之、可灸七壮、鍼入一分、治頭風牙痛、
 其二上都 二穴、在手食指中指本節岐骨間、握拳取之、治手臂紅腫、鍼入一分、可灸五壮、
 其三中都 二穴、在手中指無名指本節岐骨間、又名液門也、治手臂紅腫、鍼入一分、可灸五壮、
 其四下都 二穴、在手無名指小指本節岐骨間、一名中渚也、中渚之穴、本在液門下五分、治手背紅腫、鍼入一分、可灸五壮、
 両手共八穴、故名八邪、
○八風 八穴、在足五指岐骨間、両足共八穴、故名八風、治脚背紅腫、鍼入一分、可灸五壮、
○十宣 十穴、在手十指頭上、去爪甲角一分、毎一指各一穴、両手指共十穴、故名十宣、治乳蛾、用三稜鍼出血、則大効矣、
○五虎 四穴、在手食指及無名指第二節骨尖、握拳得之、治五指拘攣、可灸五壮、両手共四穴也、
○肘尖 二穴、在手肘骨尖上、是穴屈肘得之、治瘰癧、可灸七壮、
○肩柱骨 二穴、在肩端起骨尖上、是穴大治瘰癧、及治手不能挙動、可灸七壮、
○二白 四穴、即郄門也、在掌後横紋中、直上四寸、一手有二穴、一穴在筋内両筋間、即間使後一寸、一穴在筋外、与筋内之穴相並、治久痔脱肛、
○独陰 二穴、在足第二趾下横紋中、是穴治小腸疝気、又治死胎、胎衣不下、可灸五壮、又治女人乾噦嘔吐、又治経血不時、
○内踝尖 二穴、在足内踝骨尖上、是穴可灸七壮、治下片牙疼、及脚内廉転筋、
○外踝尖 二穴、在足外踝骨尖上、是穴可灸七壮、治脚外廉転筋、及治寒熱脚気、宜用三稜鍼出血、
○嚢底 一穴、在陰嚢十字紋中、治腎臓風瘡、及小腸疝気、腎家一切証候、悉皆治之、可灸七壮、艾炷如鼠矢大、
○鬼眼 四穴、在手大拇指去爪甲角如韭葉、両指並起、用帛縛之、当両指岐縫中、是穴又二穴、在足大趾、取穴亦如在手者同、治五癇等証、当正発時灸之、大効矣、
○体骨(體骨一本作髖骨) 四穴、在梁丘両傍、各開一寸五分、両足共四穴、治腿疼、可灸二七壮、
○四縫 四穴、在手四指内中節、是穴用三稜鍼出血、治小児猢猻労等証、
○中泉 二穴、在手背腕中、在陽渓陽池中間陥中、是穴可灸二七壮、治心痛、及腹中諸気痛不可忍者、
○四開 四穴、合谷並行間、是穴手足共四穴、

※ 資料:臨床鍼灸古典全書(オリエント出版)
 国立公文書館内閣文庫所蔵(305函82号)。
 明・成化7年(1471)序刊。
 奇穴資料は原本69巻25冊中の第19冊(巻55、巻56所収)の前半部分。
 底本は吉田意庵旧蔵・多紀氏旧蔵本。

2019年8月10日土曜日

曲直瀬道三と永田徳本


今日8/10は島田先生の命日です。

合宿の大八木さんの映像とナレーション、よかったです。
曲直瀬道三と永田徳本は足利学校で会っていたかどうかはわかりませんが、想像の世界をふくらましてくれました。

「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)でダウンロードしてチェックしました。
『大菩薩峠』(中里介山)40巻、全文まとめたテキストです。
 ダウンロード資料(10MB) ↓
試しに「道三」「三喜」「徳本」で検索してみて下さい。

2019年7月10日水曜日

『銅人指要賦』

冒頭:
行鍼之士。要辨浮沉。 
脈明虛實。鍼別淺深。 
經脈絡脈之別。巨刺繆刺之分。
經絡閉塞須用砭鍼疏導藏府寒溫必明淺深補瀉。
經氣之正。自有常數。 
漏水百刻。五十度周。
經絡流注。各應其時。 
先脈訣病。次穴蠲疴。 
……
(鍼を行なうの士は、浮沈を辨ずるを要す。
脈は虚実を明らかにし、鍼は浅深を別かつ。
経絡・絡脈 之を別かち、巨刺・繆刺 之を分かつ。
經絡閉塞須用砭鍼疏導藏府寒溫必明淺深補瀉。
経気の正に、自ら常数有り。
漏水の百刻、五十度周る。
経絡の流注、各々其の時に応ず。
先ず脈もて病を訣〔=決〕し、次に穴もて疴〔ヤマイ〕を蠲〔ノゾ〕く。)
……


「經絡閉塞須用砭鍼疏導藏府寒溫必明淺深補瀉」については、少なくとも二つの句讀があります。
A:經絡閉塞。須用砭鍼。疏導藏府。寒溫必明。淺深補瀉。
B:經絡閉塞。須用砭鍼疏導。藏府寒溫必明。淺深補瀉。

どなたか、訓読あるいは現代語訳をしていただけないでしょうか。
要するに、どちらが妥当か(あるいは別の句切りがあるか)、ご意見をうかがいたいのですが。

2019年6月30日日曜日

貝原益軒『養生訓』の冬の按摩の禁忌について

 家の本棚にあった『養生訓』(講談社学術文庫)を久しぶりに手に取り見ていた。
 第五巻 五官に、冬の按摩について「禁忌」と書いてあった。
 「気がよく循環して快適なときは、導引や按摩をしてはいけない。また冬期の按摩はよくないことが『内経』に書いてある。……」
 はたして『内経』にそんなこと書いてあるのか。疑問になり、調べてみた。

 その前に国会図書館の近代デジタルライブラリーにある『養生訓』のいくつかを見てみた。
 「気のよくめぐりて快き時に、導引按摩すべからず。又冬月按摩を忌む事、内経に見えたり。身を労働して気上る病には、導引按摩ともにあしし。只身をしづかに動かし歩行する事は、四時ともによし。……」
 結果、どれも同じ。

 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1174137/101
 6行目
『益軒十訓. 下』
出版者 有朋堂書店
出版年月日 昭2

 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1903897/101
『養生訓』
出版者 聖山閣書店
出版年月日 1926

 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1193128/62
『養生訓』
出版者 斎藤報恩会
出版年月日 昭和8

 いずれの本でも禁忌である。

 『内経』の引用している箇所は、『素問』金匱真言論篇第四である。
 「冬不按蹻.春不鼽衄.春不病頚項.」
 (冬に按蹻せざれば、春に鼽衂せず、春に頸項を病まず)

 森立之は『素問攷注』で、次のように述べている。

・案。「不」字古人語助。「不按蹻」者按蹻也。
・案。冬時按蹻。令血脈流通。則風邪無來侵之地。「春不鼽衄」者血氣無凝滯之徴。「春不病頸項」者外邪不來犯之謂也。
・案。上文云「病在頭」。此云「病頸項」。異文同義。蓋「病頸項」者即春病温之義。

 つまり「不」は助詞であり、按摩をしなければ、ではなく、按摩をすれば、の意味だと。

 『漢字海』(三省堂)の「不」の字を見てみると、助詞の用例として次の解説がある。
 「〈助〉:文のリズムを整えることば。文中に置き、実質的な意味はない。
  例、有周不顕。(ゆうしゅうハあきラカナリ)
  訳、周(の徳)は明らかである(詩・大・文王)」

 冬に按摩をすれば血脈の流れがよくなり、風邪に侵されない、というわけである。
 納得。冬の按摩の禁忌は、貝原益軒の誤りであることがわかった。

2019年6月20日木曜日

季刊内經 No.215 2019年夏号

季刊内經No.215を発行、発送しました。届いていない方は、事務局までご連絡ください。
過去号の索引を今回の最新号まで更新しましたので、そちらもご利用ください。

季刊内經 No.215 2019年夏号
項目題名執筆者
21502巻頭言灸愛行動 ~絶滅危惧を救え~鈴木幸次郎
21504翻字資料『仮名読十四経治方』(2)荒川緑
21526講義採録中医学における四大経典銭超塵(土山絵里佳)
21540報告祝!ダブル受賞小宮山乃輔
21542医蹟訪問湯本求真先生顕彰碑米谷和輝
21545随筆「経脈という幻想・妄想」について田中芳二
21547連載受講の折々⑨ 黄帝への素描大八木剛夫
21558コラム時間を経験に石丸直美
21561報告書庫の引越し小宮山乃輔
21567末言なんで先祖が……神麹斎

2019年5月24日金曜日

東豊書店が閉店セール中

https://www.senjutsu.jp/archives/2019/6331
https://www.buzzfeed.com/jp/keiyoshikawa/toho-syoten

2019年4月22日月曜日

2019.4.21. 粗読講座 『霊枢』玉版第六十 (担当:土山)


◯『素問』にも「玉版」という単語が入った玉版論要篇が存在するが、そちらについて丸山先生は栞に「文章の調子が王冰撰の巻二十三の著至教論以下の篇々の文に近い。之又後代の作であろう」と著している。『霊枢』玉版篇を読み進めると、同様に後代の作品と思われる点がいくつかあり、そもそも「玉版」という言葉を用い出したのは後代なのではないか?

◯「鍼という細物に対して天人合一思想を持ち出すのはスケールが大きすぎるのではないか?」という黄帝の質問から始まるが、「人を救う鍼を人を殺す武器と比べて過少に評価することはできない」という旨の岐伯の回答は、『老子』(25)の理想人の代表として道を体得したものが王となれる、や『老子』(31)に君子は争いを好んではいけない、といった『老子』の君子像に沿った答えだと思われる。

◯発→ひらく、貯蔵庫をあけて救済する
癰疽を形成するのは人体にとっては救済措置、外から見れば「浸潤」のようなもの?

◯「両軍相当、旗幟相望」は王充の『論衡』にも同一文があることから、この『霊枢』玉版篇が後代の作品の可能性がある???『淮南子』兵略訓にも「両軍相当、鼓錞相望」といった類似文があるのでもう少し掘り下げないとわからない。
もし、『論衡』を引用したのならば、その背景に殷周革命の大戦「牧野の戦い」があり、後代に陰陽術数が戦争や政治に必要なものなのか検討された時代に玉版篇はできたのではないか???(『李衛公問対』にもそれを連想させるような問答がある)

◯「十死一生」は玉版篇のみに登場するが、日本の陰陽道では「戦いを一切してはいけない凶日」を指す。この由来になった中国古典が何か分からないが、玉版篇前半は天人合一思想と陰陽術数を連想させる点が多い。

◯後半部分は治療した患者の予後や、治療の適否について「逆順」と称して論じている。

◯丸山先生の栞に「本篇で歴史的に注視すべき点は 岐白曰.能殺生人.不能起死者也.(鍼による治療が適切でなければ生きるはずの人間を殺してしまい、鍼による治療が適切でも死んだ人間を救うことはできない)の文である。唐代の医書である『外台秘要』では此の文を引用して、灸については記述したものの、鍼術は一切カットして了った。この『外台秘要』以降、鍼は特別に危険視され、鍼術は衰微の傾向を辿るに到ったのである」とある。


感想:兵法的文面を探していたところ、本篇には「両軍」とあることから今回テーマに選んだが、『孫子』ほどの兵法は一切展開しておらず、どちらかといえば歴史的変遷を探る名目で研究するのが望ましく思えた。岐伯が黄帝に理想の君子像をほのめかしたり、予後不良の患者がかなり詳細に記されていることから、何かはっきりとしたモデルがいてもおかしくないような文面が興味深かった。最終的に、唐あたりに紛れ込んだ可能性も否定できない。今後も追求していきたい。




2019年4月2日火曜日

令和

『霊枢』終始(09):故寫者迎之、補者隨之、知迎知隨、氣可令和。
『太素』巻14・人迎脈口診:〈楊上善〉曰:……可以針導引令和也。

2019年3月31日日曜日

2019.3.17 粗読講座 『霊枢』大惑論第八十(担当:米谷)

・前段は眩暈とそこから発生する「惑」について。
・眩暈の病理については、書き方がやや込み入っており、先に『諸病源候論』目眩候を読んでからの方が理解し易そうだ。

・後半は健忘・睡眠などについて。「巡らすのが大事」
・疑問点。衛気が、陽を行くと陽気、陰にあると陰気、という書き方である。
 衛気が陰に行くと陰気になってしまう。そもそも気は一つなのか?いくつもあるのか?
 陽の働きをするから陽気、陰の働きをするから陰気(という考えがある)
 陽の特徴があるから陽気、陰の特徴があるから陰気(という考えがある)
 陽気と陰気は、源が異なる、まったく異質のものなのか?(例えば衛気は「悍氣之慓疾」から出ている)
 それとも気はあくまでも一つの「気」であり、場面によって、場所によって陰陽真逆の働きをしてしまうだけなのか?
 そもそも血と気は不可分である、という説も聞いたことがある。
 気血は不可分
 →気と血が分離
 →気は一つだが、場面・場所によって違う働き
 →生成段階から陰気・陽気など異なる気として作られる
 という認識の発展があったのかも?